私と嘘のルール
いつから私は本当のことを言わなくなったのだろうか。そのはじまりも思い出せない。
良い嘘と悪い嘘がある、と人は言う。相手を傷つけない方便は優しさ。自分を大きく見せようとする虚栄、誰かを貶めようとする虚構。
私のつく嘘は、どちらだろう。私の嘘はこう。自分にまつわる本当のことは何一つ言わない。それが私と嘘が結んだたったひとつのルールだった。
派遣先の休憩室やお喋りな美容師に髪を切られている時。バスで乗り合わせた人に、どちらからいらしたの、と訪ねられた時。私は息をするように、嘘をつく。
生まれは全国津々浦々。仕事はカブトムシの養殖業者から障害者歯科医院の助手。私はそれを空想しながら話す。嘘は次第に熱を帯び、ディテールの濃度は増していく。
そうして私は、自分でついた嘘にいつの間にか溺れて、騙される。カブトムシ、全身麻酔を掛けてやっと口を開ける子どもは真夏の蜃気楼のように立ち上って消えた。
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