第16話
俺たちはビルの最上階にある事務所に通された。
テーブルについたベルカの周りを、チンピラどもが取り囲んでいる。全員、ベルカに向けてはいないが、銃を抜いていた。
「おーおー、ホントに戻って来やがった」
エレベーターから降りてきた
ベルカが立ち上がり、
「昨日はごめんなさい」
ぺこり、とベルカが頭を下げると、途端にチンピラどもが食ってかかる。
「ざけてんじゃねえぞクソガキ!」
「
「まーまー、お前ら、いいじゃねえか。こんなもん、怪我にも入らねえ。それよか嬢ちゃん、わざわざ詫びいれるためにツラ見せるなんて偉いなァ」
ベルカを挟んで反対側のソファにどかりと腰を下ろして、
「それに昨日の逃げっぷり。ありゃたいしたもんだ。嬢ちゃん、生身じゃねえな?」
ベルカは答えない。
「ま、そんなこたぁどうでもいいか。んで、わざわざ来たんだ。話くらい聞いてやるよ」
「倉庫にあった荷物を返してください!」
「いいぜ」
「お願いです! ……え?」
食い下がろうとしたベルカが、目を瞬かせる。
「返してやるって言ってんのさ。人のモンを返すのは当たり前だろ?」
「ほ、ほんとですか!?」
▽ベルカ、落ち着け……。
目を輝かせるベルカに、
「ああもちろんさ。だがなぁ、大変だったんだぜ?」
「なにが……?」
「嬢ちゃんの荷物、一回は売っぱらっちまったんだ。おいおい、こっちは正当な手続きを踏んだんだぜ? 倉庫を畳むとき、期間内に荷物を回収しなかった場合、所有権を放棄したものと見なして売却いたします、ってな。それを方々さがしてなんとか買い戻してやったんだ」
「え……?」
「それがもう大変で大変で。ウチの若い衆も総出よ。しかも買い戻すのにずいぶん金もかかった。この出費、当然嬢ちゃんが払ってくれるよな?」
「え、え……、あの……」
▽ベルカ、嘘だ。コイツの言ってることを信用するな。
そこには、高級車でも買ったのかというほどの金額が書いてあった。
▽バカにしやがって。なんだこの金額。
「これ、請求書な。嬢ちゃん、払えるか?」
ベルカが青い顔で、首を横に振る。
▽ベルカ、こんなとこさっさとおさらばしよう。こんな野郎とこれ以上話すべきじゃない。
ベルカの顔色に、
「安心しろって、なにもいっぺんに払えなんて言わねえよ? 自分で言うのもなんだが、こりゃ結構な額だ。嬢ちゃんにこれだけの金が払えるとは思えねえ。そこでだ」
「俺が嬢ちゃんに仕事を紹介してやろう。短時間でぱーっと稼げるチョロい仕事さ。嬢ちゃんぐらいの器量よしならなおさらさ」
▽ふざけんじゃねえこのスケベ野郎が……!
「?」
ベルカはまだ分かっていないのか、手元に寄越された書類をジッと見つめている。
読まなくても分かる。これは人身売買組織のやり口だ。
おおかた、この書類は
もしサインして契約を結べば、まず莫大な借金が背負わされる。借金の名目は大抵「新人研修費用」とかそんな感じだが、当然実態はない。ベルカの場合なら、さっき
借金を背負わされることで、契約者は
どうやらこの男は性風俗サービスで儲けている。社員となった者が「派遣」されるのは、このビルを占めるような売春宿や、大学や教会の目を逃れて「特別サービス」を求めてやって来る旅行者なのだろう。
つまり
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