第22話 ブイレブ村の崩壊と新たな出会い
〇〇〇ブイレブ村崩壊
「ジエイミ!」
私は父に担がれます。
その時の父は普段見る優しい表情とは違い気迫に満ちていました。
「パパ! ママが。ママが!」
しかし、父も涙をこらえていました。今思えばあの時の父は私よりも辛かったはずです。
最愛の妻を亡くしたのに、娘を守るために悲しむ暇すら与えられなかった。
村は火に焼かれ魔物が溢れかえっています。父は襲い来る魔物を次々に剣で蹴散らしていきました。
「ホワイトバレット!」
光魔法を放っていました……父が魔法を使えたことをこの時初めて知りました。
父は私を庇いながら戦っていたため、苦戦を強いられていたのでしょう。
「ジエイミ! ぐあ!」
私を狙った魔物の攻撃を体で受け父は傷つきます。
「パパ!」
「大丈夫だ……ジエイミは……パパから離れなければ大丈夫だから!」
その後も父は魔物を倒していきました……
〇〇〇先代四天王、刻焉のオルグエンドウ
そこに一際、異様な魔力を放つ者が現れます。
武装して戦った村人の死体を投げ捨てるとため息を吐いていました。
「ここの村の連中は強者揃いだと聞いた。だがどうしたことかこの体たらく……どこにも俺に傷をつける者はいなかったではないか」
「魔王軍四天王……刻焉のオルグエンドウ……そういうことか、この村を滅ぼしに来るのなら、貴様が訪れるのも必然」
オルグエンドウは私を狙い、攻撃を仕掛けるも、父の反応が上回る斬撃を繰り出す。
「よもや、この動きに反応出来る者がいるとは、お前が相当な手練れであると見た」
「娘を巻き込まないでもらおうか……貴様が興味があるのは私だろうに」
私は恐怖で何も言えませんでした。
「……守る者があるから人は強くなるか」
「セラフィック・サーベル!」
父は四天王相手にも決して遅れをとらない戦いを繰り広げます。
「スターシャインレイン!」
「そうだ……これだよ! 名も知らぬ戦士よ! その圧倒的な力、これこそ俺の望んだものだ……だからこそ、その娘を殺さなくては!」
「娘は関係ないだろうに!」
「お前は未だ本気ではない。戦士!」
「私は今貴様を倒すべく本気を出している、それは事実だ!」
「いいや……人の本気は真に憎悪を抱く者を殺したい時しか出ることはない。だからこそ、大切な愛娘を殺されたら、お前は怒りで俺を殺しに来るだろう?」
何を言っているのでしょうか、
オルグエンドウは戦闘狂です。恐らく戦うことでしか自分を見出せないのでしょう。
「俺を殺そうとしに来る瞬間のお前を俺は殺したいんだよ!」
再び私に攻撃が飛んできます。
「させるか! ホーリー・シールド!」
光の障壁で攻撃を防ぎました。
「くそ! どうして殺せてくれない! ただ俺はお前と本気で戦いたいだけなのに!」
「強き者と戦いたいのなら、何故弱き者まで殺す必要がある……私は貴様の思考が理解できない! 狂っているぞ!」
「必要ないからだ。弱き者は……彼らはいつだって俺の邪魔をする……」
「価値観が合わないみたいだな……これで終わりにする」
父は魔力を全開放する。周囲も異様な空気が流れるのが肌で伝わります。
「素晴らしい魔力量だ……」
「……ジエイミ。……ごめんな。お前には『力を抑制する魔法』をかけていたんだ。そうすれば……勇者の戦いとは無縁の生活が送れるからだ」
父は血を垂れ流しながら笑います。
「嘘だよ! パパ……そんなこと謝らなくていいから! 死なないでよ!」
「……どうも、そういうわけにはいかないみたいだ。どのみちこの怪我じゃもう助からない……これから先辛い思いをするかもしれない。泣くことだってあるかもしれない」
「嫌だよ! パパ! 死なないでよ!」
幼い頃の私はただ泣くことしかできませんでした。
「パパやママがいなくても……ジエイミの手を掴んで抱きしめてくれる者が必ずこの世界にいる。本当に信頼できる真の仲間を見つけられた時には……その人を頼るんだ」
「――ホーリー・ワープ」
すると私の後ろに空間ができます。
「嫌だ! パパ! いかないでよ!」
「貰った!」
その隙にオルグエンドウは父の急所を貫きます。
「パパァ!」
「残念だったよ、娘を逃がすために自分を危険にさらすなんて……!?」
父は私をその空間に突き飛ばします。
「パパ――」
「生きて『幸せ』になってくれ……お前を愛しているぞジエイミ!」
「何ぃぃぃ!?」
「ライトニング・アブソリューション」
凄まじい魔力が放出されました。
そして……
――
ブイレブ村が見渡せる場所に私は転移していました。あたりには魔物もいません。
次の瞬間。凄まじい魔力の爆発が起きます。
ブイレブ村を魔力の光が包み込んでいきました。
「パパ……パパ!」
魔王軍は撤退していき、ブイレブ村は壊滅したことになります。
そうして、この日に私は両親と故郷を失いました。
〇〇〇謎の便利屋さん
村が壊滅してから数日間森の中を歩いていますが一向に終わりが見えません。
どこを歩いても木、木、木。食料だって見当たらず、生えている草などを食べていましたが、少し時間が経つと気持ち悪くなり戻したりもしました。
私が住んでいた村がいかに辺境の地であったか……思い知らされました。
気が付けば木々を見上げており空があります。
あぁ、倒れてしまったのだと手足に力が入りません。
お腹が空きました……喉が渇きました……
だんだん意識が遠のいていきます……
「水だ。ゆっくり飲め」
男性の声が聞こえ水袋が口に当てられます。すると体が水分を求め一気に飲み干すと当然むせます。
「ゲホゲホ……」
「言っただろゆっくり飲めと……全く」
背中を擦られます……息が戻ると、もう一度水を飲みます。
「……はぁ……ありがっ……ゲホゲホ!」
「俺はある男から依頼を受けた便利屋だ。お前はジエイミ・メダデスで間違いないな?」
この便利屋さんは、兜をかぶって屈強な肉体をしています。
「……はい。ジエイミです……あっ……」
数日ぶりに誰かと会話をしたことで自然と涙が出てきます。
ようやく私は……両親と故郷を失った悲しみが訪れることとなりました。
「ママも……パパも……死んじゃった……魔王軍にみんな殺されちゃったよ! いやだよ……辛いよぉ!」
涙を流して泣き続けました。その間便利屋さんはずっと私を見て声を掛けずにいます。
「どうして……大切な者ばかり奪われていくの? 私何も悪い事してないのに! どうすればよかったの! どうすれば……ママとパパは戻ってくるの……答えてよ便利屋さんなんでしょ!」
「死んだ人間は帰ってこない」
「分かってるよ! だから……だから!」
何が言いたいのか私にもわかりませんでした。行き場のない感情はどこへ向かえばいいのでしょうか……便利屋さんに怒ったってしかたがないのに。
「分かっているのなら好きなだけ泣けばいい。だが、栄養補給先だ。酷く衰弱しているからな」
私は便利屋さんに軽々しく担がれます。
「ちょ、え!」
便利屋さんは多くは語らない人でした。森を迷いなく駆け、途中で遭遇したモンスターも次々に倒していきます。
「怪我はないな、行くぞ」
何とか森から抜け出すと、草原が広がっています。
「相変わらず人を迷わせる森だ」
その後は現地調達したとても食事とは思えないものを食べさせられます。空腹のためか、身体は不味いと判断しても手が止まりませんでした。
衰弱した体は回復していきます。
「助けてくれてありがとうございます……」
「仕事だ気にするな、少しの間は俺が面倒を見ることになる。便利屋だ」
どうやら、便利屋さんと一緒に旅をすることになるみたいです。
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