第五章 ジエイミ・メダデスの勇者伝説編
第21話 最強の勇者であることを望めば望むほど
△△△とある村で起きた事件
「お母さん~今日のご飯は何ぃ」
これはカクセイラン王国にある、とある村の夕暮れ時、一人の少年は母親の作る料理を求めていた。
「今日もパンだよ」
「え~パンまた~いやだよぉ」
「仕方ないでしょ、このご時世魔王軍が活発になってこの辺も物騒になっているのだから、全く勇者は何をやってるっていうんだい……」
食卓は質素なものになっており、カクセイラン王国自体が不況に陥っていた。
魔王軍との争いのため軍備増強で税を挙げられているためである。
今、平民達は悲鳴を上げていた。
そんな時、ドシンっと親子のいる部屋が揺れる。
「ど、どうしたんだよぉ~怖いんだよぉ~」
「ま、まさか……」
母親が窓から外を覗いた。
「……ゴーレム、お前さん逃げるよ!」
「う、うわぁ~ん! パンは?」
魔王軍が無数のゴーレムを操り村へ侵攻してくる。
「やれやれ、なんで俺がこんな村を襲わなくちゃいけないんだよ……」
魔王軍軍曹。『連勤のオトザ』はため息を吐いた。
「まぁいいか、とりあえずこの村を破壊しなければ……悪く思うなよ、村人たちよ!」
村の男達は必死に家を守ろうとする。
「く、来るな! 俺達の村に来るんじゃない!」
「これがこっちの仕事なんだよ、悪く思わないでね……ゴーレム暴れてくれ」
「ゴゴゴゴゴ!」
オトザの放ったゴーレムは村で暴れようと……した。
〇〇〇ゴーレムスレイヤー
「加速魔法――オーバークロック」
加速魔法を制御できるようになりました。
「はぁぁ!」
目に映るゴーレムを私は悉く破壊します。
今回は間に合った。死傷者もいない……どこにも被害は出ていない。
「はぁ……なんで現れるんだよ勇者さぁ、さっきまで別の村を守ってたって聞いたよ? 他にすることないの? 暇なの?」
「あなた達から罪もない人々を守ることが私のすることです」
剣を構え、ゴーレムを操る男に仕掛けようとするも上手くはいきません。
「ゴゴゴゴ!」
「ホーリー・ロイヤル!」
ゴーレムの装甲を貫くことなど容易なこと。次、次、次……全て倒しきらないと!
「おいおい、一人でこの仕事量ってさ……少しはキャパシティ考えようって、こんなに俺の作ったゴーレム倒してどうするのさ」
「誰も巻き込まないためです!」
魔王軍の人は両手を上げる
「無駄は嫌いなんでね、降参するよ……そもそも俺じゃ勇者に勝てないし。俺は連勤のオトザ。魔王軍の軍曹だ」
すると、ゴーレムは彼の元へ戻っていき消滅しました。
「大体なんで魔王様はこんなことさせるのかねぇ、自分が一番強いって分かってるなら、勇者倒しに行けばいいのにさ、こんな下っ端なんかがする仕事じゃないでしょ」
「……魔王にそんな態度……あなたは魔王を尊敬していないのですか?」
「ないよ大体さ、俺は魔族の中でも結構強い方だけど別に力を誇示したい四天王の連中とは違うし、ただ今の自分の地位を守りたいだけなんだ」
「地位をですか?」
「魔王軍は出世すればいい暮らしできるし、家族だって養える。だからある程度仕事をこなす必要があったけど、勇者が出たんじゃ諦めたほうがいい」
こういう人もいるんですね。
「大体さ大層な大義とか理想を掲げても死んでしまったら意味がないんだよ。勇者も少しは休んだらどうなのさ、辛くないの? 過労死するよ」
「休めばそれだけ多くの人が危険な目に合います。勇者はこの国の象徴です。だから最強でなくてはいけません!」
「あぁこりゃ言ってもダメだな、まぁいいか。じゃあ俺はそういうことで……体に気をつけろよー勇者ー」
するとオトザは退散していきます。
これで何回魔王軍を追い払ったでしょうか、もう数えることもしなくなりました。
周囲の被害はなし、負傷者も……
「勇者様……ありが……ひぃ!」
村人さんは私を見ると悲鳴を上げます。
「魔王軍は撤退しました。怪我人は居ませんか?」
「だ、大丈夫です。それより……他の村を見回ってきたらどうですか? 魔王軍が侵攻している可能性だってありますから……こっちはもういいです!」
要するにもう私は必要ないということでしょう。村人さん達は誰も目を合わせてくれませんでした。
「……分かりました、それでは」
別の村にもきっと苦しんでいる人はいるはずです。
「なんか怖い……」「本当に勇者なんですか彼女」「気味が悪い」「魔王かと思った」「化け物みたい……」
そんな声が聞こえますが聞こえないふりをします。
確かに今の装備を使いすぎて真っ黒になっています。きっと、それを見て皆は恐れているのでしょうか……
ときどき思います……これが本当に勇者なのか……私は本当に勇者なのか。
私はエクシリオさんの代わりをしているにすぎないのでしょうか……
エクシリオさんは本当の勇者でした。今の私と比べても、全てが上を言っています。
あれ……?
視界が……
最後に眠ったのはいつでしょうか、疲労は確かにありますが、回復魔法のおかげで不眠不休の行動が可能なはずなのに……気が付けば倒れていました。
数分間だけ……目を瞑ろうかな……
〇〇〇ジエイミの憧れた勇者様
これは私が幼くブイレブ村が滅亡する前の話です。
私はカクセイラン王国の辺境にあるブイレブ村にて生まれました。
『勇者伝説』が好きでした。小さい頃父にもらったこともあり宝物です。
圧倒的な支配を目論む魔王に対し勇気ある若者が立ち上がる。
勇敢な仲間達はどれも魅力がありとても素敵です。
素晴らしいカリスマ性を誇る勇者の『エグネイト』
素晴らしい魔力を持つ魔法使いの『メルクリア』
素晴らしい防御力誇るタンク役の『ドビル』
あと回復役の『グリエルモ』
四人の勇者パーティーが魔王に立ち向かうのです。
魔王軍四天王も仲間達との協力で倒していきます。旅の途中でエグネイトとメルクリアは恋に落ち、婚約することになります。
ですが、勇者は魔王との戦いによって命を落としてしまいます。
亡きエグネイトを想い残されたメルクリアは悲しみました。
この部分は市販の絵本では書かれていませんが、父がくれた本には書かれてあります。
初代勇者パーティーの名前も、エグネイトとメルクリアの恋路も……誰が書いた絵本なのでしょうか?
〇〇〇ジエイミの夢
そしてその本を読み続けると次第に夢が出来ました。
「ねぇパパ! わたし、大きくなったら勇者パーティーに入りたい! そして、勇者様と結婚する!」
私は勇者パーティーに入りたいと思いました。
「ジエイミ。勇者というのは本当に強い者にしか務まらない。それに付き添うというのは相応の強さが必要なんだよ」
「だったらわたしは強くなりたい!」
「この前の村の駆けっこで最下位だったろ? 足の遅い子は勇者パーティーに入れないぞ」
私は走ります。何度も転んでも走り続けます。ですが一向に速くなることはありませんでした。
やがて成長し私には才能がないと痛感しました。みんなが当然のようにできることを習得するまでに時間が掛かります。
回りからはどんくさい。弱虫。臆病者と言われ続けて村では『泣き虫・ダメデス』と呼ばれていました。
友達にいじめられ、泣いて帰ってきた私を母に優しく抱きしめられます。
「ママ……私は本当に何やってもダメなんだ。どうしたらみんなみたいにできるの?」
「ジエイミはそのままでいいんだよ……できないところは誰かを頼ればいいって」
「よくないよ! このままじゃ私は勇者パーティーに入れない!」
「どうして勇者パーティーに入りたいんだい?」
私の夢だからです。でも時間が経てば経つほど、それが不可能であると分かってしまいます。
「それは、勇者様と結婚するため」
「でも、その勇者様は魔王との争いで死んでしまうんだよ? 大切な人が死んだら悲しくはならないのかい?」
「それは……私が守るもん! 例え今がダメダメでも……絶対いつか成長して、勇者様だって守りたいんだ!」
「……私はジエイミが心配だよ。危険なことはしてほしくないというのが親心なんだけどね。でも、ジエイミがそう決めたのなら進めばいい。パパには内緒だよ?」
母は私の夢を影ながら応援してくれていました。
「ママ……ありがとう」
「本当は普通の人と結ばれてほしかったんだがね……でも、約束してくれ」
「何を?」
「お前が最期に目を瞑る瞬間を『幸せ』だったと言い張れる生き方をしてほしいんだ。それが子が幸せでいて欲しい親の願いだよ」
これが……私と母が交わす最後の言葉でした。
「うん!」
――ドゴン!
「――え」
そして異常な魔力の波動が母を消し炭にしました。
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