第5話 勇者パーティーを追放された弱虫な私はその涙を見せないことを誓います!


〇〇〇ジエイミの追放


私はジエイミ・メダデス。訳あって勇者パーティーから追放されました。


元はと言えば全て私が悪いのです。


「エクシリオさん!」


エクシリオさんは落ちていき、やがて見えなくなりました。


「……いくらエクシリオでもこの高さから落ちて、無事ではいられないでしょう」


「助けに行きましょうよ! 今から私達が行けば間に合うかもしれません!」


「それはやめといたほうがいいな、この吹雪の中で彼を探しに行って俺達まで死んでしまっては埒が明かない」


「だけど! エクシリオさんが!」


「そもそも誰のせいでこうなったか? 分かっているのか?」


「え」


ヤィーナさんは私のことを嫌っています。


「エクシリオが死んだのはお前のせいだジエイミ。俺は確かに見たぞあいつがお前を庇うのを」


エクシリオさんが……死んだ? 私を庇って?


「あぁ、くそが! エクシリオは魔王を倒すはずの勇者だったのに! こんな雑用を庇って……」


「う、嘘ですよね……だって、あのエクシリオさんですよ……いつだって凄くて強くて完璧な勇者で……」


「いいや、人は死ぬ。どんなに強い奴だって、何かあれば死んでしまうのだ」


「……そうですね助かったとしても、すぐに雪に埋もれてしまいます……誰にも見つけてもらえなければね。惜しい人を無くしましたエクシリオ……」


二人は諦めムードでした。


どうして? だってエクシリオさんはこのパーティーのリーダーで人望だって厚かったです。


もし仮に私であれば納得がいく。何も役に立っていない仲間が落ちたとすれば探さないのも当然です。


どうして二人は探す素振りを見せないのでしょうか……


「更に吹雪いてきました……一旦戻りましょう。この吹雪ではどのみち無理です」


私は何も言えずに引き返し、街へと戻りました。


悔しかった……あの時に二人の反対を押し切って探しに行きたかった。


それは私に勇気がなかったから……本当にダメなのは私自身です。


温かい部屋の中で冷たい時間が過ぎていきました。


翌日も何事もなかったように時間が過ぎていき、二人はエクシリオさんの死を悲しむこともなく、依頼を果たそうとしています。


私は心ここに在らず。雑用すらまともにこなせませんでした。


だけど、何とかモンスターを倒すことに成功し、街へと戻ります。


そして……


「正直に言う……ジエイミ。お前はこのパーティーに必要ない」


「え……」


「大体お前は何をしているというのだ? 今回のクエストですら足を引っ張っていた。雑用としても役に立っていない」


何も言い返せない。


「そもそも、お前はエクシリオがお情けで入れた余興でしかないんだよ。その余興すらできず、それどころかエクシリオまで死なせた……どう償うわけだ?」


そう、私のせいでエクシリオさんは死んだ。


だからこれも全部私への罰なのだ。


「こんな無能なパーティーメンバーは追放するに限る、クビだ」


マジョーナさんも同意見らしい。


「ご、ごめんなさい……私は、何もできなくて……」


「とっとと去れお前の顔は見たくない。金輪際二度と絶対に! 勇者に関わるんじゃあないぞ! ジエイミ!」


そして、私は勇者パーティーから追放されました。


〇〇〇ジエイミの過去


拝啓。今は亡き両親へ私はまた一人になりました。


例え孤独でもあなた達から与えられた愛情だけは今も忘れていません。


ですが、約束した『幸せになること』は未だ遠い先の話です。


私のせいで大切な人がいなくなってしまいました。


エクシリオ・マキナ。彼は気高く勇敢な戦士まさに勇者に相応しい人物でした。


どんな危機的状況でも挫けずに魔王討伐に尽力を注ぎ、沢山の人を救ってきました。


そして、私も救われた一人です。


魔王軍によって滅ぼされたブイレブ村出身の私を受け入れてくれたのも彼です。


勇者パーティーでミスをしても彼がいつもフォローをしてくれました。


ですが……私は期待に応えられなかったわけです。


エクシリオさんのような強さが少しでも私にあれば……何度考えたことでしょう。


彼は時折、酔いつぶれた時に変なことを言います。


『ラーメン。ザーサイ。チャーハン。ギョウザが食いてえよ』と


その食べ物は私の知るところにありませんが、きっと美味しいものなのでしょう。


きっとそれを子供達にも食べられるような世の中にしたいと考えているのです。


エクシリオさんは子供に優しく普段はしないはずのサインを書いています。


多忙な身でありながらも、未来を担う子供に夢を与えるなんてなんて素晴らしい人なのでしょう。


その他にもエクシリオさんの魅力は沢山あります。私の中では先代の勇者ですら敵うことのない歴代で最高の勇者だと思います。


でも、そのエクシリオさんは私のせいで命を落としました。


だからこれは罪の告白です。そして覚悟です。


――もし、魔王が姿を現したとしたら……彼の代わりに、私が倒したいと思います。この命に代えても……



〇〇〇ジエイミの大冒険


追放されてから数日が経ちます。


エクシリオさんの死はカクセイラン王国全域に広がり皆が悲しみに満ち溢れていました。


しかし、死因が事実と異なりました。


魔王軍による不意打ちで殺されたと情報が出回っており真意は定かではありません。


一体どうしてそうなったのでしょうか……


普段雑用ばかりをやらされていてろくに戦闘にも参加できませんでしたが、何かの時のために貯めておいた貯金を切り崩し武器屋で剣を買いました。


安物なのでいつ壊れるか分かりませんがまずは簡単なクエストを受けることになりました。


確かエクシリオさんが簡単に倒せると言っていたモンスターがいたはずです。


ヘルファントム・ロード討伐依頼。これだ!


早速依頼書をギルドの受付嬢へと渡します。


「ヘルファントム・ロードの討伐。ギルドによる保険金は出ませんが大丈夫ですか?」


「大丈夫です」


外野の人がひそひそと私を見て話している。簡単な依頼だからってそんな笑うことないのに。


「ヘルファントム・ロードですか……死ぬなあいつ」


「そもそも、誰も取らないでしょあんな依頼。随分な馬鹿がいたものだな。がははは!」


恐らく、初クエストを受けた初心者だからと脅かしているのでしょう。


私は無視してヘルファントム・ロードの元へ向かいます。


火山地帯。恐らく炎系の何かだとは思っていました。


少し暑いですが、雑用で鍛えられたこともあります。


すると、依頼とは違うモンスターが襲い掛かってきます。


「ぐるるるっ!」


フレイム・リザードマン。


この火山地帯に生息するモンスターであり、この剣を使うのにはちょうどいい相手です。


咄嗟に剣を抜くとなぜだか力が溢れていきます。


すると自然とスキルが浮かび上がっていきます。


「スターシャインレイン!」


すると、雨の様に降り注ぐ剣先でフレイム・リザードマンを倒すことができました。


「倒せた……」


だけど、安心するのはまだ早いです。これぐらいは倒せて当然なのですから。次の相手を探しに行かなければ。


ホーリーサークル。ライトニングバインド。


沢山のスキルが手に入り、調べていくうちにどんどん増えていきました。


これもエクシリオさんが既に通過した場所なのです。ウォーミングアップにもならないでしょう。


そうしてヘルファントム・ロードへと辿り着きました。


かなり大型のモンスターで怒り狂い暴れています。


「ぐうぉぉぉお!! ぐうぉぉぉお!!」


既に討伐に向かっていた冒険者たちが陣形を作っていました。


「大丈夫ですか!」


咄嗟に駆け付け、ホーリーサークルでヘルファントム・ロードを拘束。


「急にどうしたんだ! 危ないぞ! 初心者が出てくる場面じゃない!」


そもそもどうして、こんな大人数で……


「話はあとでお願いします! セラフィック・サーベル」


セラフィック・サーベル。自らの剣を光に変えることでその武器の性質を問わず、好きに攻撃ができる使い勝手の良いスキルです。


飛んでくる火花を切り払いながら接近。


捕らえると、大きなひと振りを……


しかし、躱されます。意外と素早い。でも、


「ホワイトバレット!」


光の魔法を放ちヘルファントム・ロードに命中。


よし、効いている。


「やめろー! 死にに行くつもりか! 奴は街一つを簡単に飛ばすことのできる化け物だぞ!」


きっと、獲物を取られたくないから誇張していっているのでしょう。


「「「「逃げろ! 強力なブレスだ!」」」」


その隙にヘルファントム・ロードは大技の構えを取ります。周囲が灼熱に包まれ、冒険者達は避難しています。チャンス!


だから、ここで一気に!


「ライトニング・アブソリューション!」


先ほど覚えたスキル。光剣に自らの魔力を高め大きな一撃を放つ。


「いけぇぇぇぇぇ!」


衝撃と共にヘルファントム・ロードまだ健在。だけど怯みはしている。


「嬢ちゃん、大丈夫だったのかい? 怪我は」


冒険者が戻ってくると驚いています。恐らく練習の相手にここまで本気でやらないと勝てないと言いたいのでしょうか。


「大丈夫です。だってこれは練習相手ですから」


「「「「え?」」」」


何か食い違っています。


冒険者達は大きな怪我を負っており、かなりあのモンスターに苦戦していました。


そしてエクシリオさんの言う簡単とは、果たして世間一般的な簡単なのでしょうか?


「だってこのモンスター命知らずの冒険者たちが束になって集まっても勝てないんだよ!」


私は大きな勘違いをしていたようです……恐らヘルファントム・ロードは街を吹き飛ばす力を持っていた。


つまり、目の前にいるのは圧倒的な強敵。


そして、先ほどの一撃で私の魔力は尽きかけていました。


「ぐうぉぉぉお!!」


ヘルファントム・ロードの猛攻に防戦一方ですが、どうにかしてこの状況を変えなければいけません。


「嬢ちゃん下がれ! こんなところで死ぬのはお先真っ暗な狂った俺達だけでいいって!」


「いやです。もう……私は逃げません!」


恐れが生まれていた。そう、これは弱い私。怯えていた私。きっと、勇者パーティーにいたころの私ならとっくに逃げ出していたでしょう。


でも今は守ってくれる人はいない。一人の冒険者です。


……エクシリオさん。あなたの伝えたかったことがようやく分かりました。


私は漸く貴方の進んだ道へ踏み出せます。


一か八か。玉砕覚悟ではある。


その恐怖、その怯えは……勇気に代わるのだと。


だから、弱虫だった私なら……どんなことでも!


「ライトニング・アブソリューション!」


尽き欠けた魔力で最後の一撃を振り絞る。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


今迄で出したことのない、最大出力の一撃でヘルファントム・ロードを真っ二つに引き裂く


「ぐおおおおおおおお!!」


凄まじい雄たけびと共に吹き飛ばされています。


だけど、勝利だけは確信できました。


「私の勝ち……」


〇〇〇そうしてジエイミは


ここは……


「おーい! 嬢ちゃんは目を覚ましたよ!」


先ほどの冒険者達です。


意識を失っていたみたいです。


どうやら荷台に乗っているみたいです。以前は運転していた側でしたので何か新鮮です。


「しっかし、嬢ちゃん凄いねぇ、あのヘルファントム・ロードを倒してしまうなんて……しかも初期装備でしょそれ」


「お恥ずかしながら、このクエストが私の初陣です……」


「え、それって冗談じゃないの……だとしたら。嬢ちゃんが『次』の『勇者候補』かもしれないね。これは最初の伝説に立ち会えちまったかもな」


「え」


「だって、それだけ強いんだ。謙遜しなくていい、嬢ちゃんの力は恐らく魔王軍四天王を追い払った先代の勇者エクシリオ・マキナに匹敵すると思うね」


「そんなわけないじゃないですか、エクシリオさんはヘルファントム・ロードは弱いと言ってましたよ」


「嘘だぁ? じゃあなんで殺されたんだ?」


「それは……」


ここで怖気ずくな、ジエイミ・メダデス。


そう、私はここから始めなければならない。


例えどんな状況でもエクシリオさんは諦めなかった。


もし私に力があり、勇者候補になれるというのなら……私があの人の想いを継ぐんだ!


勇者になって……魔王を倒す……それが彼がやろうとした高潔な目的であり。


私にできる唯一の償いだ。だからやるしかない。


「……きっと、私が勇者になるためです」


「嬢ちゃん?」


「だから、私が魔王を倒して世界を救います!」


これは決意だ。これから先後戻りができないように……


始まってしまったものはもう止まらないのだから……


―――第一章。完!

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