第4話 ジュゼッペ・ダッラ・ベッティオル伯爵別荘屋敷大事件(下)

☆☆☆書庫にて


何も起きない殺人事件の舞台に嫌気が指すが、どうにも不安材料が多すぎるため安心もできない。


確かに動機となるような小さい事件はその後も立て続けに起きた。しかし殺人事件になることはない。


しっかし、あの血の文章を破いたメイドさんが気がかりすぎる……


たまに視線もこちらに向いている時がある。決してモテ期が訪れたわけではない。勘違いをしてはいけない。


そして本日も食堂で朝食を取り、それぞれの自由時間に……


怖いもの見たさでもあるが書庫へと訪れる。


そこには既に先客のメイドさんがいた。


「――邪魔をする」


「……」


返事の代わりにこくりと頷く。どうやら本を整理していたようだ。


近くにあった本を手に取り読んだふりをして、彼女の動きを見ていた。


自分の読んでいる本に気付き興味があるのか、こちらを向く。


「……勇者伝説ですか」


自分にぴったりの本読んでてよかった……この国の勇者伝説全く知らんけど。多分昔に魔王を倒した勇者みたいなものだろう。


「――あぁ。先人の知恵は参考になる……彼のような勇者に俺も憧れはする」


するとメイドさんは作業をやめて絵本らしきものを取り出した。


柔らかなタッチで描かれた絵本はこの世界の住人が昔から親に読み聞かせ続けられてきたものなのだろう。


「私は……こちらの勇者伝説が好きです」


「――こちらとの違いは?」


「話の内容自体は勇者様の持つ本の方が詳しく描かれています。ですが……この国の住人なら、こちらの方が思い出深いものです」


「――そうなのか、自分はそちらを読んだことがないのでな……」


「そんな人いるのですか」


「――戦いだけに生きてきたからな、できれば君に語り聞かせてほしい」


勇者なのに伝説を知らないことが恥ずかしいので聞いておきたかった。


彼女の中で考えることがあったのか少し時間が掛かる。


「……承知しました」


☆☆☆勇者伝説


かつて、圧倒的な力を持つ魔王がいました。


その魔王は世界を破滅に導かんとする魔力で各国を支配します。


瞬く間に死の国へと変えられた人々は絶望するしかありません。


しかしそんな中。一人の勇敢な者が魔王を討伐すべく立ち上がりました。


その者は優秀な仲間を引き連れ魔王に立ち向かいます。


激闘の末。その者は命と引き換えに魔王を倒し世界に平和が訪れます。


生き残った人々はその英雄のことを最も勇気のある者『勇者』と名付けました。


そして、長い間うたわれ続け、世界に平和が訪れたと思われましたが……


魔王は狡猾で自らの子孫達に自分と同じ世界を支配する呪いをかけていました。


呪いは子孫の中でも特に優秀な者に受け継がれ新たな魔王へと生まれ変わります。


そして時代同じく、勇気を持つ者が同じように目覚め魔王と戦い続けるのでした。


こうして、今ある平和は沢山の勇者の力によって守られています。


完。


☆☆☆メイドさん。


つまり、勇者伝説は奉仕の精神なのだ。


確かにいい話だと思うが、これは自己犠牲を肯定しているだけだ。


自分は正直に言えば嫌いだな。誰が世界のために死んでやるものか。


「勇者様は……この本の様になりたいと思いますか?」


「――生憎俺は伝説になるつもりはない」


それだけは彼女に伝えたかった。


「――魔王は倒す。だが自らの命を犠牲にするなんてことはしない」


「……ですが、命を代償にしなければ魔王を倒すことは不可能だと聞き及んでおります」


「――ある偉人は言った『やる前から死ぬこと考える馬鹿がいるかよ』これは、いちいち死ぬことなんて考えない。弱気になるから死ぬのだと……」


「深いですね」


あまり受けなかったみたいだ……名言なんだけどな。


「――読み聞かせてくれたお礼に何か話そう……そうだな」


そういえばメイドさんは笑いのツボが浅かった。ならこういった話はどうだろうか。


「――俺が渡り歩いたある国にジュゲムという話がある」


「聞いたことがない話ですね」


知らないのも当然だ。自分の元居た世界の代表的な落語なのだから。


「ある夫婦の間に男児が生まれ、長寿を願うことから寿限無(以下略)長助と名付けた話だ」


「名前長くないですか?」


「これは縁起のいい言葉の集合体で、この中から気に入った名前を取るはずだったのに、欲張って全部取ってしまったんだ」


要点だけを伝える。


「それを踏まえたうえで……寿限無(以下略)はその名の通りに元気いっぱいに育ちます。そして近所の子供と喧嘩してしまい、大きなこぶが出来てしまいます」


『うえーん。おばちゃんとこの寿限無(以下略)が私の顔ぶった!』


ここで、メイドさんは笑いをこらえるそぶりを見せる。占めた!


『ごめんなさいねぇ、うちの寿限無(以下略)があなたの顔をぶってしまったんだね、うちの寿限無(以下略)が』


『なんだって!? うちの寿限無(以下略)があんたの顔をぶったって?」』


「そうして、おばあさんも出てきました」


『なにかい? 孫の寿限無(以下略)~~」


「大騒ぎ、ところが、子供のこぶはどこにもありませんでした。すると子供は」


『あんまり名前が長いから、こぶが引っ込んじゃったんだよぉ~!』


覚え覚えでやってみたが案外話せるものだった。


「許して! ぶぶぶぶ! 許してください! ぶぶぶぶぶ!」


「――という感じだ」


「あーっはっはっは! だからやめてくださいと申しましたのに!」


「――そうしているほうがいいと、俺は思うぞ。結局人間は笑って明るく過ごしている者が勝ちなのだ」


「……そうですか?」


「少なくとも、俺は君と会話するのは嫌いではない」


「……」


それ以降メイドさんは黙り込む。


これで、あの怖い雰囲気振り払えたのだろうかな。


勇者伝説のことを知ることが出来たし収穫はあった。


戻ろう……


☆☆☆事件だ!


翌日の朝も食堂に集まっている。結局今日も殺人事件は起きなかった。


しかし一向に止まない吹雪の中で冒険者のストレスは着実に高まっていた。


「チヤラ! いい加減にしてよ! 大体メイド服でミニスカートなんてありえないのよ! それなのにあのメイドにミニスカ履かせたいって! メイド服というのはロング丈のが(以下略)」


そう、まずビチ美はメイドの魅力に気付いたのか厄介オタクの様に自分の目に見えている者しか受け入れられない人になっていた。


こうして、チャラ男と喧嘩している。


「まぁまぁ落ち着くっしょ。大体ビチーミだって短いの履いているのに、大体スカートなんて短い方がいいに決まってるっしょ。太ももみれるんだから。生足って大事っしょ」


そしてチャラ男もメイドの魅力に気付いていた。


オタクは腕を組みその二人の喧嘩を後方彼氏面して聞いている。


事の発端は自分がオタクとの会話の時にメイド服のミニスカについて話した。


メイド服のミニスカはこの世界にない文化らしく軽くパラダイムシフっちゃったらしい。


オタクは熟考に熟考を重ねた挙句。メイド服のミニスカは有りであると判断した。


「そもそもメイドは私みたいな~遊んでる人間には務まらない仕事なのよ~オクタくんに~聞いたんだけど~結婚前の女性が奉公に出されることが由来らしくて~なら生足出しているはしたないでしょ」


「いや、俺っちは~遊んでる女も好きだぜ? だって俺とビチーミの仲じゃん~」


「ふむふむ、ところで勇者殿はどう思われる? ミニスカメイドの発案者であろう? でゅふ……」


「――俺は別に……」


執事は紅茶をいれていた。とてもいい香りだ。


「ほっほっほっ! 何を仰りますか勇者様。書庫での会話を考えるに彼女をミニスカメイドに仕立て上げるのですよね?」


な ん で そ う な る ん だ い ?


確かにあのメイドさんは美人だけど……そもそも、美人にミニスカートというのはいかがなものかと……


「――そんな事実はない」


「僕は……でゅふ、見てみたいなぁ……」


「そもそもミニスカメイドという画期的な概念を与えたのは他ならない勇者様ですよ」


「――あくまで旅してきたとある辺境の国でそのような文化があっただけであり、決して俺自身の意見ではないぞ」


「ならば、彼女のミニスカメイドを見たくないと仰るのですね?」


意地悪な質問するなこの執事。


この会話はメイドさんにも聞こえている。確かにできることならミニスカメイドは見たい。


だが、今の自分はかっこいい無敵の勇者エクシリオ・マキナである。そうでなくてはならない。


「――もうこの会話は止そう。終わりで良ければその国に伝わるもう一つのメイドがいるのを思い出す」


「執事さん! やめましょう! 勇者様の会話は我々の常識を覆す……つまりパラダイムシフっちゃいますよこいつ! でゅふ!」


オタク発祥のパラダイムシフる。


要するに価値観を変える、パラダイムシフトの造語だろう……


しかし執事は諦めていない。


「ですが、これはミニスカメイドを見る機会です。落ち着いて」 


「――あー、何のメイドか忘れてしまいそうだー」


執事の会話を遮り棒読みで言った。


「え、マジ? ミニスカ以外の別のメイドって最強通り越して、絶対最強じゃん! やばくね? 執事さん聞いときましょーよ」


「正統派メイド以外は邪道……正統派メイド以外は邪道……」


ビチ美見た目に反して随分厄介な感性を持ってるなぁ……


「分かりました……年寄りの楽しみを……」


漸く執事は折れる。


「――冒険中にラビットホーンやキャットシーなどがいるだろう?」


ラビットホーンは町の外にいる比較的倒しやすい角の生えた兎のモンスターである。自分は倒せていないが。


同じくキャットシーも魔法を使う猫の妖精である。


この世界で言う兎と猫だ。


「知ってる~あの二頭って冒険者の女子部で結構人気あるよね~かわいいし~でも私もかわいいでしょ?」


「しかしなぜ、その二体……でゅふ」


近くにあった紙に簡潔なメイドを描く。


「――メイドの頭についているブリムがあるだろう? 例えばこれをキャットシーの耳に変えてみると……」


そして猫耳を……描いた途端。


「「「「!」」」」


食堂に衝撃が走る。


めっちゃ異世界来てる感じするな、この狼狽えっぷり。こういうのがやりたかったんだよ!


「……な、なに!? なんだといのですかでゅふ! そのメイド服!」


「――確かあちらの国ではキャットシーの耳をブリムに見立てることを『ネコミミ』というらしい」


「「「「ネコっミミ!」」」」


「名前まで可愛いのはさすがに反則~あぁめっちゃ可愛い~」


「おーおーやばいっしょ。これ……ラビットホーンもキャットシーっちも乱獲されるっしょ」


「おやおや、実に素晴らしい……」


「「「「ネコミミ! ネコミミ!」」」」


それからはもう簡単だった。暴徒と化した屋敷のメンバーはメイドさんをミニスカネコミミメイドへと……


「……どうして私がこんなことに」


顔は赤面しており非常にかわいらしい。


「あぁ、可愛い! 尊い! え、やばい~私より全然かわいいじゃん~あーもうやっば///」


「でぅっふうううううう! パラダイムシフるぅぅぅ!」


オタクは鼻血を吹き出し気を失い倒れてしまった。


「オクタ! 大丈夫っしょ!」


チャラ男が脈を確認する。


「……死んでる、かもしれないっしょ」


え、死んだの? え、なんで? 


しかし望まぬ形で殺人事件が起きてしまったというわけだ。舞台は殺伐とした雰囲気に戻る。


「え……なんで、どうなってるの!? オクタくん! オクタくーん!」


執事は医療箱を取りに行くため、食堂を離れるしかし一向に戻ってこなかった。


執事がいた部屋にチャラ男とメイドさんの三人で駆け付けると……


「どうなってるっしょ! 執事っち! くそぉ! 死に辻褄が合わさっているわけっしょ!」


医療箱を落とし鼻血を出したまま倒れていた。


「し、死んでる……かもしれないっしょ」


そして食堂に戻るとビチ美も鼻血を出して倒れていた。


「ビチーミ! し、死んでる……」


「どうしましょう……三名の謎の急死が起きました。本当に突然のことで……」


「やばい! やばいっしょ! このお屋敷に殺人犯がいるってことっしょ?」


視線は自分に向かう。


「――少なくとも俺を疑う必要はない。もし殺す動機があるとしてもこんな回りくどいことはしない。俺なら屋敷事吹っ飛ばすからな、そうなれば証拠すら残らない」


苦しい言い訳である。勇者の力を信じているからこそ通じる嘘だ。


「……確かにそうですね」


「どのみち勇者様っちがそんなことするわけないっしょ……なら、誰がこんなことを……そもそも、俺っちとメイドっちと勇者っちは三人一緒に行動をしていたっしょ。アリバイ成立っしょ」


そう、自体は謎だらけである。突然鼻血を吹き出して命を落としたオタク。執事。ビチ美……


そ ん な わ け な い だ ろ !


どう見てもミニスカネコミミメイドが可愛すぎて尊死したのだ。萌死ともいう。


しかし、この世界の人間にそんな概念は存在していない。何か特殊な呪いや魔術の類だと疑っているようだ。


あぁ! なんてことだ!


こんなことになってしまうならミニスカネコミミメイドの話なんかするのではなかった!


「くそ! せっかく分かり合えたっていうのに。どうしてこんなことになったんっしょ!」


結構仲良くなったよなこいつら。


まぁ何も起きない閉鎖された屋敷の中で自然とメイドの魅力しか話すことがなくなったしな。


そもそも本当に死んでるのかも疑わしいし。尊死なら仮死状態なので少ししたら復活するのだけど……


「そもそも、オクタだって普通にやればできるっていうのに……それにあいつがいなければメイド服の良さに気付くこともなかったんしょ! それに将来の夢は貴族になってメイドを雇いたいって! そんな願いすら叶えられないんっしょ!」


いや、そんなことやられても素直に悲しめないのですが。多分生き返るよ?


「ビチーミも! 本当は初心なのに遊んでる女のふりをして媚び売って……でもそれは弱い自分を隠すためのモンタージュだったんっしょ! 誰よりも自分に自信がないからこそ、誰かに守ってもらいたいからこんなに頑張っていたっしょ!」


あの見た目で処女かよ! あのビチ美! それに結構深刻な悩み持ってるじゃん!


「執事さんだって……公衆浴場を覗きで衛兵に捕まって『公衆なのになぜ見てはいけないのですか?』と、意味不明な言い訳で前の職を失って、やっとの思いで再就職してここで働いていると聞いたっしょ!」


執事さんだけしょうもなくない? 特に悲しい過去も何一つないどころか自業自得じゃないか。


「くそ……俺達っちは全員メイドで繋がり合えたというのに! どうして! どうしてメイド好きの彼らが死ななければいけなかったんしょ!」


犯人はどう見てもメイドさんだ。メイドさんが可愛くて死亡したと言っても誰も信じないだろう。


だから、チャラ男に必要なのは納得のいく答えなのだ。


☆☆☆解決編!


「――ふっ、あぁ、大体だ。大体分かったぞ。謎は解けた……真実はいつも初歩的なワトソン君の名にかけて!」


「何? 勇者っち……一体どういうことっしょ!」


「――まず状況を整理しよう。俺達は六人がこの屋敷に閉じ込められ、六日間を過ごした。そこでは確かに俺達は六人いたように思えた」


「ま、まさかっしょ?」


「そう、犯人はこの中にいない。つまり……俺達を影でこそこそと見ていた相手がいる」


「そう! それこそが『七人目』」


そもそもこれはミステリーではない。そう、適当な言い訳でっち上げ大会となっている。


「ですが、このお屋敷は閉鎖状態にあります。勇者様がこちらにいらしてから誰一人として訪れた者はいません。それに外は吹雪ですよ……七人目はあり得ません」


「外からは入れない。中からも出られない。そして窓や扉も壊された痕跡もない。この屋敷は密室とも言い切れるだろう」


メイドさんはうなずく。


「――だが、七人目はそれが可能な人物である。むしろ、この事件を起こし六人の中で争いを起こさせることが目的だったとすれば。今ここで言い争いをしていること自体が……思う壺なのだろう」


全く思いつかん。適当に言葉を並べている。


「であれば……七人目は……存在していると」


「あぁ、少なくとも俺はそう考えている」


「でもよ……そんなこと可能な奴っているのか? ……現に俺っちもメイドっちも気付いていないわけで」


正直自分にも全く心当たりが……いや待てよ。


「――俺が戦ってきた相手にそれが可能な奴が一人だけいる」


「何!? っしょ!?」


「……アークジャドウだ」


ほんとごめんなさいアークジャドウさん。あなたは何も悪いことしていないです。


「魔王軍四天王のアークジャドウですか……まさか、あの時の『四天王について知ってんの』ぶぶぶ……は既にアークジャドウの気配に気づいて、それをアークジャドウ自身に悟られることなく私達に伝えようとしていた」


え? あぁ、ナイス解釈だ!


「……そうなる。奴とは一戦交えたが影から影へ移動ができる。つまり、この屋敷が例え閉鎖的であっても、吹雪であっても関係がない。どこへでも手が届くのだ」


「じゃあ俺っち達っちは、アークジャドウの魔の手から逃れられないんっしょ?」


「――落ち着いた方がいい。冷静さを欠けるのを奴は狙っている。なぜ一人一人を襲ったのか? アークジャドウが狡猾な男であるからだ。その知略に俺は苦戦したのだ……」


「――だからこそ、ここでにいれば襲われずに済む……そして――」


「でゅふ……あれ、ここは」


予想外。まさかこのタイミングでオタクが目を覚ました……やはり単純に鼻血出して倒れて気を失ってただけだ。


「オクタ生きていたっしょ……でもどうして。確かにあの時」


やばい! 推理に矛盾が生まれてしまう!


「――俺がアークジャドウの存在に気付いて何もしてないと思ったか? こっそりと光による防御魔法を仲間全員にかけておいた。だから、恐らく致命傷になっていないだろう。少し意識を失っただけに留まった」


「そうでひゅ……勇者殿ありがとうでゅふ!」


「わ、私も~復活しました勇者様ありがとちゃん!」


「ほっほっほ……まさか四天王がいらっしゃっていたとは……これは存じ下げませんでしたなぁ……おもてなしが出来ませんでしたよ」


うるせぇ! ろくでなし。


そうして全員が戻ってくる。生還して何よりだ。


一体自分は何を推理していたのか? 真実なんて何一つないのに。


「――気付くことが大事だ。気付いたことにより、アークジャドウはこの屋敷から離れていった」


「そ、そういえばでゅふ……拙者も書庫に行ったのですけど血塗られた本が……」


「アークジャドウだ。恐らく血に飢えていたのだろう」


正直なんで血だったのかはこの際どうでもいい。こうなったらアークジャドウで押し切るだけだ。


「そういえば~ジャムがなくなったのって」


「――アークジャドウだ。恐らくは長期的に能力を使い続けているためにお腹が空かせてエネルギー効率のいい物を盗んだ。多分好物だったのだろう」


「そういえば……私の腰が最近痛くなってきたのは……」


「――アークジャドウだ。影の中から腰の血流を悪化させるツボを押したのだろう」


流石にそれに関しては歳のせいだろう。執事さん。


「そういえばっち――」


「――アークジャドウだ。アークジャドウだ。アークジャドウだ」


とりあえず全てをアークジャドウで押し切った。


「「「「「なるほど!」」」」」


全員を納得させることが出来た。アークジャドウめっちゃ便利だなぁ!


そ れ で い い の か ミ ス テ リ ー !


☆☆☆それぞれの道へ


吹雪は止み久しぶりの太陽が射す。


こうして自分を含めた六人は屋敷から抜け出すことが出来た。


「ひっさびさの太陽っしょ!」


「拙者太陽は嫌いでござる」


「でも~太陽に輝く私もすてぴ☆」


思い返せば随分長い時間だったような気がする。


メイドで始まりメイドで終わる……異世界ミステリーはこうして完結――


「……勇者様」


ミニスカネコミミメイドさんに話しかけられる。


「私、今の仕事を辞めようと思いました」


「「「「「え?」」」」」


全員が戦慄した。


メイドさんがメイドやめるって……それじゃあメイドの仲間達は……


「自由に生きたいと思いまして。私も冒険者になろうかと……」


自分の言葉が背中を押したのだろうか……すげぇ適当言っただけでも、誰かの笑顔になるならいい事なのかもな。


「ほっほっほ……それもいいのかもしれませんねぇ……旦那様には私から伝えておきます」


「まじで? 俺っち達と一緒ってこと? いいじゃんいいじゃん! なら、どこかのパーティー入るっしょ? 俺っちたちのとこも歓迎っしょ!」


「いや、ぜひとも拙者のパーティーでリーダーを……でゅふ」


「私も~」


皆がメイドさんを受け入れていた。最初は険悪だったのに、モテモテじゃないか。


まぁ、自分も出来ることなら、あのハゲと魔女追放して自分のハーレムに加えたかったなぁ……


「とりあえず、一人でやってみようかと思います。そしてある程度実力がついたら……」


自分の方を向くメイドさん。


「私を……あなたのパーティーに加えてほしいです」


え、マジで? 脈ありか? だけど……


「――実力があるのなら、俺は一向に構わない。だから頑張ってくれ」


こうして下山し、それぞれの場所へと戻っていく。


☆☆☆帰還。そして!


氷雪地帯を抜ける。帰りが徒歩で死にかけていたが勇者特権で通りすがりの馬車に乗せてもらう。


どうやら、ジエイミ達も無事で依頼を達成し近くの街で休んでいるようだ。


その街へ辿り着き、皆が泊っている宿屋の扉を開く。


「エクシリオ、どうして……?」


「お前生きていたのか? え?」


どう考えても歓迎されていなかった。


「――迷惑をかけた。少し事件に巻き込まれここに辿り着くのが遅れた」


落ち着け……落ち着け……まだ決まったわけじゃない。


「そ、そうかよかった。あの吹雪の中じゃ助けに行けなかったからな!」


「はい、でもエクシリオはさすがの勇者です。あの状況からでも生還できるのは!」


「――いいさ、ところで」


やけに焦っていた。はぐらかしているに違いない。だからこそ自分は確信を突く。


            


どこにもジエイミはいなかった。


「「……」」


二人は黙り込む。恐らく死んではいない。三人で帰ってきたという情報は掴んでいる。


「こ、これは~……」


すると、マジョーナが口を開く。


「彼女は勇者パーティー失格です。エクシリオはジエイミを庇い氷山から落下しました。ただでさえ足を引っ張っている。そしてエクシリオまで危険にさらすなんてこと……ありえませんよ」


嘘だ……ジエイミが追放されただと!


「だから、俺達が言ってやったのさ、お前は勇者パーティーに相応しくない。出ていったよ。エクシリオを危険にさらした罪悪感があるのではないか?」


しまった。完全に迂闊だった! どうして考えていなかったんだ。今までジエイミの追放を阻止できたのは自分が一緒に行動をしていたからだ。


氷山の一軒で完全に勇者パーティーと隔離された。


あんなメイド服の話で盛り上がっている時にジエイミは追放されたのだ。


クソ! これじゃあ自分の今までの努力が全て水の泡だ!


「それよりも、早く新しいメンバーについてです。去ったもののことはいいでしょう」


「そうだ。気にする必要ないな! ジエイミのことは忘れるんだ!」


終わった……もうすべてが終わりだ。


「ふ、ふざけるなぁあ!」


二人に怒声を浴びせる。


「なぜ、俺の許可もなくジエイミを追放したのだ! 確かに役に立っていなかったことは認めよう。だが! それで彼女を追放するなど早計過ぎる! 遅咲きの可能性だってあるものを!」


「落ち着けエクシリオ。別に死んだわけじゃないんだ、そこまで荒げることもないだろうに!」


今まで我慢してきたことも全てダメになった。


「あぁ! クソクソクソ! どうしてこう……お前たちには思いやりの心というものがないのだ! 彼女の知恵によって助けられた場面だっていくつもあっただろうに!」


「エクシリオ……」


二人の自分を見る目が冷たい。


あぁ、もう駄目だな。完全にこれはお終いだ。


「なんでそんな簡単に追放するんだよ! どんな時だって一緒に危機を潜り抜けた仲間だったろうに! くそぉ!」


「だから落ち着けってな?」


「……お前ら出ていけ、追放だ」


「「え」」


「お前たちがこんな奴らだと思わなかった。平気で仲間を追放する奴なんかとは一緒に戦えない」


「エクシリオ! 落ち着いてください。あなたには魔王を倒す使命があって……」


それも全部ジエイミがやることだ。どうせ自分は復讐されて終わりなのだ。


「いいや! 決定事項だ。仲間を追放したお前達こそが勇者パーティー失格である……鏡を見てみろ。そこに真実はあるのだ!」


自分はジエイミを追放した仲間を追放した。


かくして、勇者パーティーを全員追放し、バラバラとなった。


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