第2話 ゴブリン事変
☆☆☆この世界について
勇者エクシリオ・マキナに転生してから数日が経ちこの異世界について調べて分かったこと。
自分がいるこの国はカクセイラン王国と言い、漫画やアニメで見る異世界が舞台の各国となんら変わりがない。
剣と魔法が存在し冒険者やギルドもある。
そして普通の異世界より些か勇者への信仰が強いらしく、町を歩くだけで拍手の嵐だ。
しかも魔王軍四天王アークジャドウを追い払ったことから更に磨きがかかる始末。
もし自分が普通の勇者であったら、俺SUGE! ってなってたのだろうけど。
ステータスが雑魚すぎるせいで喜ぶのも……ねぇ?
そういえば先日、勇者に憧れている子供達にサインをせがまれたことがあった。
~~自分の回想
「あの、勇者さまサインください!」
自分とは違い明らかに未来に期待が見える子供達の姿。
誰か止めに入ってほしいなぁ……
「あー今は勇者は忙しいんだ。帰った帰った」
クソ盾ハゲがサインをせがむ子供達を追い払おうとする。
子供達は非常に残念そうな顔をしていた。
計画通り。サンキューなクソ盾ハゲ。
「――貸してみろ」
そこで自分は制止を振り切り子供達にサインを描く。
「いいのか? 忙しいのに」
この世界の文字が分からなかったので。
前世で見た適当なアニメの絵かき歌を思い出しながら描いた。
異世界に著作権ないだろうし大丈夫だろう。
丸ばっかのキャラクターだ。
「うわーなんかかわいいサインだ!」
「でもこれが勇者さまのサインですか?」
「――君たちが真の強き者になった時にそのサインの意味と価値が分かる」
適当な言い訳を並べる。
「すげぇ! さっすが勇者さまだ! 友達に自慢してくるー!」
とりあえず子供達には自分みたいな勇者に一ミリでも憧れてほしくない。
「ありがとー勇者さま!」
その純粋な笑顔が結構心にクるのである。
~~回想終わり。
そんな感じで勇者はとても人気者なのだ。
隣国にもたくさんの国があるが争いはない。
それもすべて魔王軍の存在が大きく関わっている。
魔王。この世界で討伐しなければいけない存在であり、きっと自分が倒すべきラスボスなのであろう。
今、人類サイドと魔王サイドは冷戦状態である。
アークジャドウの一軒も未遂で終わったみたいだし、大きな火種にはなっていない。
正直に言えば、このまま、普通の冒険だけしていたい。だって魔王に勝ち目なんかないのだ。
魔王を倒して世界を救うなんてステータスしていないのだから、早々に平和に暮らす方にシフトしたい。
そこで思いついたのが、自分が怪我をして勇者を引退することだった。
こんなゴミステータスで大きな期待を背負って、戦うなんて自分には無理だから。
勇者が死んだり引退すれば、別の勇者が現れるシステムらしいので、早くやめるに限る。
☆☆☆勇者パーティー
いつものように馬車の荷台に乗り空を見上げる。
相変わらず、クソ盾ハゲことヤィーナ・イッツはジエイミちゃんに当たっている。どれだけ追放したいんだよ
ヤィーナ・イッツ。タンク役でありながら剣の技量もあり、このパーティーの中でも一番レベルが高い。
軽い魔法も使えるらしく性格と頭皮を除けば優秀な人材である。
「――その辺にしておいてやれ。ヤィーナ」
「けどよぉ、エクシリオ」
「――この中に料理をできるメンバー彼女以外にいない。どれだけ食事で失敗してても、恐らくここの誰よりも美味いであろう」
「え、エクシリオさま……」
ちょっと、尊敬の念を向けているジエイミちゃんかわいいな~……っと、気を引き締めないと。
「エクシリオ。私にだって料理は出来ます」
マジョーナ・アンデ。このパーティーで二番目にレベルが高い女性。
魔力も高く上級魔法も回復魔法も使いこなせる優秀な人材。
ただ見た目が、年増なのと、何かしらマウント取ってくるその性格が自分は苦手である。
良く自分のことを見てくるのできっと気があるのだろう。
脈は全くないので関係ないが。
そして料理が辛いものが好きらしく、ジエイミちゃんが作ったものにかなり辛い調味料を入れている。
「――確かに味覚はそれぞれある。しかし」
ヤィーナに遮られる。
「マジョーナの食べているもんは人のものじゃないだろー!」
「そんなことはないです。このエクステンドバスコは一流シェフも唸る一品なのですから」
唸るって別の意味だろ、ジョロキアより辛かったぞそのソース。
「ご、ごめんなさい。私の料理が不甲斐ないばかりに……」
ジエイミ・メダデス。このパーティーの雑用であり、特定の魔法が使えるみたいだ。
あと、秘めた力を持っており、きっと追放された後に覚醒するやつだろう。
どんな地味スキルだってそうなる。
これはそういう世界なんだ。
後はこのうじうじしたあの性格を直せば、普通に強いのではないかと思う。少なくとも自分よりは……
☆☆☆本日の仕事。
馬車が急に停止すると戦いの合図だ。
「助けてください!」
その声と共に、自分は駆け出す。続いて仲間達も飛び出した。
平原で起きる珍事。
ゴブリンたちは女に目もくれず、若い男達を無数に連れ去らう。
大体ゴブリンのターゲットって、女性のイメージあったけど……まぁいい。
「ゆ、勇者様!」
「――勇者エクシリオ・マキナがここに馳せ参じる」
この世界に来て、ある程度戦い方を学んだ。
そして学んだところで全く実戦で役に立たないことを知る。
それほどまでにゴミステータスである。
だけど、やりようはあった。
無駄にかっこよく剣を構える。(光魔法でかっこよくサポート)
ゴブリンはこん棒による攻撃もあるが、噛みつき攻撃があった。
今回のターゲットは男が目当て。
何故だかわからないが、自分とヤィーナに標的は縛られている。
そして、ゴブリンは雄たけびを上げながら自分へと襲い掛かる。
初撃を剣で受け止めると腕に嚙みつかれる。
防具で守られているためこちらにダメージはない。
噛まれた瞬間周りに光魔法を放つ。
「――エクステンド」
そこで……あらかじめ防具に塗っておいたマジョーナの持つ激辛香辛料『エクステンドバスコ』が炸裂する。
例えゴブリンでもこの激辛に耐えられはしないだろう……
「うご……ごごごごご……ぎゃぁぁお!」
おや、ゴブリンの様子がおかしい?
緑だった肉体はみるみる赤くなっていく。
「ゴブ! ゴブ! ゴゴゴゴ……!」
「エクシリオなにがあったのですか?」
マジョーナ達が異変に気付いた。
「――少し手こずった……ゴブリンの様子がおかしい」
タンクのヤィーナが盾を構える。
「ゴッ! ゴッ! ヒーヒーヒー!」
ゴブリンは火魔法を放つ。ヤィーナのタンクは優秀であるため、こちらに攻撃は届かない。
「何? 火魔法を使うゴブリンなんて聞いたことないぜ。まさか……」
ゴブリンに激辛香辛料食わすと火魔法を使うようになるのか?
「――特異個体か」
しかもほかのゴブリンより強そうだ。
「ごぶ! ゴゴゴ! ゴブー!」
赤いゴブリンは一人で森へと消えていく。
「……一体何があって」
マジョーナの激辛香辛料食わせたらこうなったなんて絶対に言えない……やばいやばい。言い訳を……
「――恐らく魔王軍の仕業だろう」
「ひぇ……火魔法のゴブリンなんて……恐ろしいです」
ジエイミちゃんはいつも震えているね。だけど、他の二人も疑う素振りは見せない。
ごめんなさい魔王軍。全く関係ないのに。
「――だとしたら、ギルドに報告をしなくてはいけない。新種のゴブリンが発見したと」
☆☆☆激辛ゴブリン
かくして、ギルドへ戻り説明義務を果たし、今は酒場へ訪れている。
酒はあまり入っていない。あくまで作戦会議のために使っている。
ここは恐らく知能担当であろうマジョーナが仕切っていた。
「あのゴブリンは完全に新種のゴブリンです。ギルドから発見者のエクシリオの名にちなんで『ゴブリン・ヴォルケーノ・マキナ』と名付けられました」
激辛ゴブリンの方が良くない? 辛いもん食べただけでそんな大層な……自分の名前のせいでラスボスみたいになってるし。
「調査班によると今のところ目立った活動はしていないみたいです。人を襲わなくなりました……奇妙な個体ですね」
「――だが、襲わないという確証はないのだろう?」
「そうなります。さすがはエクシリオ。対面してみてあなたは何かを感じましたか?」
激辛ゴブリンを思い返す。火魔法を放つときも何か苦しそうだった気がする。
「――血に飢えているように感じた。少なくとも突然変異によって出来上がった赤色だ。普段緑色のゴブリンの中に赤色がいれば変にみられるだろう」
また適当なことを言ってごまかそう。彼女が大きく解釈してくれるだろう。
「つまり……ゴブリン・ヴォルケーノ・マキナは群れから追い出された一匹狼の存在……もしかすれば大変なことになるかもしれません」
え、大変なこと?
「――まさか」
「そう、それこそ魔王軍の思惑の死の炎が訪れる」
やばい。自分のせいでなんてさらに言いにくくなった。
だって、そんな大事にならないと思うじゃん。
ゴブリンですよ? 赤くなって火魔法を使えるだけだよ?
ヤィーナの盾で防げる魔力ならそんな強くない。
「明日には討伐隊が組まれるでしょう。私達もここに参加することになる。指揮はエクシリオが直々に取ることになると思います」
「――あぁ、そのつもりだ」
「だがよ、そのヴォルケーノがもし、四天王と同等の強さを持っていたとしたら……討伐隊も半数が死人が出るぞ? 何せエクシリオが手こずった相手なんだろ?」
「そ、そうですよ……」
そうやあ自分。四天王より強い設定なんだった……それが倒せなかったゴブリンって、相当強いってことなんだけど。
多分、少し強いゴブリンだと思うんだよね。
「――安心しろ。俺が戦いの場に立つ限り。誰一人として死なせたりはしない」
「さ、さすがはエクシリオさんです……」
完全に自分頼みなジエイミちゃん……
☆☆☆ヴォルケーノ討伐!
翌日。町の外に百人ほどの冒険者が集められた。
歴戦の兵もいそうな雰囲気に潰されそうになる中。
リーダーとして全員の前に立つ。つまりこれからの激辛ゴブリン討伐作戦に対する演説が行われるのだ。
絶対こんないらないだろ人数……
「――勇者エクシリオ・マキナだ。今回はゴブリン・ヴォルケーノ・マキナ討伐への参加。心より感謝する」
殺伐とした雰囲気。冒険者達は死地へ向かう覚悟をしていた。
いや、怯えているものもいるようだ。
「――ここで一つ、死地へ向かう皆に話がある」
適当に……それっぽいことを言うしかない。
どこかの大佐のような演説は自分には無理だ。
なんか……かっこいいことを……
「――勇者は勇敢な者を指す言葉だ。無謀な勇敢さを生まれた時から備えていれば、その者は幼いうちに死を迎えるであろう。なぜなら恐怖や絶望を心得ていない」
全員が自分の話を真剣に聞いている。緊迫した空気は未だ途切れていない。
そこで声を荒げて喋る。
「この場に生まれてから一度でも逃げたことがある者はいるか! 一度でも死を恐れたことのある者はいるか!」
冒険者たちの空気は一気に引き締まった。
「だとしたら誇りに思うことだ。恐怖や絶望を身で感じたことを! 今皆が抱えているその感情は、その先に踏み出すための勇気になる」
「だからこそ! 俺は言いたい。生まれながらの勇者など存在しないと。踏み出したその先の結果が『勇者』という事実を作りあげるのだ!」
「敵を恐れろ! 死に怯えろ! 家族を想え! 恋人を想え! 己自身を想え! その想いこそが! 自らを強くする! 俺はもうその覚悟が出来ている! 皆はどうだ! 死に怯えるか! お前はどうだ! 何に怯えている!」
先ほど震えていた冒険者に問う。
「怯えています! この後の敵にです!」
「お前はそのままでいい! お前は!」
また別の冒険者に問う。
「魔王軍全てです!」
「奴らに認知させろ! お前は!」
そしてまた別の冒険者に問う。
「僕はこの先の人生が心配です!」
なんでそんなこと聞くんだよ。関係ないだろ!
「お前が見つけるんだよ! 自分の力で勝ち取って見せろ!」
そして問答を終え、再び全員に向けて放つ。
「いいか! 自らで決めるんだ! その恐怖も勇気も全てがこの戦いで答えを決める。俺に頼るな!」
そう、言いたかったのは自分頼りで話を進めたくなかった。
そもそも自分は激辛ゴブリンに勝ち目はないのだ。
演説も終わるが、誰もが言葉を発さない。
失敗したか? かなり適当なこと言ったし……
「「「……」」」
「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」
冒険者が全員雄たけびを上げた。
「勇者!」「勇者!」「勇者!」「勇者!」
士気は十分だ。いや、あげすぎたか?
「俺は! 絶対にやるぜ勇者のような、勇敢な生き様をしてやるぜぇ!」
いくら勇者信仰が根強いとはいえ異常すぎるだろ!
☆☆☆いざ!ゴブリンの元へ
それで、狂ったように士気が上がった中で勇者パーティーは最前線へ向かうこととなる。
他のパーティーも各地へ散らばり、そのほかのゴブリンの異常行動への対応。
調査班から報告があり激辛ゴブリンの居場所が特定できたらしい。
なにやらとある集落に逃げ込んだとの情報だ。
移動は荷馬車。いつもの場所に座り、その集落に辿り着く。
全員が下りると、ジエイミちゃんに声をかけた。
これは賭けでもある、そろそろジエイミちゃんが何かしらの成果を上げないと追放されそうなので。
さっきの演説を絡めて、自信をつけさせないと。
「――先ほどの言葉は、君へ送ったものでもある」
「え?」
「――君は、このパーティーで誰よりも怯えている。だからこそ変わる兆しはすぐそこにあるものだ」
「それは……私にできますかね?」
やはり不安は隠しきれていない。実は優秀なんだから、そんなに畏まらなくても。
「――あぁ、君は誰よりも臆病だ。だからこそ、その恐怖を乗り越えた先にある勇気が一番強いと信じている」
お、結構自分乗せるの上手いな!
「――そう、君は俺を除けば最も勇者に近い人間なのだから」
彼女は葛藤して、そして覚悟が決まりそうに――
「そんなわけないだろ!」
え? ヤィーナ? 急にどうしたんだよ!
めっちゃ強く否定したし、自分に盾を突くって! まぁ、タンク役だけど……って違う!
「ヤィーナ、どうしたそんな気を荒げ――」
「こいつは! どうしよもない臆病な奴だ! だから勇者になれるわけないだろ!」
どんだけ、ジエイミちゃんのこと嫌いなんだこのハゲ……これは私怨の類だろう。
彼女に両親や恋人でも殺されたか? だとしたら一緒に冒険者やってないよな、復讐が目的なら追放なんて生ぬるいだろうし……
だが、ヤィーナの考えがどうであれ、彼女を追放させるわけにはいかない!
自分が生き残るためには、何としても追放だけは阻止しなければならないのだ!
「――君の否定が一番彼女を肯定しているようにも聞こえるな、あまりに強い言葉には頼らない方がいいぞ、二度目はない」
何か言い返したいことはあるようだが、ヤィーナは黙る。
「わ、私、頑張ってみます。何ができるか分からないけど……」
よし、彼女のケアもしたところで激辛ゴブリンに集中しよう。
しかし、ジョーナの表情がおかしい。
「ど、どうしてここに!」
「――この村がどうしたというんだ? 地元というわけでもあるまい」
「違います。エクシリオ……ここは」
すると、マジョーナは隠し持っていたアイテムを出した。
あの激辛のエクステンドバスコ……なんで今出した?
「――そ、それがどうしたというのだ」
「はい。エクステンドバスコはこの村のカラスコの実が使われていまして……もしゴブリン・ヴォルケーノ・マキナにここにきてしまったら……不作になってしまうかもしれないのです!」
完全に私情じゃん……いや、待てよ……
ゴブリンが変異した原因であるエクステンドバスコの原材料がここにあるということは、故意に来ている可能性が高い。
激辛ゴブリンは同じく激辛を求めてこの村に来たのではないだろうか。
「――とりあえず、向かう。皆俺に続け!」
複数のパーティーが集落を詮索する。
すると、カラスコの実であったものが抜き取られていた。
「……これは、酷い。酷すぎます! こんなこと人間がやっていいことではないですって!」
無残な死体を見た時に言うやつではないか? あとやったのはゴブリンだから。
突っ込まないでおこう。
それよりも、今回の件でジエイミちゃんに功績を上げさせるのが自分の目的だ。
恐らく激辛ゴブリンの戦闘力はヤィーナがいればどうにかなるものだ。
そこに、ジエイミちゃんが攻撃したように見せて倒すことが可能であれば……
パーティーに貢献していることになる。
あくまで貢献すればいいのだ。そうすれば追放は免れる。
すると、激辛ゴブリンが姿を現す。
「ゴブ! ゴブ! ゴブ!」
しかし自分の予想は大きく外れていた。
明らかに昨日対峙したゴブリンとは別物だ。
真紅に滾る肉体は肥大しており、かなり獰猛になっている。
割と冗談じゃなく、アークジャドウ並みと言ってもいいのではないだろうか。
「なんだ、このゴブリン。エリート……いや、とっくに通り越してロードなのか!? だがそんな期間でゴブリンが成長するはずが!」
ヤィーナも驚いている。こっちも驚きたいよ。
「つまりは、ゴブリン・ロード・ヴォルケーノ・マキナということですか」
名前長いな!
「――恐らく魔王軍の仕業だ。ゴブリンに何かをしたに違いない……行くぞ!」
そして、剣を構え立ち向かう……も、
惨敗する。
既に自分はやられたふりをしていたため、ゴブリンからの攻撃を受けることはなかった。
炎魔法もこの世界で言う最上級魔法を使い、圧倒的なパワーを持っていた。ヤィーナの盾も消し飛ぶほどの威力だぞやばい。
「ゴブリンめ! ……くそ!」
殺されるのも時間の問題だろう。激辛ゴブリンは強くなっていた。全くもって計算外だ! 出鱈目すぎるだろう!
まずい……今の自分に逃げの手段は持ち合わせていない。
もし仮に逃げ果せたとしても、何にも役に立ててないジエイミちゃんが追放される。
そうすれば自分に待ち受けているのは……終わりだ。
「ゴブ! ゴブ!」
怒り狂うゴブリンは更なる魔法を唱えようとするも、別の場所へ向かう。
助かった……そもそも、なんでこいつ暴れまわっていたんだっけ。
「やらなくちゃ……私が」
ジエイミちゃんが立ち上がる。ヤィーナの盾で守られていたのだろうか?
だが自発的に行動できるようになったのは凄い!
「くっ……ならば、立ち上がらないわけにはいかないな」
自分もダメージはないので、立ち上がる。
「エクシリオさん……」
「少し食らってしまったが、俺もまだ大丈夫だ」
ダ メ ー ジ は な い の で
「私、気付いたことがあるんです……あのゴブリンは……」
☆☆☆ジエイミの力
傷ついた身体でゴブリンを追う。
だけど勝算はあった。いや、これを勝算と呼ぶのは間違っているだろう。
ポツンと廃墟の一軒家があった。
「……これは」
「やっぱり、そうでした」
「あのゴブリンは人に危害を加える種族ではないと思ったんです」
「どうしてそう感じたんだ?」
「調査班から話を聞いて、少しだけ疑問があったんです。あの子は自分がいた群れを追放されてしまって居場所がここしかなくなった。きっと好物だったのでしょう」
「そしてここにあるカラスコの実を自分の食料以上に奪っていった。その食材は、何に使うのか? それは自分と同じ仲間を増やすためだって」
あの激辛食わせたからな、確かにそう考えると自分に責任がある気が……
まぁ、今回の騒動自体が全部自分のせいなんだけど。
「あのゴブリンは辛いものを主食にしており、人間を襲わないのではないかと思うんです。私達に敵意があったから攻撃をしただけであって、殺傷能力はなかった」
まぁ、自分にとっては即死なんですけどね……
「そもそも、エクシリオさんは最初から知っていたのですよね?」
え? 何のこと?
「――だが、それは魔王軍の仕業で……」
「私見ていたんです。エクシリオさんが言ったんですよ『俺の背中を見ていればいい』って」
あの洞窟の時に確かに言っていた。え、それ以降ずっと見られてたのエクシリオちゃんに!?
「エクシリオさんはあのゴブリンが魔王軍に改造されていることを知って、あの時に光魔法を放った。エクステンド……浄化の魔法です」
あぁ、確かに光魔法放ったけど……あれはただの目くらましなのに、
「あのゴブリンは、恐らく心が浄化され、人間を襲う衝動が辛いものを食べることによって抑えられていたのです」
そ、そうなの?
「あのゴブリンを救っただけじゃ飽き足らず、私に自信をつけようとしてくれたんだって……」
そういう側面はあったけど……ゴブリンは完全に考えてなかったよ。
「あの言葉も本当は私だけのために言ってくれたものなのですね!」
「――漸く気付いたか」
まぁ、そういうことにしておこう。
するとジエイミは笑っていた。初めて見た笑顔であり、やはり美少女である。
普通に好みであった。
「……ありがとうございます。エクシリオさん。私頑張れそうです」
☆☆☆事の真相。
後日、知った話である。
激辛ゴブリンこと、ゴブリン・ロード・ヴォルケーノ・マキナは人類に無害であると証明された。
どうやら、あのゴブリンは群れを追放されるも、自らが変異した条件がカラスコの実であったと突き止める、
その原産地へ赴きカラスコの実を仲間のゴブリンに食べさせた。
すると同じく突然変異し辛いものを主食とするゴブリンが生まれる。
そしてその個体は人を襲うことは無くなった。
どころかあの集落の住人の手伝いをしていたらしい。
辛いものを主食にしているため住人との利害が一致したらしい。
そして自分たちが襲われた理由は単純に敵意むき出しだったため、この場所を守るための自衛だったと結論づく。
ゴブリンが人助けをするなんて全然考えなかったなー
今回の一件で人類がゴブリンに敵対する理由はなくなったのだ。
物事が丸く収まって結構安心したところがある。
そして一番の功労者は自分ではなくジエイミちゃんであった。
疑うだけの自分にはできない、信じるという行為。敵ではないと判断は考えもしなかった。
それだけ自分の言ったことが響いたのだろうか?
地味な印象は少し薄れるも、まだ気は弱い。
だけど、ヤィーナに対し反論もするようになった。
だからこそ、追放はまだ先の話だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます