【完結済み】パーティーメンバーを追放する最弱勇者に転生してしまった自分はざまぁ展開から逃れるため仲間の追放を何としても阻止します!

空現実

第一章 エクシリオ・マキナの勇者伝説編

第1話 勇者はまさかの最弱!? 虚勢で乗り切ります!  

☆☆☆死んでしまった!


「ああ、神様って本当にいたんですね」


今自分の置かれている状況。

目の前に後光を放つ巨像がある。


さっきまでの記憶は青信号の横断歩道を渡っている時に横を見ると大きなトラックが……


まぁ、つまりそういうことなのだろう。


『それはいるさ、いなければ死者の魂はどこへ向かうというのだい?』


それは紛れもなく神様の言葉だ。


「それで、僕は死んでしまったというわけですね」


『やはり君もか、最近理解が早い子多いんだよね』


案外ショックではなかった。このパターンは良くアニメや漫画で見たことがあるからだ。


内心わくわくしている。


自分自身がどうして死んでしまったか? 


そんなことは些細なことなのだ。


「神様がいる。そして僕の前に姿を現した……ということは異世界に行けるということですよね」


神様はうなずく素振りを見せる。


『若者の魂問題があってね、若くして亡くなった魂は、どうしても浄化に時間が掛かるんだ。だからいっそ、別の世界に転生させた方がコストがかからないのだよね』


「神様も大変なんですねー」


やはりか!


憧れは存在していたんだ。


「よし!」


『そんな喜んでるのは結構珍しいね。まぁいいか。本題を話すよ』


神様は一息つくと言う。


『君は今から別の世界で別の人間として生きてもらいます。神様特典で一つ特別な力を授かることができ、転生後の世界でもとても優れたものです』


おぉ、興奮が隠し切れない。チート能力系だ!


『では、君に問おう何の能力がほしい?』


ここは大事な問いだ。冷静かつ沈着に行こう。


ファンタジー世界だと仮定しても、やはり勇者が魔王を滅ぼす物語が鉄板だ。


ひねくれた『実は最強系』はいらないし、普通に女性にモテて無双がしたいだけだ。かっこよく!


「……勇者らしい能力がほしいです」


『勇者らしい能力か、分かった。それで行こう』


神様が何かを唱えだすと周囲は光輝く。


『それでは君は今から別の世界、ん? あれ? あ! やべ!』


神様の声が不穏になる。


「え、ちょっとどうしたんですか神様? 歯医者に行った時に聞きたくないワード一位ですよそれ!」


そのまま神様の声も消えていく。


光に溶けていく世界。自分という存在も同じく溶けていくように感じた。


☆☆☆転生完了!


目を覚ますと馬車の荷台に座っている。


外を見渡せば、青い空に広がる草原を見知らぬ鳥たちが追い越していく。


鎧を身に纏い背中には剣が掛けられていた。


あぁ、これ本当に来たんだな! 異世界に!


テンションが上がるのを必死に抑えて今置かれている状況を確認する。


目の前には目を瞑る魔女帽子を被った女性。顔は……あまり良くない。むしろ年増?

多分序盤でやられる雑魚だろう。年魔女と呼ぶか!


二頭の馬に乗り荷台を動かしているのは二人いる。


一人は屈強な肉体をしているスキンヘッドの男だ。タンク役であろう大きな盾を持っている。クソ盾ハゲってあだ名でいいか! 馬鹿にしてないよ?


そしてもう一人は……おっと、いかにも地味そうな見た目をしているがこいつは磨けば光るな。

黒いボブヘアの神をしており顔は見えないが、結構自分の好みである。まぁ単純に地味子と呼んでおこう。


「う、うひゃぁあぁああああああ!」


地味子とあだ名をつけた少女が突然叫ぶ。


すると酷く荷台が揺れる。


「うるせぇよ! のろま! 突然叫ぶのをやめろ!」


クソ盾ハゲが罵声を浴びせる。

ごもっともだがもう少し優しく言ってやりなさい。


「は、はぁい! ごめんなさい! えっあぁ!」


ほら狼狽えているじゃないか、これだから坊主は威圧が強いと言われるんだ。ただでさえ筋肉が凄いというのに。


「そもそもお前がいっつも足を引っ張っているんだ! 雑用もろくにできない分際で」


「ご、ごめんなさい~」


「まぁ、それぐらいにしておいたらどうですか?」


年魔女がフォローに入る。


「ジエイミは冒険者になりたてなのですし、もう少し経験を積みさえすればよいのです。そうでなくては困りますが……」


年魔女もなんか嫌な奴っぽいな。

この後ゴブリンとかに襲われて命乞いとかして死ぬ奴だろう。


あの地味子はジエイミちゃんというのか、かわいらしい名前だ。


「それに比べて、勇者エクシリオは何と素晴らしい事でしょう」


年魔女は自分の方を向いた。


ここでようやく自分の名を知ることが出来た。

自分はエクシリオらしい。そして同時に勇者でもある。


状況が分からないためうんうんと相槌を打つ。


「彼は若くして光魔法を使用でき、その力を使い単独で魔王軍を退けた。今ある冒険者の中でも最強なのですから!」


エクシリオスゲー! 勇者強いねー! これでチート能力確定だ。


あと魔王討伐ものか! 自分の願った通りだ!


「そ、そうですね、エクシリオさんは凄いんですね」


「凄いという言葉で片付けてしまうのが凡人の証です。あなたも私達勇者パーティーの一員なのですから、自らが誇れる人間になれないと、メンバーに迷惑が掛かるのです。分かりましたね」


パワハラ気味な年魔女は、ジエイミちゃんのことをあまりよく思っていないみたいだ。

きっと彼女よりかわいいから嫉妬しているのだろう。


なんかこのパーティーギスギスしていないか?


「は、はい……」


ここで、自分が助け舟を出してジエイミちゃんに気に入られよう。


勇者として凄いみたいだし、こう……強者のオーラってやつを出して喋らないと。

どんな感じだろう……中二病みたいな感じでいいか!


「――っふ……その辺にしておいてやれ」


決まったかな?


「え、どうしたエクシリオ。なんだいその喋り方? 荷台に頭でも打ったか?」


クソ盾ハゲに言及される。

え、エクシリオこんなキャラじゃない? どうなってんの!

だけど自分はこの喋りを突き通そうと思った。


「――そもそも、彼女の有無など関係ない、俺さえ輝けるなら、明日はファイトなのさ」


うーん……セリフのチョイス間違えたな~

昭和アニメのEDの歌詞にありそうなやつ言っちまった……


「エクシリオが言うのなら間違いはないです。輝くというのは光と軍。つまりエクシリオは単体で一人で光の軍ということ……こいつは荒れますよ……」


なんか変な解釈されてるけど……まぁいいか。


☆☆☆洞窟へ到着!


馬車が立ち止まり洞窟の入り口に辿り着く。

恐らくダンジョン攻略だ。冒険してる感じする!


どうやら一日遅れの到着らしく、少しメンバーは慌てて準備をする。


「ようやくつきましたよ、エクシリオ」


「――あぁ、ご苦労……」


装備を整え、洞窟の中に入る。


少し歩くと雑用のジエイミに荷物が集中しており遅れていた。


それに気付いたクソ盾ハゲが注意を促す。


「早くしろジエイミ! お前はこんなところまでのろまか!」


「ご、ごめんなさい~ひえぇ~ん」


ジエイミちゃんは泣きそうだった。フォローに入るか。


しかしクソ盾ハゲの名前わかんないなぁ……


「うぅぅん(ハゲの名前っぽさそうな言葉を聴きとれない低音で誤魔化す)……まぁ時を急ぐな。先人達も言っていた。急いては事を……うぅぅん~!(高音ビブラートで誤魔化す)じる」


なんだっけ、思い出せない。適当にごまかそう。


「そうだな、急に声山あり谷ありだけどエクシリオどうしたんだ?」


「うぅん、最近声変りが激しくてな」


「なんだ。そういうことか」


どうやら納得したみたいだ。それでいいのかよお前は……


洞窟の奥深くから悲鳴が聞こえる。


「「助けてえ!」」


キタキタ! これで颯爽と駆け付けて撃破する流れ!


例えばそれが貴族とかなら、そこからいい展開に発展するのがお決まりだ。


「見捨てましょうエクシリオ」


年魔女あんた……酷いことを言うね。それじゃ何も始まらないじゃないか。


「先に行こう。他の冒険者なんか放っておいても一銭の価値にもならん。そうだろジエイミ?」


こいつクソ盾ハゲではない! クソ悪ハゲだ!


「え、は、はい! そ、そうですね!」


このパーティー最悪だな! 一人は同調圧力に完全に負けているし。


自分が単身で乗り込んで無双することもできる。

でも、自分自身この世界に来てから一度も戦っていない。


正直に言えばかなり不安だ。

どうにかして仲間を連れていきたい。


年魔女は自分に気がある。多分モテないんだろうあの性格だし


クソ悪ハゲは明らかに女好きだ。そんな雰囲気がする。


そしてジエイミちゃんは押せば行ける!


「――おや……確か叫び声は若くてイケメンな声がした気が……!」


「助けましょう! 私が一番乗りです!」


年魔女は魔法を使い加速して飛び込んでいく。


「いや……綺麗なお姉さんの声がした気が……」


「何! 助けたお礼に遊びまくれるぜぇい!」


クソ悪ハゲも同じく盾を持ってこの場を走り去る。


「えっ! わ、私は、あわわわ……おろおろ……」


自分とジエイミちゃんは残されている。


「――君はもう少し落ち着いた方がいい。ただ俺の背中を見ていれば……すべてが解決しているのだから」


自分も叫び声の元へ向かう。


☆☆☆バトル!


ハゲと年増の後ろには襲われた冒険者らしき人物がいた。


五人のパーティーでそこにはまぁまぁイケメンな人とまぁまぁ美人なお姉さんもいる。


嘘にはならなくてよかったと内心安堵するも、冒険者たちを見るとどうやら負傷者がいた。


「エクシリオ! パラダイムスライム! それにパラダイススライムだ!」


名前めっちゃ似てる見分けめんどくさいなぁ!


自分は剣を構え応戦しようとする。

しかし、一つ大切なことを忘れていた。

魔法の使い方。どうやるんだ?


年魔女からの話によれば自分は光の魔法を使うことが出来る。


「風神の加護をこの手に、ストームクロー!」


詠唱が必要らしい。年魔女の手に風が舞い上がり、スライムたちを吹き飛ばす。


うおお! めっちゃファンタジーだ!


内心はものすごくテンション上がるがあくまで冷静に勇者らしく剣を構えた。そしてクールに……


「光よ……あれ?」


『――魔法発動を確認。ライトニングハウンド』


お、これだ! 視界の左上をよく見たら文字がある。そうこういうのが必要だよな!


視界を凝らすと自分の名前もある。そういえば……


『エクシリオ・マキナ LV1』

『ヤィーナ・イッツ LV43』

『マジョーナ・アンデ LV33』

『ジエイミ・メダデス LV16』


恐らく真ん中の二人は年増とハゲだろう。


だけどそれよりも……エクシリオのレベル低すぎるだろ!

 

よく見たらステータスもゴミだ。


そんなことあるはずがない。だけど……確実に弱い。


スキルを確認しても隠蔽らしきものも存在しない。


つまりこれが自分の本当のステータスということになる。


「――っふ……怪我はないか」


とりあえず平静を装って、吹き飛ばされたスライムになんとなく攻撃しているふりをする。


光魔法は威力は全くないが自由が利く。


年魔女の魔法に合わせて攻撃すれば自分が攻撃しているように誤魔化せるかも?


「いえ、私達は大丈夫です。それよりも」


その後、何とかタンク役のハゲと魔法役の年増のおかげでスライムを倒すことが出来た。


「ふぅ……他愛ない」


正直自分は何もしてない。あと、ジエイミちゃんも


「ありがとうございます勇者様!」


冒険者の少し美人なお姉さまが自分に礼を言う。


「――気にする必要はない。人を守るのが俺の役目だ……助けての声があれば、いつでも駆け付ける……っふ」


決まったと内心満足し、まるで自分の手柄の様に振舞った。


「流石は勇者様です!」「最強! 天才!」


あー気持ちい。そうそう、こういうのでいいんだよ。


他人に認められること、承認欲求こそが人間が生きるための糧となるのだから。


正直全然強くないけど。これならこの異世界でやっていけそうだな!


☆☆☆帰還?


どうやら冒険者たちはある目的のためにこのダンジョン攻略に勤しんでいたらしい。


自分の実力が知った時点早く帰って、この世界の情報を集める必要がある。

だから冒険者たちを安全なところまで送り届けるのは都合が良かった。


「そうなのですか、ケンゾルさんは昨日からこのダンジョンに潜っていたのですか……それほどの目的とは……」


年魔女ことマジョーナは冒険者の若干イケメンな人ことケンゾルと話している。


クソ悪ハゲことヤィーナもお姉さんと話しているがあまり良好ではないみたいだ。

そのことで、やはりジエイミに当たっている


そんな中勇者である自分は雑魚であると勘繰られたくないので、寡黙な雰囲気こと『話しかけるなオーラ』を垂れ流す。


「それが大事な任務でして、それが終われば私達は冒険者を引退できるんです……」


ケンゾルさん、そういうことは心の中に秘めておくのが正解です。真摯にそう思うのであった。


その、自分の元居た世界では死亡フラグという言葉がありまして……


叶わぬ願いになって悲しい結末が待っているのです。


「それで実家にいる妹や両親に少しでも恩返しがしたいなと思って……大事な家族なんです」


その言葉で自分の警戒レベルはMAXになる。


あぁ、これはもうひと悶着あるのだと。


『―――だったら帰れるといいですね』


予想の通りに、誰のものでもない声がした。


帯同するメンバー達は一斉に慌てふためく。


「どこだ!」「誰だ!」「なんだ!」


「姿を見せろい!」「どこにいるー!」


『おっと、これは失礼しました。わたくしはこういうものでして』


闇の魔法だろうか、洞窟の影の中からそれは姿を現す。


「な、なんだてめぇ!」


パーティーメンバーはそれぞれの武器を構え臨戦態勢となる。 


「ひ、ひぇぇえ! 怖い!」


ジエイミちゃん! さっきから悲鳴上げてばかりで仕事してないよ!


『魔王軍四天王。アークジャドウ』


☆☆☆魔王軍四天王・アークジャドウ!


はぁ~よりにもよって四天王ですか。


いわば悪の邪道というべきか、スーツに身を纏ったかなりイケメンで有能そうなやつだ。


ハゲも驚きを隠せていない。


「そ、その四天王がいったい何の目的だ!」


『そんなの一つしかないですよ。何を言わせるのですか』


アークジャドウは自分を敵視する。


『今この場に魔王軍がいて勇者パーティーがいる! ならば、やることは一つ。お命頂戴する』


やばいやばい……勇者である自分を狙ってきた刺客だ!


四天王なんていうのは序盤の負けイベだろう!


彼が指パッチンをする。すると、自分以外のメンバーが地に手をついていた。


『邪魔者は必要ありません。目的はあなただけなのですから』


「……ほう」


焦りを一瞬でも相手に気付かれれば確実にその隙を突かれる。


落ち着け……エクシリオ・マキナ。ここで動じれば全てが終わる。

自分の異世界ハーレムライフはまだ始まってすらいないのだ。


険しい表情を作り、アークジャドウを見つめる。


「エクシリオ……逃げ……」


年魔女が助言を申す。これこそがアークジャドウの狙いだろう。

今一瞬でも逃げるを選択すれば、自分が弱い勇者であると悟られる。


「――退かせてくれる相手ではないことは見れば分かるだろう」


相手を観察しているように……


「彼の靴を見てみろ洞窟だというのに泥が一つもついていない。少なくとも泥遊びが好きなタイプには見えない。なのに手には若干の汚れがついている」


割と適当なことを言う。だけどその含みに気付くはず……恐らく優秀な相手なら……


「……ど、どういうことですか?」


年魔女は分かっていないみたいだ。自分も分からない。


アークジャドウと対面する。


「――本当にこの場へ一人で来て良かったのか?」


すると彼の赤い瞳が強く輝きだす。


ゾクっっと心臓が跳ね上がると共に、全てを見透かされたかのような感覚に陥る。


何をされたかは分からないが身体は正常である。


今のところ攻撃の類の魔法ではないようだ。


『……』


アークジャドウは顔色を変える。まるで疑うように……


『あなたは本当に勇者ですか? エクシリオ・マキナ』


この問いは一体どういった意味を持つ?


少なくとも、相手の狼狽え方からして予期せぬことが起きた。


先ほどの行動。自分を強く見られたという感覚だ。


つまり……ステータスを見られた?


あのゴミを見破られたことにより、一種の動揺が生まれた。


今風に言えば(――お前が驚いているのは自分が雑魚すぎってことだよな?)だ。


例えば、今まで勇者と思っていた人間のステータスが普通の冒険者以下のゴミであれば必ずしも疑う。


アークジャドウ。彼はとても慎重な相手なのだろう。


エクシリオ・マキナの素性を調べ、能力や弱点を把握して自分の前に現れている。


年魔女の話によればたった一人で魔王軍を退けた勇者。なのにステータスは貧弱であること。


果たして彼の思考がどう働くか?


ゴミステータスの冒険者が魔王軍の四天王に物怖じしないこと。


一度でも目を反らせば勇者であることを疑われ、瞬く間に殺されていたであろう。


だからこそ、自分の判断が間違っていなかった。


そう!


――『ステータス隠蔽』


といったところだろうか、きっと彼は自分がステータスを偽造していると感じたのだろう。


有能であるがゆえにする勘違いだ。


相手が馬鹿なら積んでいた。


「――だからお前は俺の前に立っているのだろう? だとしたら。何を恐れる必要がある?」


にやりと笑う。


『……いや、違う……貴様は勇者ではない!』


やばい! さすがに無理があったか? そりゃ最初から駄目だったんだよ。こんなステータスで何をできるっていうんだ。だが! 自分は諦めない! 


「――ならば、勇者であることを証明する」


魔法の詠唱をする。


「――エーテル・ライジング・ラグナロク・テラー……」


適当に思いついたかっこいいワードを言う。


『なんだその詠唱は! 魔法式が崩壊するはずなのに……いや、その崩壊した魔力を貯めている?』


勝手に勘違いしてくれた! いける。


「――魔力装填完了」


両手を前へ突き出し腰へと移動させる。


光魔法を掌に集中させる。


あーこれ、漫画読んでた小さい頃に良く練習したなぁ……


きっと幼き頃の誰もが真似したであろう必殺技。だからこそ寸分違わずにできる。


『な、なんだその技は』


相手はこの技を知らない。だからこそその神妙な動きに警戒をする。いける!


そう……結婚指輪を持ってプロポーズするように掌を突き出す! 


……亀の人に特許料取られそうだから。手首を横に捻る! 最初も誰にも聞こえない小声で!


「――覇ぁぁあああああ!」


そして光の魔法はアークジャドウ目掛け放たれる。


ここでは数字は意味を持たない。だからこそ自分の光魔法の威力は皆無でありながら、異常な威力のような代物に見える。当たればダメージはない。


しかし、本当に当たっていいモノなのだろうか?


彼にとっての自分は未知数の相手。


だからこそ、そこに賭ける!


『退却だぁ!』


そのままアークジャドウは姿を消す。


つまりは、退却してくれた。



☆☆☆大勝利! そして!



張り詰めた空気が一斉に吹き飛ぶ。


「――造作もない」


良かったよぉぉぉぉ! 危なかったぁぁぁ!


正直に言えば漏れそうだったぁぁぁ!


「エクシリオ無事ですか?」


拘束魔法が溶けたパーティーメンバーが自分の元へ駆けつける。


「――俺は平気だ。むしろ手ごたえがなかった。だから次は逃がさない」


「そうですか、しかしさっきの魔法――」


「おい! エクシリオなんだその魔法は!」


クソ盾ハゲがやかましく付きまとってくる。


「――俺が生み出した魔法だ。勇者にのみ許されている」


嘘だが見栄を張らなくてはやっていけない。


「そうなのか! かっけぇな!」


こうして自分は、魔王軍の四天王を追い払った勇者として評されるのである。


荷台でゆっくりと休んでいると街へと向かった。


ギルドに状況の報告を終え、飲み屋へ訪れることとなる。


「勇者様! 魔王軍を退けたことを記念にカンパーイ!」


「「「「カンパーイ!」」」」


この後のことは正直に言えば覚えていない。


命を懸けた後に飲む酒はやけに美味しく感じ。


普段は飲まない量を平らげた。否、無理やり飲まされた。


だから主役の自分が酒で潰れるのも時間の問題だったのだ。


気が付けば全員が酔い潰れた中で目を覚ます。


気持ち悪いので外の空気を吸おうと外に出た。


まだ知らないことばかりだけど。


ここで、自分は異世界ライフを満喫するのだろう。


「……」


ぼそぼそと路地裏で声がした。この声はクソ盾ハゲの……


「確かに勇者パーティーに貢献していませんが……」


年魔女も話している。


二人で一体何の話だ? まさか自分の能力がばれたか?


「今回の件もそうだ。洞窟であいつは何の役にも立っていなかった。雑用ならもっと他に優秀な奴がいるはずだ」


「そうですね……」


「ジエイミ・メダデスは勇者パーティーに必要ないんだよ。あんなのろまはとっとと追い出すに限る」


……あ! あっそういうことか。大変なことになったぞ。


「あぁやってうじうじしている奴を見るとイライラするんだよ。誰かに助けてもらえないと生きていけないみたいな顔をしやがって……あんな何もできない奴に背中を預けるのなんて俺は嫌だね」


割と否定しようと思ったけどごもっともな意見ではある。


確かにジエイミちゃんは口を開けば「ひぇぇえ!」

「ごめんなさい~」しか言わないし。


正直に言えば全然役に立ってなかった。


だけど……このパターンって。


―『追放もの』-


よくあるジャンルであり、パーティーに貢献してないメンバーを追放することから始まる。


その後、追放された相手は実は有能であり沢山の活躍し周囲から賞賛される。


そして追放したものは総じて無様な結末が控えている。


つまり、つまりは……


追放する側の勇者に転生してしまったのかよぉぉぉ!


しかもステータスもゴミって……そんなことないでしょ!


「確かに全然役に立っていませんね……私も考えないといけないかしら。あとはエクシリオを説得するだけですね」


このままいけば無様で哀れな結末が待ち受けているし、ジエイミちゃんに復讐される。


何としてもジエイミちゃんの追放を阻止しなければ!


相手は二人。


クソ盾ハゲこと、ヤィーナ・イッツ


年魔女こと、マジョーナ・アンデ


彼らの陰謀を阻止して、そして、何としても生き残る……


そして待っていろ。異世界ライフ!

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