第22話 上級魔族と男爵の目的
「みなさん! とてつもない魔力を持った何かが近づいてきます! 気を付けてください!」
叫んだステラの視線は湖の水面にくぎ付けだ。俺を掴む手が震えている。
「ふぇええ……ショウゴ! ステラの言うとおり、なんか浮き上がってくるよぉおお!」
湖面が大きく浮き上がり、大きな笑い声とともに巨大な何かが現れた。
「ギャハハハハ!」
「魔物……かぁ? なんだありゃ」
湖面から姿を現したのは、人型の巨人だった。いかつい筋肉に覆われた体に、とてつもなくながい髭。そして、人の数倍はあろうかと言う巨体。
「ギャハハ! 魔物だと? ふざけるな! 俺様は魔族ボアロス、魔王様直属の上級魔族だぜぇえ!」
「魔族ですって……!」
「ステラ、魔族って魔物とは違うのか?」
「ええ、ショウゴさま、魔族は魔物の上位種と言われております。知性も高く、その魔力は魔物とは比べ物にならないと」
なるほど、魔王直属とか勝手に名乗っているしな。ギャハハな感じは、知性がある笑いか微妙だが。
「俺様の瘴気を全て浄化するとはな~~うわさ通りのとんでもない小娘だなぁ。だがその力も使い果たしてしまったんだろ。ギャハハッハ、計画通りすぎて笑えるぜぇ!」
んん?……計画だと? ってことはステラを狙っての犯行か? もしかして、こいつがステラを殺す予定の奴なのか?
ミーナの方を向くと、見習い女神様は腰を抜かしてガクブルしていた。ダメだ、ミッションのことなどとても考えている余裕はなさそうだ。
「ギャハハ~~!! とりあえず小娘以外はいらんな、サクッと殺しとくか~」
とてつもなく長い髭が、ムチのようにしなって飛んできた。
ブンっという風切り音とともに湖畔の砂浜をザスッと抉る。こりゃ凄まじい威力だ。
「総員! 風魔法で攻撃方向を逸らすんだ!」
ナターシャ隊長の指示が飛ぶ。
各々が魔法を発動して髭の直撃をなんとか防いではいるが、ボアロスの攻撃は勢いを増していく。
「キャア!」
護衛騎士の1人が、ボアロスの猛攻に耐えかねて体制を崩してしまう。マイアだった。
そこへ髭のムチが凄まじい風切り音とともに襲い掛かかってきた。
おれは即座にスキルを発動する。
アイテム合体使用。
「
火炎の風が髭のムチに命中して、マイアへの直撃を防いだ。
あ……危ねぇ……。間に合って良かった。
「熱っちいなぁ。クソっ! おまえ変わった魔法を使いやがるな……そうか、俺様のかわいいブルーボアたちをやったやつか! だがそんなもんじゃ俺さまの髭は止められねぇぜ!」
ブルーボアって、あの豚の魔物か? てことはあの襲撃はこいつの仕業か。
ニヤリと口角を上げたボアロスは、さらに攻撃速度を増して髭のムチを乱発してきた。
再び、ナターシャ隊長の指示が飛んでくる。
「撤退だ! いったんカリラス男爵の館まで退避して、戦力を立て直す!」
たしかにここにいてもジリ貧だ。男爵の館まで戻れば、領兵の加勢も期待できるし、こんなむき出しの地形よりはましだろう。
ナターシャ隊長を先頭に、陣形をなんとか組みなおしてジリジリと後退を開始する。俺とミーナはしんがりにて、魔族ボアロスの攻撃を防御しつつ動く。
そこへ思いもかけない声が聞こえてきた。
「ステラ王女殿下~~!」
町の方に視線をうつすと、多数の兵とともにカリラス男爵がみえる。
湖での異変を察知して早急に駆けつけてくれたようだ。先頭のナターシャが男爵に近づいた。
「おお、カリラス男爵! 迅速な対応に感謝します! まずはステラさまを安全な場所…うっ…」
男爵に近づいたナターシャの脇腹には、彼が抜き放った剣が刺さっていた。鎧の縫い目から赤い血がボトボトと流れ落ちている。
「な、ナターシャ隊長! 男爵いったい何をしているのですか!?」
ステラがその場に倒れこんだナターシャに駆け寄り、必死に彼女の名前を叫びつつ、男爵を見上げる。
「フフ、ステラ王女。あなたには魔王様の血肉となってもらう」
「な、何を言っているのですか! 意味がわかりません!」
「意味? これを見ればご納得されるかな」
そう言うと、男爵は自らの上着を脱ぎ捨てるとローブを羽織った。そう魔王教団のシンボルたる漆黒のローブを。
「だ、男爵。貴様まさか……魔族と結託して……」
「グフフ、隊長どの。馬鹿みたいにわしを信じてのこのこステラを連れてきて来てくれるとはなぁ。魔族も教団も全ては魔王様のために存在するのだよ」
「くッ……」
ステラの腕の中でナターシャが苦悶の声をあげた。
「う、ウソです……男爵が……おじさまが……魔王教団なんてなぜ……」
「なぜ? 決まっているではないかステラ。魔王様の魔力は絶大、絶対にして唯一無二の存在だからのう」
「そのようなこと! 男爵、あなたは魔族に操られているのです! 目を覚まして!」
「グフフ! 目を覚ますのはあなたの方だステラ王女。わしは戦場で魔王様の魔力をみた。あれはいずれは世界の王となる方のお力だ! あんなものを見せられては、もはや王国に仕える意味も無くなったでな~フハッハハ」
男爵の高笑いに、絶望感に押しつぶされそうな表情でその場に崩れ落ちるステラ。
「グフフ、そうだ絶望して観念するがいい。魔力を使い果たしては何もできんだろう。おまえも魔王様を見れば、喜んでその血肉となろうとその考えを変えるであろう」
兵士が数名、ステラを捕縛しようと詰め寄ってくる。
―――ビュウッ!
そこへ、風の塊が放たれて、ステラに迫る兵士たちの動きを阻む。
「ご……護衛騎士団! ひ、姫様を……中心に防護円陣を組めっ!」
ナターシャが出血した脇腹を抑えつつ、再び指揮を取る。
「グフフ、聖属性の魔法が使えないステラに手負いの護衛騎士団など、恐れるに足らんわ!」
「しょ、ショウゴ! ちょっと、これすっごいピンチじゃないの! ねぇっ! ねぇっ!」
「そうだな! うおっ! 危ないっ!」
俺とミーナは、魔族ボアロスの髭ムチ攻撃を回避しつつも事の顛末を見ていた。
ナターシャが刺されて、男爵が裏切った。このままステラが連れ去られて魔王の餌食になったらジエンドだ。ミッションクリアもクソもない。
しかし、ボアロスはさすが魔族と言うだけあって手強い。合体アイテムも回避のため使用するので精一杯の状況である。さらにステラに男爵の魔手が迫っている。この状況を打破するには……
―――これしかない!
「ミーナ! 今こそ真の力を発揮する時だぞ! とっておきのあれやってくれ!」
「ふわぁああ……あれってぇ~まさかぁ……」
「そうだ、おまえの温存され続けているスキルを解放だ!」
「わぁ~ん、やっぱりあれなのねぇええ!」
見習い女神ミーナが、自身のステータス画面をあける。
そう、ミーナのスキル【
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