第16話 王都出発、護衛旅の始まり

「出発する!」


 騎乗する騎士隊長ナターシャの号令とともに、隊列はゆっくりと動き出した。

 ナターシャを含めて、騎馬6騎と馬車2台という陣容だ。


「ショウゴさま、ミーナ、長旅になりますが、よろしくお願いしますね」


 馬車の中でステラがにっこりと微笑む。俺とミーナはステラの馬車に乗りこんでいる。

 新入りのクセにけっこうなポジションじゃないかと思われるが、何を隠そう俺は馬に乗れないのだ。


 実は何度か試したが、落馬のしすぎでナターシャに馬車での護衛を指示された。

「馬に乗れない護衛騎士など聞いたことがない。まったく凄いのかアホなのか、わからん奴だ」と言われてしまった。


 ちなみにもう一台の馬車は荷馬車である。

 遠方の地方領地に行くので、野営せざるを得ない日があるらしい。その物資等だ。

 あとは2名の護衛騎士も乗り込んでいる。


 ちなみに男は俺1人である。だって俺以外は、全員女性騎士の護衛騎士団なんだからしょうがない。


「ねぇステラ~今回行く場所は湖があるんだよね」


 ミーナが馬車の窓から外を見ながら聖王女ステラへ問いかける。もはや友達感覚全開だが、俺とミーナは命の恩人といこうことで友人付き合いが許されているとのことだ。ただ、侍女さんの顔が若干引き気味だけど。


「そうですよ、ミーナ。私たちの目的地はアコルデアのカリラス男爵領です。領地の中心地に大きな湖、アコデル湖があります。とっても綺麗な湖で夏は泳げますし、お魚料理が郷土料理として有名ですね」


「おお! 魚料理! それは是非食べてみたい!」

「まあ、ショウゴさまはお料理のお話になると、すぐに食いついてくれますね。実は私も得意料理のひとつなんですよ。子供の頃よくアコデル湖に行ってましたから。ふふ」


 ステラがクスリと微笑んだ。銀髪美少女の天使な微笑み破壊力が半端ない。

 しかし……魚かよぉ。様々なお店が揃う王都ではあるが、新鮮な魚料理に出会ったことがない。王都は海に近いわけでもないので、簡単には入荷できないらしい。この世界の輸送レベルでは難しいようだ。


「ですが、その湖に異変が起きているようです」


 ナターシャ隊長から、ザックリとした概要は聞いている。湖が汚染されているらしい。


「どのような汚染かは、行ってみないとわかりません。私の聖魔法で対処できればいいのですが」

「ふぇええ、ステラって凄いんだね。湖とかキレイにできちゃうんだ」

「ふふ、ミーナ。私だって色々頑張りましたからね。それに聖魔法は私しか使えないので、こんな時こそ国のみなさんのお役に立つ時ですから」


 小さな手をキュッと握ってガッツポーズを取るステラ。神官であればある程度の聖属性魔法は使えるが、彼女の聖魔法いわゆる聖属性の上位魔法は、ステラにしか使用できないらしい。王族のみに受け継がれていく魔法らしく、遺伝的なものなのかもしれない。


「道中なにもなければ良いのですが」


 ステラの表情が少し曇る。俺が転生した際に、襲撃されたことを思い出しているのかもしれない。


「ステラ、まえに襲撃した相手に心当たりがあるようだったけど」

「そうですね、確証はもてませんが魔王教団である可能性が高いと考えています」


「魔王教団?」

「はい、魔王を崇拝する組織と言われていますが、詳細はわからないのです。ですが、聖魔法は魔王や魔族にとっては、脅威となる魔法と言われております」


 なるほど、ステラは魔王教団にとって邪魔な存在というわけか。しかし人間が魔王を崇拝するというのも良くわからんが。


「ふふ、ショウゴさま。頼りにしてますね」


 ニコリと柔らかい微笑みを向ける彼女は、まるで天使のようだ。

 魔王教団か……ミーナはステラを殺害する者が誰かはわからないとのことだが、魔王教団の可能性はかなりあるな。

 とにかくステラが殺される未来は絶対に回避しなければならない。俺は彼女の瞳をみて、ゆっくりと頷いた。



 馬車の隊列は王都の城下町をゆっくりと進んでいる。

 さすがに町中で、速度を出すわけにはいかないからな。


「馬車から見る王都の街並みっていつもと違うね~。あっ、ショウゴがいつもチラ見しているお店だ~」


 俺とステラ、そして侍女さんが一斉にミーナの指さす方向に顔を向けると……中央通りから奥の方にピンク色の看板が見えた。


 ――――――って! 思いっきり風俗店じゃないかっ!


 この世界にもあるんだなぁと、若干気にはなっていたが。そんなにチラ見してたのか俺……


 ガシっ! そこへ俺の肩を強めに掴む、小さくてかわいい手。


「しょ、ショウゴさまは……あ、あのようなお店に入り浸っているのですか?」


 振り返るとステラが鬼のような形相になっていた。肩を掴む力がどんどん強くなる。

 銀髪美少女の天使はどこにいったんだよ。あと侍女さんがドン引きしてるし。


「入り浸るって……誤解だよ。行きつけのマンプク亭へ行く途中にこんな店あるんだ、ぐらいにしか思ってないから」


「行きつけになるほど通っている? 満腹になるぐらい楽しんでいるのですかっ!」


 いや、どう聞き間違えたらそうなるんだ……


 その後、ステラの誤解を解くのに1時間以上かかってしまった。


「はぅうう……私ったらとんでもない勘違いを……」


 誤解が解けたあとのステラはいつもの天使に戻っていた。

 しかし、怒ると怖いんだな……今後は気を付けよう。




 ◇◇◇




 王都を出発して数日後、俺たちは森の中で昼食を取っていた。

 今日は初の野営日である。次の宿場町までは1日で到達できる距離ではないので、野営日を1日挟むしかないのだ。

 可能な限り安全な道を進むが、王国は広い。どうしてもこのような状況は発生してしまう。


「このエリアは魔物が出る可能性は低いが、注意を怠るな!」


 ナターシャ隊長が注意喚起を促してから、昼食に入る。3人の護衛騎士が分散して歩哨にたち、残りは昼食だ。

 転生後初の魔物と言う言葉に、少し興奮してしまう俺がいた。護衛としては不謹慎だが、なんか見てみたい感は否めない。


「うむ~これ美味いな!」

「だよね~ステラの料理最高~~」


 昼食は長いパンに切れ目を入れて、そこにソーセージが入ったものだった。

 ようするにホットドックである。

 本来は王族が料理をして部下に振舞うなどということはあまりない事らしいが、ステラは前日の宿屋で調理場を借りて、今日の昼食を一生懸命仕込んでいた。


「気に入って頂けて嬉しいです。ショウゴさま、おかわり沢山ありあすからね」


 ステラが、いつもの特大ランチバスケットをポンポンと叩いてニッコリ微笑んだ。

 ああ……この子、もう天使以外の何者でもないじゃないか。


 パンも朝焼いていたからだろう、まだふわふわしていて柔らかい。

 俺もミーナも無心でガツガツと、ステラのホットドッグを堪能した。


 普通は王族なら先に別で昼食を取り、護衛騎士たちはその後に交代でとるらしいが、ステラはそれを嫌った。


「だって、食事はみんなでするものですよ? それに一緒に食べないとみなさんの笑顔が見れないじゃないですか」


 とのことだ。


 大満足の昼食タイムが終了して、おれとミーナそしてマイアは歩哨についていた騎士とそれぞれ交代した。

 今日の昼食メチャクチャ美味いぞと伝えると、ルンルンでステラたちの元に走っていく。相変わらずスカートがヤバイ……この世界にパンチラと言う単語はないのだろうか?


 しばらくして……


「―――ほげぇえええ!」


 ミーナの情けない声があたりにこだました。

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