第15話 見習い女神、初給料に興奮する

「むふふふ~ショウゴ~みてみて~」


 ミーナが、小さな袋を持ってキャッキャッと興奮している。

 ちなみに俺も同じ袋を手にしている。中身は硬貨だ。


 勇者殿を地面に突き刺してから1か月が経った。そして本日は月給日、つまりお給料が出たのだ。


 あれから1か月間、俺は訓練をこなしつつステラの護衛任務にあたっていた。

 まあ護衛と言っても、王都内の他施設への移動とかなんだが。


 訓練で汗をかいて、護衛を頑張って、初給料もらって。なんだか転生人生充実してしまっているが……


 ―――いかん、ミッションである魔王討伐とか忘れてしまいそうじゃないか!


「よし、ミーナ。ミーティングだ!」

「ふわぁああ? じゃあショウゴの部屋に行く?」


 こいつ、最近当たり前のように俺の部屋に来るからな。護衛騎士団員たちとは良好な関係を築いているが、ミーナが入り浸りすぎると、変な疑いを招くじゃないか。


「まてまてミーナ。初給料日だろ俺たち」

「うんうん」

「ならやることはひとつしかない」

「ふわぁ?」




 ◇◇◇




「は~い、鳥のマル揚げ南蛮と塩辛芋、おまちどうさま~」

「ふわぁああ、ショウゴこれ美味しいよ!」


 俺たちは城下町の大衆食堂マンプク亭に来ていた。

 鳥の姿あげに白いソースがたっぷりかかった料理を満面の笑みでパクパク食べるミーナ。


 俺も早速パクリといくと……う、うまい~~~! ジューシー鶏肉に大量のソースがヤバイ!

 こっちの芋は……うめぇえ!! 細切りの芋に粉末がかかっているだけだが、無駄に辛くてしょっぱいのがいい! 

 もう健康や上品さなんて二の次だ。そして~~~


 ―――ゴキュゴキュゴキュ


「「ぷは~~~~~っ!」」


 そこからのエールが最高に美味い!

 俺とミーナは二人してカラのジョッキを掲げて、店員さんにおかわりを催促する。


 ヤバいぞマンプク亭。ここは天国か……

 もちろん城内の兵士食堂も美味いのだが、健康管理も兼ねているためジャンキーな食事とは言い難い。濃い味付けや高カロリーの塊が、恋しくなっていたのだ。


「ふわぁああ~ショウゴ~鶏肉美味しい、芋も美味しい、エール美味しいよぅう」


 ミーナもマンプク亭が気に入ったようだ。今後は、ちょくちょく寄らせてもらおう。


「さてと、現状の確認をするか」

「はい、はい、はい~~、このミーナが報告しま~す。えと、えーと、ステラとお茶友達になって~ナターシャ隊長とお風呂入って~んでから~ペラペラペラっ!」


 ―――痛っ!


 舌をかんだらしい。これ前にもみたような。


「よし、ミーナ少し落ち着こうか」

「うわぁ~ん、あたしショウゴみたいなモブと違って見え麗しい女神だからぁああ~威厳に満ちた感じで話さなきゃ、話さなきゃって~でもエール美味しすぎて舌がからんじゃって~」


 ちょくちょく引っ掛かる単語が出たが。まあミーナなりに頑張ろうとしているのだろう。


「よしよし、大丈夫だぞミーナ。労働の成果としてご褒美をいっぱい楽しめるのはいいことだからな」


 俺はヒックヒック涙を流すミーナの頭を撫でつつ、整理してみる。



 ●ミッション


 ・イレギュラーである魔王を討伐して、この異世界の破滅を救う

 ※居場所に関しては謎のまま。少なくとも王国の人たちは知らない。北にある魔王領にいるとの噂程度

 ・魔王討伐には聖王女ステラの涙が必要 

 ・ただし現状の未来予想ではステラは、魔王討伐の前に殺害されるので護衛が必要


 ●やること


 ・ステラを護衛しつつ、「聖王女の涙」をゲットして魔王討伐


 ●現状


 ・護衛騎士団に入隊して、1か月経過。ある程度みんなと仲良くなった(ナターシャ隊長は俺への当たりがきつめ)

 ・勇者をボコった。光属性のアイテムをゲットした。



 と言ってもそこまで大きな変化はないか。なにせこの1か月間、ガチの訓練と護衛任務をこなしていたからな。


「当面の目標であった、護衛騎士団として馴染むってとこはまあ達成だろう。ステラの傍にいるポジジョンも上々だな」

「そうよねぇ。ていうかステラ、だいたいショウゴの近くにいるし」


 そうなんだよな。俺が傍にいると言うより、ステラから寄ってくるんだ。まあ、嫌われてはいないと言うことだろうけど。


「ところでミーナ。勇者殿から光属性のアイテムを頂いたけど、アイテム使用でも魔王に効果あるのか?」

「うん、効果はあるはずよ。それにショウゴはアイテムを組み合わせることができるから、勇者よりも強力な光属性攻撃ができるかも」

「なるほど。ってことは勇者アイテムは、無駄使いしない方が良さそうだな」


「ちなみに勇者の聖剣極烈斬撃ギガライトスラッシュやライトナックルってのは魔法なのか?」

「う~ん。厳密に言うと魔力マナを帯びた剣撃や打撃ね。魔力マナイーターは魔力マナを食べるスキルだから」


 なるほど、この世界では魔力マナが基本である。これが多ければ、より強力な魔法やら剣技が使えるということか。俺の魔力マナはゼロだけど。


「は~い、王都マンプク亭名物の肉串。おまちどうさま~」


 きた~~~! これこれ! たまにステラの外出護衛で、この串を食べ歩いている人をみてから、どうしても食べたかったんだ。シンプルに肉と唐辛子のような赤い野菜を交互に突き刺した肉串。早速ガブリと……


「うぉおお! 美味いっ! こりゃたまらん!」

「ショウゴっ! あたしにも! あたしにも!」


 ミーナがかわいい口を大きく開けてあ~んしてきたので、肉串を突っ込んでやる。


「ムグムグ……ハフっ……ひやぁああ! 凄いねショウゴ、これ! お口の中に肉とピリ辛が同時に広がって……なんか良くわかんないけど美味しいようぅうう!」


 俺たちは、夢中でガツガツしつつも会話を続ける。


「ちなみに、ミーナはどんな魔法が使えるんだ? 普段「えいっ」とか「やあっ」しか言わないだろ」

「ムグムグ……ハフっ……風魔法と火魔法ね。なんか焦ると詠唱が思い出せなくて、えいってやったら出たの」


 ミーナが俺にステータス画面を見せてくれた。ちなみにこ世界にはステータス画面なるものは存在しないようだ。それとなくナターシャ隊長に聞いたら、こいつ何を言っている? みたいな顔をされた。スキルも存在しないし、見習い女神ミーナの初期設定ミスで、俺たちだけに備わった能力のようだ。

 まあミスってくれたからこそ、魔力マナゼロの俺でもなんとかピンチを脱することができたのだが。


 たしかに、「えいっ」とか「やあっ」という記載がある……

 う~む、ちゃんと詠唱したらもっと凄い威力になるんじゃないのかな。

 ミーナのステータス画面を見て、俺はあることにふと気づいた。


「おい、ミーナ。おまえもスキル持ってるじゃないか」


 いきなり、ガバっ! とステータス画面を隠すミーナ。


「な、なんだよ、隠すなよ。今後の為にも情報共有しといた方がいいだろ?」

「ダメなの! 見ちゃダメっ!」


 そう言われてしまうと、どうしても見たくなるのが人のさが。

 肉串をミーナの口に突っ込んでみた。


「むぐっう……ハフハフ……美味しい~~~」


 その隙に、ミーナのステータス画面をのぞき込む。



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 使用可能魔法

 ・「えいっ」風属性

 ・「やあっ」火属性


 ☆特殊スキル

 筋肉製造マッスルメーカー


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「………マッスルメーカー?」


 なんだこれ? 筋肉製造? あれかな、自分の筋力を操作できるとかそんな感じか?


「ふわぁああ~ん。だってあたし可憐な美少女なのよ~それが筋肉ムッキムキなんて~可愛くないようぅうう~~」


 なるほど、だから隠してたのか。ガン泣きするミーナを見て、ちょっと罪悪感が……悪いことしたな。


「そうなのか? おれは筋肉の発達した女性も素敵だと思うぞ」


「へ? そ……そうなの?」

「まあ、本当にピンチな時は使ってくれ」

「う、うん! わかったよショウゴ!」



 王城に戻ると、ナターシャ隊長から明日より外出護衛の任務に就くよう指示がきた。

 なんでも、ステラが地方領地に行くらしい。

 おお! ついに王都の外に出るのか。これは楽しみだ。

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