第14話 ショウゴ、勇者の尻をしばいてお仕置きする

「オーエス! オーエス!」


 みんなで掛け声を出して引っ張っている。もちろん綱引きではない。

 何を引っ張っているかというと。


 それは勇者殿だ。

 彼は俺の合体アイテム魔法使用により、地面に深~~~く突き刺さってしまった。


 しかし異世界で、「オーエス」の掛け声を聞くとは思わなかったな。

 勇者アルダスに括りつけられた縄を一生懸命引く俺たち。なんか一体感があっていい。


「オーエス! オーエス!」


「ぶはっ!」


 己の小学校時代を思い返して無心に綱を引いていると、勇者殿が地面からスポッと引っこ抜かれた。


「ぶばはっ! ぶばぶば! ぶはっうう!」


 何だって?

 俺は勇者の背中をトントンと叩いて、口の中の泥を出してやる。


「ぶはぁあ! 貴様ぁ―――! 僕にこんなことをして、タダで済むと思っているのかぁ!」


 いや、しでかしたのはおまえだろ。


 口が利けるようになった勇者は、怒りをまき散らしてして俺にがなりたててくる。


「聖剣も折りやがって! 国宝級の剣なんだぞ! どうするんだっ!」


 ああ……そうだった。聖剣の件を忘れていた。やはりヤバいのだろうか。


「勇者さま! 聖剣ならまだ数本ございます! もとよりあなたが招いたこと、ショウゴさまに何の罪もございません! あなたはご自身がやったことを反省なさいっ!」


 ステラが会話に割って入ってきた。ていうか聖剣って何本もあるのかよ……

 ん? 聖剣はまだある……ってことは、奥義特上うな重にまたありつけるということかっ!


「よし! 勇者よ! 今すぐ新しい聖剣を持ってこい! 稽古の続きだ! はやく!」


「なにを意味のわからないことを……いいかぁ~このまま護衛騎士でいられると思うなよぉ。おまえなんかゴミクズのようにしてやるっ!!」


 なんだよ、特上うな重のおかわりなしか……がっかりだ。

 にしてもこいつ、勇者の小悪党ぶりが、かわいそうな程板についている。


「勇者殿、おまえはみんなの昼食時間を台無しにした。この罪は重いぞ」


 そう言うと、むんずと勇者の腰を掴んで、持ち上げる。俺の一撃を喰らったからなのか、体力はほとんど残っていないようで簡単に持ち上がった。

 スキル【魔力マナイーター】を発動。使用アイテムは―――おお! これがいい!


「貴様~~! 下民が気安く僕の体に触れるなっ! 触れていいのは僕のステラか、上物美女だけだ!」


 サラッと下衆な発言をする勇者。周りの女性陣がドン引きしてらっしゃる。


「さて、勇者殿。お仕置きタイムだ。アイテム使用光物理殴打ライトナックル×1 !」


 バシッぃいい!


 光の拳が、勇者の尻に叩き込まれる。


「ぎゃんっ!」


「ステラを、他の人間を物扱いしてはいかん! 光物理殴打ライトナックル×1 !」


 バシッぃいい!


「き……貴様……こんなことをして……ぎゃんっ!」


「あと、食べ物を粗末にするなっ! さっき捨てたサンドイッチに謝れっ! 光物理殴打ライトナックル×1 !」


 バシッぃいい!


「ぎゃんっ……ひぃいい……なさい」


「声が小さい! ステラ、それからナターシャ隊長。あとみんなにもだ! ついでにミーナもな! 光物理殴打ライトナックル×1 !」


「あたしはついでなの!?」


 ああ……すまんミーナ、つい言ってしまった。


 バシッぃいい!


「ひぃ~ごめんなしゃい~」


「よし、まあいいだろう」


 ポスンと地面に降ろされた勇者は、折れた聖剣を持ってプルプル震えている。


「クソ~、このままじゃ済まさないぞ。僕は勇者なんだっ、おぼえてろよ!」


 と捨てセリフを吐いて、去って行った。半泣きで尻を真っ赤にして。


 よ~~し、ようやく勇者のゴタゴタが終わった。それでは昼食の続きを―――


「ひゃぁあ~ショウゴ~やったね。勇者をぶっ倒すなんて! やっぱり、あたしの見込みどおりだわ!」


 ミーナが俺の片腕に飛びついてきた。なぜかローブを脱いで。

 ローブの中身は例のビキニアーマーだ。もうグラビアアイドル並みのブルンブルンボディである。

 そんなミーナが無自覚に俺の腕に抱き着いてくる。


 うおっ! 膨らみヤバイ、この膨らみヤバイ! 右腕に伝わるタユンタユン感触がヤバイ!


「わぁ~ショウゴさまっ! 凄い凄い凄いですっ! なんでも食べる人って素敵です!」


 今度は反対側の腕がムニュっとした。聖王女ステラのムニュだ。

 ミーナほどの巨大さはないが、程よく均等のとれた膨らみの感触。年相応といったところか。


「今回の件はお父様にもきっちり報告致しますから! 絶対に護衛騎士を辞めるとか言わないでくださいねっ! ねっ! ねっ!」


 ステラは、その綺麗で小さな顔をグイっと近づけてきた。


「も、もちろん、辞めないよ」

「ほ、本当ですか……!」

「ただしステラの知っている通り、俺は魔力ゼロだからな。もちろん護衛には全力を尽くすが」


「ショウゴさまは、もう何回も私を守ってくれてるじゃないですか! 魔力の有無なんて関係ありません! それに護衛騎士でいてくれたら、ショウゴさまとの時間が増え……じゃなくて私、とても安心していられますから」


 ここでハッとしたように俺の腕を離すステラ。凄まじい勢いで俺との距離を取った。顔がリンゴのように真っ赤だ。私ったら、勢いで飛びついちゃった……とかブツブツ言っている。


 反対側にひっついているミーナも剥がしてと……さあこれでようやく昼食を再開……できなかった。


「あ、あの勇者を……人格はひとまず置いておくとしても、実力は王国最上位の勇者を……どこにそんな力が……」


 今度はナターシャ隊だ。俺の手やら足やらに触れながら、ブツブツと驚きの独り言を漏らしている。


「聖剣を折るということは、ショウゴの魔力はそれ以上ということなのか……いや魔力ゼロのはず……魔法を食べるだと……」

「隊長」

「この体に勇者を退けるほどの力が……しかしそんな風にはみえないが……」

「ナターシャ隊長!」


 俺の体をベタベタ触るナターシャの肩をゆする。


「そんなに触るなよ」

「はっ……私はいったい何を……!?」


 我に返ったナターシャは、俺から一瞬で離れる。俺の体を無自覚に触りまくっていたことに気づくと、沸騰したかのように顔が赤くなっていった。


「しょ、ショウゴ! ステラさまを良く守ってくれた。だがまだ認めたわけではないからなっ! 基本動作が素人そのものだ! 今後ビシビシ鍛えてやる! か、覚悟しておけ!」


 あと姫様とベタベタするのは許さん! そう付け加えると、ナターシャは回れ右をして、スタスタとみんなの元へ去って行った。


 なんだベタベタって、それはナターシャの先ほどの行動ではないのか? 

 まあいいか。そんなことよりもやるべきことがあるのだ。


「よしっ! では頂こう!」


 俺はステラの用意してくれた大きなランチバスケットから、サンドイッチを取り出してモグモグ始めた。ようやく昼食を再開できる。


「ふわぁああ? ショウゴまだ食べるの……勇者の奥義を食べたのに!」

「なに当たり前の事を言ってるんだミーナ? 俺はお残しは絶対にしない。それにみんな昼食の途中だろ? 昼を食わないと良い仕事などできないぞ。さあ、みんな昼食の続きだ!」 


「まあまあ、ではみなさんお昼をしっかり食べましょうね!」


 そう言ってステラが、おれの傍で飲み物を入れてくれる。


 再び、至福の時間に突入するのであった。

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