第10話 女騎士隊長ナターシャは、ステラ命

「落ち着けだとっ! ワタシはもとより冷静沈着だ! このヘンタイ!」


 長い黒髪を結わえた女騎士隊長が叫んだ。整った顔にキリっとした銀色の瞳、引き締まった肉体はスレンダーながらに出るところは出ている。


「ナターシャ隊長、ショウゴさまはヘンタイではありません。私を食べて助けてくれたんです!」

「ひ、姫様を食べただとぉおおお! 貴様ぁああ!」


 ステラ、それはさすがに言葉足らずだ。

 ナターシャ隊長が顔を真っ赤にして、剣の柄に手をかけているじゃないか。


「やめなさいっ! ショウゴさまはご自身の危険を顧みず、身を挺して私たちを助けてくれたのですよ」


 ステラの一言で、隊長殿はハッとした顔になり、ピシッと硬直する。

 そして、いきなりその綺麗な額を地面にこすり付け始めた。


「そ、そうでした! 姫様! 申し訳ございません!」


 なんだ? いきなり土下座しはじめたぞ。わけわからん。


「このナターシャ! 姫様の一大事にお傍にいられぬとはっ、一生の不覚! 死をもってお詫びします!」


 再び剣の柄に手をかけたかと思うと、抜刀してその刃を首に当てる女騎士隊長。


「ちょっと、まてまて!? なにやってるんですか!」


 俺がとっさにナターシャ隊長の腕を抑える。さらに、ミーナや他の騎士団員数人により取り押さえられた。


「くっ、頼む死なせてくれ……」


 いやいや、「くっ」じゃないよ。出会った瞬間に自害するとか勘弁してほしい。


「ナターシャ隊長……本当に責任感の強い隊長ですね。ですが自害など絶対に許されません。あなたにはお姉さまの護衛という重要な任務に就いていたのです。仕方のないことですよ。さあ、これからも護衛騎士団の中心となって私を守ってくださいね」


「うぅうう……姫様ぁ……」


 ナターシャは、ステラの姉である第一王女護衛任務の帰還途中の早文で、ステラ襲撃の件を知ったらしい。俺がヘンタイという誤情報もそこで知ったようだ。

 ステラにその後も優しく諭される隊長殿。

 相変わらず土下座体勢なのだが、俺の位置からだとスカートがヤバイ。もう見えちゃうよ。っていうかピンク色見えてるよ。


 そうこうするうちに話はまとまったというか、ステラの説得が効いたのか自害は思い留まったようだ。


 たぶんステラの事がめちゃくちゃ好きなんだな。なんかステラを見る目がキラキラと輝いているし。

 これからも命を賭してお守りします、なんて声が聞こえてきた。


 そんな隊長がスッと立ち上がり、俺の前にきて、ビシッと声をあげる。


「おまえのことは認めていないからなっ! だが姫様の命令は絶対だ! 護衛騎士として恥じぬようまずは装備品を整える、こいっ!」


 ナターシャのキリっとした眼光がするどく俺に刺さる。自分が絶対守ると決めた姫様の窮地を得体のしれない奴に救われたのだ。まあ気持ちはわからんでもない。この人とは、少しずつ信頼を勝ち取っていけばいいだろう。


 しかし、装備かぁ。鎧とか剣かな? ちょっとテンション上がるなぁ。俺は隊長の後に続く。歩くたびにフワリと揺れる布。


 いや……スカート短すぎないですか?




 ◇◇◇




「わあぁ~ショウゴ~色々あるねぇ~」

「うむ、なんか凄いな」


 俺とミーナはナターシャ隊長に連れられて、騎士団の倉庫へ来ていた。


 倉庫内には様々な武器や防具が揃えられている。

 魔法の杖に剣や鎧、そして弓やクロスボウなどいかにもといった装備品が、剣と魔法のファンタジー世界に転生したんだなと思わせる。


「ショウゴ~これカワイイよ。あたしこれにする!」


 ミーナが手に取っているのはほとんど紐の鎧だった。おい、それ……ビキニアーマーじゃないか。


「ミーナ、それは女性用だ。特殊な魔法防御が施されていて、かなりの防御力があるぞ」


 ナターシャが真面目にビキニアーマーのスペックを淡々と説明する。というところから。

 いやいや、防御の問題ではないだろう。さすがにそれはやめとけと止めたが、ミーナは気に入ってしまったのか、手に持ったビキニアーマーを離しそうにもない。


「もう、ショウゴだって着てほしいんでしょっ!」


 はあ? こいつ何言ってんだ? もう知らん、なら着てみろと俺はミーナに言い放った。

 女神の美的感覚がまったく理解できん。

 で、着用したわけだが……


「どう? カワイイでしょ~?」


 ミーナがクルクルと回転してそのアーマー装備姿を見せつけてきた。


 結論が出た、ダメだこれ。

 これ本当に鎧なのか? ほぼ下着にしかみえないぞ。

 もともと巨大な膨らみを2つもつミーナだが、布面積の狭いアーマーからこぼれ落ちそうじゃないか。

 こんな奴が傍にいたら絶対に集中できない。


 ダメと言っても聞きそうにないので、上にローブをはおらせることにした。


「ええ~ショウゴ~これじゃあせっかくの装備が隠れちゃうじゃない」

「違うぞミーナ。全部見せるのではなく、チラ見せするからこそビキニアーマーは映えるんだ」

「え? そうかな……」

「そうだとも! だから普段はこのローブを着ておいた方がいい」

「そ、そっか。ありがとう! で、いざとなったら、脱ぎ捨てて戦うってわけね! 頭いいショウゴ~」

「お……おう……」


 とにかくローブである程度は隠せたな。膨らみは収まりきらずに顔をのぞかせているが。まあ、許容範囲だろう。


 さて……俺の装備は、おお! これカッコイイ!

 俺が目を止めたのは、漆黒の鎧だ。

 これいいな! 黒ってのがいい。基本的にみんなは白銀の鎧に白いスカートという装備なのだが、男としては黒が良い感じだ。


「ふん、随分と分不相応な鎧に目を付けたな。うちはお前を除いて女子しかいないからな。着てもいいぞ」


 おお、隊長殿から許可がでた。ちなみに予想通りと言うか、やはり男は俺しかいないらしい。

 早速、俺は漆黒の鎧を装備してみる。


 うむ、カッコいいことはいい。が……

 なにコレ? 重~~~っ! こんなの動けんじゃないか。


 鎧って重いんだな……考えてみれば鉄の塊なんだから当たり前か。にしてもこれに剣とか盾を持つのかよ。

 ファンタジーアニメとかじゃゴツそうな剣や鎧着て、余裕で飛び回っているのにな。現実は違うようだ。


 結局、左肩の肩当てと左胸の胸当てのみという超軽装備に落ち着いた。

 防御力は落ちるが、身軽に動ける方が良いと考えたからだ。


 剣は良くわからんので、軽めのやつを選ぶ。

 ミーナは、杖を選んだようだ。よく考えたらミーナの戦闘を見たことがない。魔法が得意なのかな?


「よし! 装備は整ったな! ではこれから団員と合流する。ちょうど魔法訓練中だろうから、お前たちの実力を見せてもらうぞ!」


 そう言うと、ナターシャは訓練場の方にサッサっと歩いて行く。


 魔法訓練か、なんだか旨そうな匂いがする。

 俺は自分の胃袋が鼓動し始めるのを感じつつ、ナターシャに続いて訓練場に向かうのであった。

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