第11話 風魔法に、ヨダレがでる

 俺たちは装備を整えて、訓練場にやってきた。

 おお、みんなやってるな。3人1組となり互いに気合の入った声が聞こえてくる。


 ステラがこちらに気づいて、小さな手を振っている。

 どうやら彼女は見学していくようだ、パラソルの下に椅子を置いてゆったりとしている。


「うむ、風魔法の訓練中だな」


「ええっ!!」


 風魔法? 今この人、風魔法って言った?


 ナターシャがビクッとして、俺の方を向いた。


「な、なんだおまえ。急に大声を出すな。もしかして魔法訓練にビビっているのか?」

「い、いえ。違うであります! いよいよ訓練かと思うと、緊張で大声を出してしまいましたです!」


「ふん。うちの訓練はきついぞ。女だからと舐めていれば痛い目に合う。恥をかきたくなければ今すぐ退団することだな」


 なんかわからんが、誤魔化せたようだ。


 にしてもスカート騎士たちが風魔法だと……正気なのか……


 訓練場に近づくと、たしかに風魔法が所狭しと飛び交っている。

 そして、スカートたちもヒラヒラと舞いまくっている。


 こんな状況で訓練とはな……できるだけ見ないようにしよう。

 じゃないと、集中できそうもない。


「大気の精霊よ、我にその力を与え給たまえ! 風魔法ウィンド!」


 1人が風魔法を飛ばして相手役の動きを鈍らせる。そこへもう1人が木刀で切りかかる。


「あれが我々騎士団の攻撃の型だ。撤退の場合も同じく2人1組であたる」


 なるほど、風魔法でも初級魔法だな。殺傷力はそれほどないのだろうが、相手の動きを阻害するには有効だ。

 護衛の本分は、護衛対象を守りきる事だ。相手の動きを止めて攻撃に転じたり、撤退行動をサポートするような訓練は重要なんだろう。


 しかし、彼女たちの風魔法を見ていると、俺の奥底に眠る何かが起き始めた。


 ゴクリ……。

 美味そう……。


 そう、まごうことなき食欲だった。


 なんだろうか、魔力マナイーターを初めて発動してからは、魔法がどうにも美味そうに見えてきている気がする。


 そこへトコトコと歩み寄る足音が聞こえる。ステラだった。


「ショウゴさま、今、美味しそうって思ってませんでした?」

「うぐっ……どうしてそれを? ステラは人の心を読む魔法でも持っているのか?」


 自分の心の声を言い当てられて、俺は思わず声を上げてしまった。


「ふふ、だって……」


 ステラがハンカチを出して俺の口元を拭ってくれた。


「よだれが出てますよ。さあ、訓練頑張ってくださいね」


 そう言うとステラは、パラソルの方へと戻っていった。


 いかん……ヨダレ出ちゃってた。気づいたのが、俺のスキルを理解してくれているステラで良かった。

 これ、ナターシャ隊長とか他の団員が見たら、完全にスカートパンチラへのヨダレだと思われて、変態認定されてしまう。



 そうこうするうちに、俺たちの訓練が始まる。

 俺とミーナ、そして騎士団員のマイアで組むことになった。


「よし、まずは連携訓練だ! ミーナ! 風魔法は使えるか?」

「も、もちろん……つ、使えるわ!」


 ミーナの声がこわばっている。いや、緊張でガチガチじゃないか。


「ではミーナが魔法サポート役、ショウゴは切り込み役だ。マイアは敵役をやってくれ」


 うぉ……切り込み役かよ。

 木刀を握る手が汗でにじんできた。これはけっこう緊張するな。

 あと他の団員が訓練の手を止めて、遠巻きに俺たちの様子を伺っている。やめてくれ、余計に緊張する。


「では、はじめっ!」


「い、いいくわよっ、しょ、ショウゴ!」


 ミーナが右手を突き出した。


「えいっ!」


 ミーナの掛け声とともに、手のひらから風の塊が発射される。


 俺は同時にマイアに向かって走り出した。


 しかし、「えいっ!」てなんだ。せっかく魔法の世界に来たのに掛け声かよ。ナターシャの口から「む、無詠唱だと……」と驚きの声が漏れていたが、もっと突っ込むところがあると思う。

 あと、せっかく手にした杖を使わんのかい。


 などと思いながら走っていたのだが。予想外に素早く走れることがわかった。転生した体は、かなりの身体能力が備わっているのだろう。20歳だしな。

 マイアに肉薄した俺は木刀を上段から振り下ろしたが、あっけなく防がれた。剣のド素人に対して相手のマイアは護衛騎士の1人なのだ。当然の結果といえばそうだろう。

 だが、ド素人なりの意地を見せたいところだ。


「ミーナ、もうちょいサポートくれ!」


「う、うん、ショウゴいくよっ! えいっ! えいっ! えいっ!」


 ミーナの掛け声から、風の塊が連発で飛んでくる。


「くっ……」


 マイアが連発で迫る風の塊に気を取られている隙に、俺は彼女の足元へ再度木刀を横なぎに放つ。

 が、マイアは自由度が制限された体をわずかに跳躍させて、俺の素人木刀を交わしつつ、俺の上に馬乗りとなった。首筋には木刀の先端。


 うわぁ強いな……付け焼刃では通用しないか。


「ふむ、間合いを詰めるまではまあまあだが、剣に関してはド素人にもほどがある! ワタシが基礎からみっちり鍛えなおしてやる! 覚悟しておけ! まあ……状況に合わせてミーナに追加指示を出したことは褒めてやる!」


 ふむ、ナターシャ隊長は単に俺を嫌っているのではないようだな。たぶんステラの護衛を任せられるかという点で、俺たちをみているのだろう。


 やれるだけの訓練は積んでおこう。ミッション達成のためにも基礎戦闘力は重要だからな。そして、いかなる場合でもブレない精神的な鍛錬が必要だ。

 そう……ブレない心。ぶっちゃけマイアのスカートが終始チラついて、それはもう凄いことになっていたからだ。全然集中できんじゃないか。


「ミーナ! 無詠唱での魔法とは見事だ! だが、焦点がブレているぞ、確実に相手の動きを阻害することに集中しろ!」


 ミーナがコクコクと頷いている。俺にはどこがブレているのかわからんが。


 さて、今度は役割をローテーションさせて同じ訓練をする。

 俺が適役。ミーナが攻撃役で、マイアがサポートだ。


「大気の精霊よ、我にその力を与え給たまえ! 風魔法ウィンド!」


 マイアの手のひらから放たれた風の塊が、俺に迫る。


 ゴクリ……。


 ダメだ……やっぱ美味そうだ。口の中に唾液が分泌されていくのを感じる。


『魔力放出を感知、吸収可能です』


 俺の脳内にスキルの声が響く。では、早速スキルを発動して……頂きます!


 パクリっ!


 ズゥズゥウウ~~~


 スキルの口はマイアの放った風をどんどん吸い込んでいく。

 このつるつるとした清涼感と歯切れの良さ。


 ―――これはそうめんだ!


 なめらかな舌触りに、プッツンプッツン噛み切れる感がたまらん! 爽快だ!


「なにぃ! 吸い込むだとっ!」

「う、ウソ……なにあれ?」


 ナターシャ隊長とマイアが同時に驚きの声をあげる。


 一瞬固まってしまったマイアだったが、すぐに切り替えて連発して風魔法を放ってきた。俺はそのすべてをつるつると頂いた。

 こりゃいくらでもいけるぞ! 体の中から涼しくなる。


 魔力マナが切れたのかマイアが肩でゼーゼー息をしている。まったく食い足りないのだが、魔力が無くなったのならしょうがないし、無理はさせられない。


「ご馳走様でした!」


 俺はマイアに一礼する。


「魔法を……た……食べるだとっ! おまえはいったい何者なんだ?」


 ナターシャが俺をマジマジと見ながら問いかける。


「俺か……おれはただの元大食いチャンプだ。食べることだけは譲れんぞ」


「わ、わけのわからんことを! まだ認めたわけではないからなっ! 昼食休憩後も訓練は続行する。覚悟しておけ!」


 そう言い放つと、ナターシャ隊長はスタスタと去って行った。

 まだまだ認めてくれないらしい。まあ、魔法を食べてただけだからな。


 にしても、昼飯だと! すでに漂いつつあるいい匂いに、俺の胃袋は今日一番の躍動を開始するのであった。



 ~獲得アイテム一覧~


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 使用可能アイテム

 ・ファイアーボール×24

 ・ハイファイアーボール×1

 ・聖王女の上級回復魔法ハイヒール×2

 ・光物理殴打ライトナックル×30

 ・風魔法ウィンド×21

 ・「えいっ!女神風魔法」×6


 ☆特殊スキル

 魔力マナイーター →停止中


 ・吸収率3倍(LV2) 

 ※吸収した魔法を吸収率に応じてアイテム化


 ・魔力吸収口マナマウス →停止中


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