第8話 見習い女神ミーナ、頑張って状況整理する
「やりました~お父様の許可も頂きましたし、これで晴れてお二人は、私の護衛騎士です!」
ステラが俺とミーナの手をギュッと握りながら、ニッコリ微笑んだ。
俺たちは王城内の宿泊個室へと向かっている。
多数の護衛騎士は宿舎で寝泊まりするのだが、一部はステラの近くに用意された部屋で寝るらしい。まあ身辺警護なので、そうなっているんだろう。
「あ! 私ったら……はしたない……」
突然ステラが俺から手を離すと、頬を真っ赤にして俯いた。
どうやら興奮して、俺の手を握りっぱなしだったことに気付いたらしい。
この王女、いちいち仕草が可愛すぎなんだよなぁ、無自覚なんだろうけど。
しかしポッと出の俺たちが、いきなり王女部屋の近くに泊まって大丈夫なのか。
「私、王城内では結構自由です! だから問題なんてありません!」
と元気な返事が返ってきた。
「ショウゴさまは護衛騎士であると同時に、私の大切な命の恩人なんですよ。何も気にすることはありません。ご自宅のように過ごしてくださいね」
まじか、でかい自宅だな。前世の6畳ワンルームのアパート何棟分なんだか。
そして、王城内の一室に案内される。何かあればメイドさんに言ってくれとのことだ。
俺は入室するや、ベッドに飛び乗りゴロンと大の字になった。
思えば、転生して最大のピンチを切り向けたと思ったら、こんなでかい城に来て。ようやく落ち着いた時間を持てた気がする。
前世では考えられないような展開の連続だったな。
そして王女で聖女のステラとの出会い。前世の俺なら関係する余地ゼロだったろう。
異世界転生、悪くない。
いい気分で鼻歌を歌っていると、ドアをノックする音が聞こえる。
「えへ、来たよ~あ・た・し」
隣の部屋から来た、見習い女神のミーナである。
あ~そうだった。情報共有のために打ち合わせするんだったか。もうちょい1人の時間を満喫したかった。
にしても……どんだけうっすい寝間着姿で登場するんだ、この女神は。
「ちょっ何よその不満げな顔! こんな超カワイイ美少女が、中身おっさんの部屋に来てあげたのよ! もっとテンションあげなさいよ!」
超カワイイ美少女か、入室と同時にうるさくしなければ、カワイイんだがな。
しかし情報共有はしないといけない。俺たちのミッションはすでに始まっているからな。
「じゃあまずは状況確認ねっ! え~と、ステラと仲良くなれたのラッキーで、んでから~ペラペラペラ~~~」
ミーナが勢いよく早口で、情報を出しまくる。怒涛の勢いとはこのことか、というほどの速さだ。
「痛っ!」
舌をかんだらしい。
「よし、ミーナ少し落ち着こうか」
「うわぁ~ん、あたし知ってることショウゴに話さなきゃ、話さなきゃって~ごめんなさい~あたしショウゴの役に立ってない?」
泣き出したミーナの頭を撫でてやる。
「よしよし、大丈夫だ。もちろん役に立っているぞ」
本当のことだ。やはりミーナの情報は重要だ。それに心から俺へのサポートを頑張ろうとしているのは明らかだ。
ちょっとあわてんぼうさんなだけなのだ。
「ほ、本当?……グスっ」
「ああ、本当だ。俺に多くの情報を話してくれようと頑張ったんだろ?」
「う、うん……グスっ」
「じゃあ、今までの状況整理をするぞ」
●ミッション
・イレギュラーである魔王を討伐して、この異世界の破滅を救う
・魔王討伐には聖王女ステラの涙が必要
・ただし現状の未来予想ではステラは、魔王討伐の前に殺害されるので護衛が必要
●やること
・ステラを護衛しつつ、「聖王女の涙」をゲットして魔王討伐
●現状
・ステラのピンチを救って仲良くなった。護衛に採用された
・俺のスキルはマナマスターではなくマナイーターだった
・変な勇者に会った。固有の光属性は魔王に大きなダメージを与えるらしい
「まあ、こんなところか」
「す、すご~いショウゴはまとめ好きなのねぇ~」
いや、普通の社会人なら当たり前の能力だ。だが、今は言うまい。
それよりも足りない情報を埋めないとな。
「ミーナ、そもそも魔王ってのはどこにいるんだ?」
「ええ~えっと……たぶん……そのぉ……お城的なところにふんぞり返っているんじゃないかな?」
まったく知らないか忘れてるな……これは現地で情報収集の必要ありだな。
「次、聖王女ステラの涙って具体的に何なんだ?」
「え? それは涙なんだから涙よ」
「まったく具体的じゃないな。その涙で魔王に何かしらの事をするんだろ? 封印とか、弱体化とか」
「うぅううう………たしかねぇ、たしかねぇ………」
「頑張れ! やればできる子だ、おまえは!」
「あっ! 思い出したっ! 魔王はステラの涙を使わないと、どんなにダメージを与えても再生しちゃうのよ」
なるほど、これは「聖王女の涙」は必須アイテムだな。
どんなに強力な攻撃を与えることができても、再生されたら勝ち目はない。
「しかし、そんな凄いものなんだ。普通の涙ではないんだろうな」
「う~ん……えと……たしか発動条件があったような……えと……ダメ思い出せないようぅ」
よし、必須アイテムということが再確認できただけでも良しだ。
不足情報は、収集の必要ありだな。
「ちなみにステラは誰に殺害されるかわかるか?」
「それは、わからないわ。未来は魔王がステラ無きあとに大暴れする。ぐらいにしかみえないの」
「そうか……まあ魔王勢力の誰か、もしくは魔王自らという可能性もありそうだな。さきほどの襲撃は、明らかに人間ぽい奴らだったしなぁ。これはステラを護衛することで、防ぐしかないか」
「ごめんねショウゴ。天界ノートパソコンがあれば検索できたんだけど。この世界には持ち出せないから。あれがないと未来もみれないわ」
なるほど。ということは、俺たちがこちらに転生した後の未来が変わったのかを調べるすべはない、ということか。
ていうか天界で見たあれノートパソコンなのかよ。まんまだな。
「まあ、とりあえずこんなところか。俺たちの当面の目標は護衛として馴染むことだな。ステラの傍にいるポジジョンはキープしたい」
「そうね、あとは並行して情報を集めるのね!」
情報共有と当面の方針が決まったところで、ステータス画面をあけてみる。
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使用可能アイテム
・ファイアーボール×24
・ハイファイアーボール×1
・聖王女の
・
☆特殊スキル
・吸収率3倍(LV2)
※吸収した魔法を吸収率に応じてアイテム化
・
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「おお、うな重……じゃない勇者の技がアイテム化されてるぞ」
「ふわぁああ、ショウゴこんなに食べてたのね……そりゃ勇者もはぁはぁ言うわね」
たしか魔王には光属性が効果大らしいからな。手札は多い方が良い。っていうかまたうな重を食べたい、是非!
さて、随分話し込んでしまったが、ここらでお開きだな。
ミーナも若干眠そうな顔をしている。まあ今日1日色んな事がありすぎたからな。
ミーナが手を振ってドアを開けると……
「あらっ! ミーナ? え? ショウゴさまの部屋からミーナが!?」
奥からステラの声がする。ちょうどノックしようとしていたらしい。
彼女は、うっすい寝間着姿のミーナを凝視して固まってしまった。
「はぅうう……な、なんですかミーナ、寝間着姿で殿方の部屋に入り浸るなんて! 破廉恥です!」
どうやら王女自ら、明日の予定を伝えに来てくれたらしい。
「ショウゴさま! 明日は護衛騎士団の城内宿舎に行きますからね! 寝坊しないでくださいね! 私、羨ましいとか思ってないですからっ!」
そう言うとステラは顔を真っ赤にして、ダッシュで走り去って行った。
ミーナも、「テヘっ」と舌を出して退出する。
まあ、しょうがないか。タイミングが悪かったことにしとこう。ステラとは少しずつ人間関係を構築していくのだから、たまには怒られることもあるだろう。が……
羨ましいってなんだ?
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