第7話 自己中勇者殿! ごちそうさまです!

「嫌がる? フッ、何を言ってるんだ。一方的な愛を押し付けるヘンタイ君と違って、僕とステラさまは相思相愛なんだよ」


 ステラは勇者から逃れようと、その掴まれた手を必死にブンブンしている。

 うわぁ、こいつヤバいな。

 どこが相思相愛なんだよ……


「そんなことより、国王陛下! ステラ王女殿下を僕のパーティーに加えてくれるお話はどうなっているのですか?」

「う、うむ……勇者よ、その話は今しばらく待て」


「しかし魔族たちは待ってはくれませんよ。僕もそろそろ我慢できな……じゃない王女殿下の強力な聖属性魔法は、魔王討伐に必要な力だ」


 おいおい、本音がちょっと漏れちゃってるじゃないか。しかしなんだ、ステラは勇者パーティーに加入予定なのか? 話の流れからは勇者が強引に話を進めているようだが。


「では、ステラさま、僕らの未来のパーティーについてじっくり打ち合わせをしましょう。2人きりで」

「は、離してください………イヤ」


 小さな声だが、ステラの意思が俺の耳に入ってきた。

 俺は静かに勇者の前に進み出る。


「おい、嫌がってるだろ。ステラさまから手を離すんだ」

「なんだ、ヘンタイ君。僕に向かって無礼な言葉遣いだな。これだから下民どもはフッ」


 勇者アルダスはステラから離れて、俺を見下すような笑みを浮かべて近づいてきた。


「君は何か勘違いしているようだね。うまく王女殿下の救世主に成りすましているようだが、魔力ゼロの下民ごときが何をやっても僕には及ばないんだよ。……と言っても分からないだろうから見せてあげよう」


 勇者アルダスは、口元をニヤつかせながら叫ぶ。


「みたまえ! 強者の魔力マナとはこういうものを言うんだぁああ!」


 勇者の体が輝き始める。なんか体全体からオーラのようなものが噴き出し始めた。


「おお、凄い魔力マナ量だ!」

「勇者さまの魔力マナを見られるなんて、今日はいい事あるかも~」


 あ、これ魔力マナなのね。へぇ~目視できる程の魔力マナかぁ。やはり実力だけはあるんだなこの勇者。


「ステラさま、今このヘンタイ野郎を成敗します! ご安心ください!」

「勇者さま! 何を言っているのですか! その方は私の命の恩人ですよ、おやめなさい!」


 そこへ俺の脳内にスキル声が響く。


『魔力放出を感知、吸収可能です』


 スキルの声が脳内に響く。おお、もしかしてこれも食べられるのか?

 俺は静かにスキル【魔力マナイーター】を発動した。


「王女殿下を惑わすヘンタイ男めっ! 我が光の拳で成敗してくれる! 光物理殴打ライトナックル!!」


 勇者が光の拳を俺に向かって振り下ろしてくる。

 が、その拳が俺に当たることは無い。



 パクっ!



「ふぁっ!――――――!?」



 勇者アルダスの情けない声が一瞬聞こえたあと、マナイーターの口が勇者ごとパックリいってしまった。


「む、これは……!」


 外はカリっと香ばしく、中は柔らかふっくらな食感。ほど良い脂と甘すぎず辛すぎずのタレがごはんと混ざり合い絶妙のバランス。そう―――


 ―――うな重じゃないかぁああ!!


 ヤバイ! めったにお目にかかれない品だぞ。


 ゆっくりと咀嚼して味わう。

 こりゃ美味い! 最高!


 ペッ


 ほどなくして、マナイーターの口から解放された勇者。


「ふあっ! な、なんだ……どうしたんだ!」


 慌てふためいて、あたりを見回す勇者アルダス。


「お、おい。なんか、勇者さまが食べられたような…」

「バカなことを、あれも勇者さまの不思議なお力なんだろう」

「あれ? なんか勇者さまの魔力マナが消えてるような…」

「え~もうおしまいですか~勇者さま~」


 まわりがざわつき始める。


「ぐっ…おかしい。これは幻惑魔法か? 僕の魔力マナが……はあ……はあ……」

「大変美味かったぞ! さすがは勇者殿だ!」

「ふ、ふざけているのか……この魔力ゼロのヘンタイ下民が……僕をなめるなよぉ、ふぉおおお!」


 勇者アルダスは再び魔力マナを放出して、ライトナックルを繰り出してくる。


 おお、おかわりくれるんか!

 これはありがたい、俺は速攻で、パックリといかせてもらう。


 またもうな重タイムだ。

 その後も勇者殿は何度もご馳走してくれた。


「はあはあはあ……ぐっ、くそっ……なんで、はあはあはあ」


「ねえ、なんか勇者様クネクネ変な動きしてるんだけど…」

「ずっとはぁはぁしてるぞ」

「ちょっと、気持ち悪いかも…」


 なんだかまわりのザワつきが、当初とはずいぶん変わってきた。


「ちょ、ちょっと具合が悪いので僕はここで失礼する」


 急に踵を返して去ろうとする勇者。ええ、ここでうち止めかよぉ。しかしまあ、現世でもおいそれとはありつけない品を惜しげもなくご馳走してくれるとは、さすが勇者だ。


「うな重殿! ご馳走さまでしたっ!」


 そんな勇者に向かって俺は一礼する。いや、本当に美味かった。


「くっ、意味の分からぬヘンタイが! 君のような下民は、まわりのお飾りと同じく僕の力の庇護をうけていればいいんだ! これだけは忘れるなよヘンタイ! 僕のステラは渡さないからな!」


 マントをズルズルと引きずりながら、勇者はまわりがドン引きする捨てセリフを吐いて、去って行った。


 あいつのうな重は一級品に美味いんだが、それ以外がダメダメすぎるな……


 そこにふわりと甘い香りが俺を包む。

 ステラがいつの間にか俺の手を取っている。彼女は柔らかく微笑みながらおれに聞いてきた。


「先程の、ショウゴさまの【スキル】ですよね?」

「そうだよ、【魔力マナイーター】で美味しく頂いたんだ」

「やっぱり! ショウゴさま凄いです! 流石オオグイチャンピオンです、ありがとうございます!」


 俺としては、美味しくうな重を頂いただけなんだが。満面の笑みでお礼を言われた。


「私……あの人苦手なんです……」


 ステラが俺にしか聞こえないであろう小さな声で、呟いた。


「なら、早速、護衛任務を遂行できたってわけだ? 聖王女様」

「はい! そうですね!」


 聖王女ステラは、可愛く微笑むのだった。

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