第3話 大事故~兄視点~
ルナが眠ったあと、僕はポケットに入れていたアイテムボックスから紙と自動インク羽根ペンを出し、サッと簡潔に書いた。
『親愛なるディオン・シー・スリチア殿下
今王宮からの帰り道なのだが、凄く嫌な胸騒ぎがするんだ。
もしもの時はルナのことを頼む!
永遠の親友ライアン・エメルロ』
馬車の小窓を開け、手を挙げると可愛い水色の鳥が小窓に止まった。
「マロンこれを隣国のディオン殿下まで届けて……マロン、もし僕がこの世からいなくなったら、ルナのことを見守ってほしい。ルナの鑑定が無事に終わり、環境が落ち着いたら自由に生きて良いし、ルナと共に生きても良いからね。
僕の友達になってくれてありがとう。大好きだよマロン。
さあ行って」
言葉と気配で何かを悟ったのか、ライアンの肩に乗り頬に頭をスリスリしたあとルナの頬にもスリスリし、ライアンの瞳を見て「キュゥ」と一言鳴き、バサリッと大空へ羽ばたいて行った。
(マロン、ありがとう)
マロンは空中で馬車の周りをずっと迂回していた。マロンの行動も気になるが、このドクドクと脈を打つような心臓の鼓動とゾワゾワとする嫌悪感が気になり、急いで巾着の小さなアイテムボックスの中に父上から預かり受けた家宝の【神獣の主の古記】を入れ、ルナの内ポケットの中に忍ばせた。
サラサラなルナの髪を撫でながら今日の出来事を考えながら、小窓から見えるマロンを見ていた。
家宝の神獣の主の古記を王に盗られていたが、今日やっと僕達の所へ無事に戻ってきた。
王は神獣を使って何かを企んでいたが、それは叶わなかった。なぜなら、古記が開かなかったからだ。
王のそばにいる暗部隊が苦労して入手して来た古記を滅相としたが、それすらも出来なかった。魔法で燃やそうとしたが跳ね返り、魔法を唱えた者の体に火がつき騒然となった。王は「呪いだ」と叫び、神獣の主の古記を返してもらえたのだ。だが、なぜかは分からないがバカ王子と大切な妹であるルナを口約束だが、婚約すると言ったことが分からない。あの顔は何かを企んでいる様子にも見えた。
だが、正式な婚約には婚約書という物に名を刻まなければならないから無効と同等だと言っていた。だから、明日から親友の国へ移住する予定だったのだが……。
殺気のようなものを感じた僕は、ルナの頭に手を乗せて光魔法の小さな結界を発動させようと四苦八苦していたが、外から感じた殺気が不穏な空気へと変わったのが分かった。
僕は、一か八かに賭けて光魔法を発動させた。
だが、運命とは残酷で……このままでは終わらなかった。
「間に合えっ!!
この者を障害から防ぎ守れ……
奇跡的に光魔法が発動し、両親にも結界をと思ったのもつかの間、間に合わないと悟った僕は、ルナを守られるようにして抱きしめていた。
ドオォォーーンッ!!
僕達が乗っていた馬車に風魔法で攻撃されたかのような衝撃が走り、大きな音と片方の車輪が外れたと同時に馬車のバランスが崩れ、大きな揺れと次々に迫ってくる容赦ない激痛。
そして、馬車の中で全身を強く打たれ、崖から転落したのだ。
生き残ったのは……。
光魔法に包まれていた『ルルナ』だけ。
2頭の馬は亡くなっており、馬車は大破していた。
その大破した馬車から投げ出された父上はうつ伏せで倒れており、後頭部を強打したのか、酷い流血で既に亡くなっていた。
母上は亡くなる直前に、意識がないルナとまだ微かに息がある僕を守るようにして抱きしめ、微かな声で「……ライア…ン、ル……ルナ……」ルナと僕の名前を呼び、亡くなった。
馬車が落ちる寸前、僕はルナに守りの魔法を使ったことから、ルナだけは奇跡的に生き残った。
ライアンの魔力は成長途中で多くなく、1人分の守りの魔法(光魔法)も未熟だったが、妹思いの力が奇跡を発動させたようだ。
僕はこの先どうなるのか分からない3歳の幼いルルナのことを思うと、苦しくて涙が溢れ流れてしまった。
「……くはっ……」
胸を強打し肋骨が折れ内蔵に刺さったのだろう、大量に吐血した唇を噛み、震える笑顔でルルナを見つめた。
気絶し、意識がないルルナに語りかけた。
「ルナ……1人にさせて……ごめん。
隣国へ……僕の、親友の……げほげほっ、ごぼっ…可愛い妹……生きて…ル……ナ……」
僕は、妹であるルナの手を握り、一筋の涙が零れたと同時に、天へと旅立った。
空を羽ばたいていたマロンは、主人の死を悲しみ『キュキュゥゥゥッ!!』と泣き叫び、隣国へと急いだ。
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