第2話 家族との別れと悪夢の始まり
私はルルナ・エメルロ。ローバル国、エメルロ侯爵家の娘だ。
両親は凄腕の治癒・光魔法使いのお父様とSS級薬師のお母様とで王宮(国王陛下)から家宝の神獣の主の古記を無事に取り返し、ライアンのアイテムボックスに入れた。この古記はエメルロ侯爵の血筋の者だけが開け、読めるようになっていた。
ようするに、神獣の主の古記を剣で斬ろうが魔法で燃やしたとしても、結界が張られているので傷は付かないし、燃やすことすら出来ないのだ。
私達はスリチア国へ帰国することになり。お屋敷へ帰ったら、明日の朝一で隣国へ出発する旨を手紙で辺境伯の叔父様に知らせ、1日が終わりを迎えるはずだった。
なのに。
王宮からの帰り道。
それは起こった。
ガタガタと鳴る馬車の中、お父様とお母様は寄り添うように、ウトウトと眠っているのを眺めていた私とお兄様は、顔を見合わせて「クスリ」と微笑み合った。
「おとうたまとおかあたま、ねてるね」
「そうだね。今日の仕事も忙しそうだったから……。
(この胸騒ぎはなんだろう。気のせいなら良いが、一応ディオに知らせておくか)
ルナも眠って良いからね」
私はお兄様の腕に抱きつき、肩にソッと頭を置き、ウトウトしていた。
が…………。
私が眠っている間、お父様とお母様、大好きなお兄様まで亡くなっていた。
あの大事故で生き残ったのは『私』だけだった。
痛いよ、お父様。
身体中が苦しいよ、お母様。
心が寂しくて辛いよ、お兄様。
一人は怖いよ!
涙は枯れることなくポロポロと流れ。
大きな心の傷は、癒えないまま時間だけが過ぎていた。
そして、数日が経過した。
私の怪我は騎士にポーションを飲ませてもらい癒えたのだが、心までもは癒すことが出来なかった。そんなのは当たり前だ。だが、身も心もズタボロな私を硬い座席の古い馬車に乗せてどうするのだろう。
そして、私はどこへ連れて行かれるの?
舗装をされていない不安定な道を何時間進んだのだろうか?
ガタガタと揺れ、硬い座席だからお尻が痛い。
そんな馬車の小窓から外を覗き見ると、小さな古めかしい建物が見えてきた。
あれは、小さいけれどお屋敷だ。
ってか、ここは何処なの?
ボロボロの古いお屋敷の周り全体は暗く、外壁は薄汚れ、所々壊れている部分もあった。
庭は雑草だらけで管理が行き届いていない様子が伺える。こんなところに人が住めるのかも怪しい。
敷地内全体がこんな汚ったないと、幽霊が住んでてもおかしくない。
そんなボロくて汚ったないお屋敷の前で馬車が止まり、見知らぬ男性に腕を掴まれたあと、引きずられるように馬車から下ろされ、早歩きでグイグイと引っ張られながら移動した。
(腕に指がくい込んでて痛い!)
「ここはダメア男爵家のお屋敷だ。
エメルロ侯爵の家財類は男爵が預かってくださっている。
おら、さっさと歩け!!」
(預かってる?
本当に預かってくれてるの?)
悲鳴を出す間もなく、建物内に入った私には荷物などは無く、侯爵家だった家族のお金・家財道具など、お金になる物全てお母様の兄であるダメア男爵の叔父夫婦に盗られてしまうのだと、幼い私は悟った。
その一人娘であるブリアンには、私が使用していた物を全て盗られてしまうことも、小さな私でも分かった。
なぜなら、私の前に現れた人物がそれを自慢げに見せつけて来たからだ!
ドレスは破れそうなくらい、ピッチピチに伸びきり、今にもはち切れそうな姿に目を背けたくなった。
だが、3歳の私にはどうすることも出来ない。
親の形見であるエメロイ家に代々伝わってきた【神獣の主の古記】そして、お兄様の【アイテムボックス】だけは隠し持っていた。
あと、このロケットの中には家族の写真が入っている『ギュッ』と握りしめ、この3つだけは絶対に渡さない!
大切な古記とロケットをアイテムボックスに入れ内ポケットに隠し入れたあと、お屋敷の奥へ入った。
まだお昼だというのに周りは薄暗く、上を見上げれば一応掃除はされているが、床は所々に塵が積もり、軽く走ると埃が舞い上がってしまいそうで不衛生だわ。
ここが貴族のお屋敷なの?
メイドさんは数人だけど愛想悪く、こちらを睨んでいる。
ここのメイドさんは掃除が下手なのかな?
そういえば、お父様とお母様が前に話していたのを思い出したわ。
『ダメア男爵家はもう駄目だろうな。
何度も資金を援助したが、散財を辞めないのが原因だ。
またメイドを辞めさせたらしい、もうこれ以上の援助は出来ないな』
お母様は両手で顔を覆い隠して泣いていた、
『わたくしは妹として情けないわ。
ラック、今日までお兄様に資金援助をしていただきありがとうございました。そして……ご迷惑をおかけして申し訳ありません』
お父様はお母様を優しく抱きしめ、親指で涙を拭い。瞼にソっとキスを落とした。
『謝らなくて良いんだよ。
ほら、泣き止んでほしいな、俺の可愛いデイジー』
お父様と寄り添って話していたお母様の目から涙が何度も何度も流れていたわ。
私とお兄様は片隅で手を繋ぎ、それを見守ることしか出来なかった。
そう考えていると、階段の前で待ち構えていた叔父家族は、私に信じられない言葉を発した。
「何をしている!
さっさとこっちへ来い!
オマエはココで寝起きしろ。窓もベットもあるんだ、少しでも文句を言ってみろムチ打ちだからな。
食事だが、残りのスープと一欠片のパンだ。分かったなっ!!」
「……えっ……?」
私の頭は数秒間フリーズし、正常な考えになるまで静止してしまっていた。
メイドが少ないから私の食事も無いに等しい量なの?
そんな私の態度に腹を立てたのか、叔母に頬を打たれ、その衝撃で倒れてしまった。目の前はチカチカし、白くて絹のような頬はジワジワと赤く染まったあと、ジンジンとした痛みが襲ってきた。
倒れたまま、打たれた頬を震える手でそっと触れた。
(何もしてないのに頬を打たれた……。
こんなことされたのは初めてだ)
叔母は腰に手を当てて、私に指をさしてこう言った。
「屋敷のアチコチを見回るんじゃないよっ!」
ブッサイクなブリアンはふんぞり返るようにして大きく口を開いた。
「ふんっ……ブッサイクなおんな!!」
ブリアンを見ると、赤茶色の髪は縦ロールにソバカスが目立つ顔は下の下だ。
不細工なのはどっち? と言いたくなったが、喉の奥に言葉を引っ込め、叔母を見た。
赤茶色の髪を後ろで束ねられ、母様のドレスを身につけ、腕組みをしてこちらを見ていた叔母は、ツカツカとこちらへ歩み寄り、また叩かれると思い反射的に両手で頭や顔を守るような形をとったが、叔母は私の胸ぐらを強く掴んだ。
そして、私が寝る部屋の前で思い切り押された私は尻もちをつき、足早に去って行く叔母達を呆然と見ていた。
「……らんぼうで、くちがわるいひとたちだなぁ」
お尻をさすりながら立ち、部屋の確認をした。
汚いけど、ベッドには布団がきちんと畳んであった。
3歳児を押し倒すなんて有り得ない!
まあ、私は何も出来ない箱入り娘ではないから大丈夫なのだけど、広いお屋敷でないことだけは分かる。
お母様が家事や生活に困らないように、いろんなことを教えてくれてたおかげで苦労無し!
と、言いたいけど、問題は食事。大丈夫なのかな。
用意されていた食事は、叔父が言っていた通りスープと一欠片のパンだった。
私の両親の財産を使ってるのに、何で私の食事がこれだけなの?
「……あの、わたしのしょくじは、コレですか……?」
叔母に虫けらを見るような目で睨まれ。
「食事?
そうよ、見て分からない?
オマエのはそれで十分でしょっ!
もっと食べたければ残飯を漁りなっ!
ようがないのならさっさと物置部屋へ戻れ!!」
「……っ……」
「何だい、その生意気な目は?
教育……いいえ、躾が必要だねっ!!」
パアァァーーンッ!!
再び叔母に頬を叩かれ、自慢の色白で綺麗な肌は真っ赤に腫れ。
ジンジンとした痛みで、顔を歪ませた。それを見るのが楽しいのか、暴力(鞭打ち)で快感を得た叔母の顔は悪鬼のようだった。
お兄様やお父様のように魔法が使えたら、叔母達からの暴力や嫌がらせをかわせることが出来たのにな。
無いものねだりしてても現状は変わらない。
でも、こんな人達の前では絶対に涙を流して泣かないんだから!
厨房で水と食材を漁り、果物と硬いパンを部屋でゆっくりと食べた。
口の中が切れているから、ゆっくり食べないと痛いの。
今日は何とか余りの食事が確保出来たけど、毎日あのスープと一欠片のパンだけでは餓死してしまうよ。それに、明日はどうなるかも分からない。
食材を見つけたら部屋へ隠す。
この繰り返しの毎日を過ごし、食べることだけは出来ている。
そして、嫌な毎日が続くのは……『暴力』だ。
叔父は言葉と物を投げる暴力。
叔母とブリアンは叩いたり、物や鞭で身体中を打たれ、痣だらけ。
痣は服で隠せるけど、身体中が痩せ細り、栄養失調気味で皮と骨しかない不健康で髪もボサボサ な状態になっているのは隠せなかった。
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