第4話 スキル鑑定

狭く汚れた物置部屋には小さな窓が1つだけあり、小窓を開けて新鮮な空気を部屋に入れベッドに座るとギジリと音がしていた私は、今日も秘密裏に手に入れた本を読んでいる。


人気ひとけがない時に様々な部屋で見つけた本で、いつも身に付けているアイテムボックスに入れては自分の部屋で読み漁っていた。


 これらは礼儀・マナー講座や魔物・モンスター関連の良い本のようだ。


そんな私は一人で勉強や魔物図鑑にマナーの本を頼りに、独学で『わたし』呼びから『わたくし』呼びへ変えることにしたが、従姉妹のブリアンより勉学から気配りまで出来る女の子に成長していると自分でも実感出来るくらい成長していた。


そして、私が次に覚えたのは姿勢だ。これはお馴染みの、頭の上に本を置き。そのまま歩く。座っている時も綺麗な姿勢が崩れないように本を置いて保っていた。簡単なようで案外難しいのが難点だ。


カーテシーは直ぐにマスターが出来ていた。


だが、少しでも私に変化があると言葉の暴力から始まり、煩わしいと頬を叩かれたのち鞭打ちをされ、肉体的にも精神的にも苦痛へと追い込まれる暴力の数々だった。


このような悲痛だらけの日々が続き。


私の心は壊れそうにもなるが、マロンが頬ずりという癒しをくれるおかげで、なんとか持ち堪えている。


(こんな監獄の中になんて居たくない。早く1人で生活が出来るようになりたい)





そして、あれから2年が経ち。





ブリアンと私宛に、王宮からの知らせが届いた。


それは、ローバル国内の5歳になる貴族子息令嬢はスキル鑑定をしてもらう為に、王宮へ出向かなければならない。


王宮でのスキル鑑定は貴族のみ。庶民は教会か冒険者ギルドでスキル鑑定が出来ることになっている。


この鑑定によって職業が決まったり、自ら選んだりが出来るようになっている。


それが、この国であるローバル国の決まりだ。


廊下を歩いていると上機嫌なブリアンが私目掛けてドレスを投げてきた。


「スキル鑑定をする為だから、お母様が来週それを着なさいって言ってたから」


そのことだけを告げるとドスンドスンと廊下に足音を響かせながら、スキップして去って行った。


(凄い地響きだわ)


「少し汚れてはいるけど、見た目は綺麗だわ。


……明日は槍が降るかもね」


慌ただしい日々が続き、いよいよスキル鑑定の日を迎えた。


数年ぶりの湯浴みをした後、ブリアンのお古のドレスに着替え「マロン、行ってくるね」と、一言告げ叔父家族と馬車へ乗り、王宮へと急いだ。




数時間後、王宮へと集まった私達は、大広間へ通された。




大広間では、5歳になる貴族の子息令嬢が瞳をキラキラさせながら、周りを見渡していた。


その中に私も立っているが。周りの大人や子息や令嬢は私をジロジロ見たり、ヒソヒソしていた。まぁ、私が着ている古く型落ちしたドレスはブカブカで、痩せこけた顔と身体は誰が見ても分かるくらい不格好だから見てしまうのはそうだろう。ろくに食事も与えられず奴隷のように働かされていたのだから。


周りを見れば健康体で、最新のドレスを着た子ばかりで、少しだけ羨ましいなと思ってしまった。


が、当然その中には従姉妹のブリアンもいる。


後方では大人同士の耳につくような談笑。


でも、大人の談笑より、隣にいるブリアンが鼻を膨らませ、興奮気味の荒い息をしている彼女のことが、恥ずかしいと思ってしまった。


うぅん。少しではなく、かなり恥ずかしい!


フガーッ、フガーッと鼻息が荒いブリアンの隣になんて、これ以上いたくもないわ!!


ソロリ、ソロリと移動し、ブリアンを見て(貴族令嬢として、あの態度はどうなのかしら)と思ってしまった。


なんだか変態と一緒にいるみたいで、気持ち悪いわ。


私はブリアンに気づかれないよう、隅の方で人間観察をすることにした。


立ち居振る舞いが立派で、礼儀正しい子もいれば、ブリアンのようにマナーの欠片もない子もいるのね。


でも、礼儀作法に差はあるけど。


まぁ、今後のマナーや勉学次第で変わるものね。



うしろにいる、見栄っ張りの大人の談笑は、本当にうるさい。


耳鳴りのようにキンキンするわ。


私は溜息を吐きながら大きな扉を見つめていた。


(早く終わらないかな)


スキルさえ貰えれば、それをいかした仕事が出来て、1人で生きていけるもの。


でも、5歳の幼児に仕事をさせてもらえるかは分からないし、現実は甘くないと分かっているが、あんな奴隷屋敷から出たいとさえ思っている。


そして、奴隷のような生活から抜け出したい。


どんなに貧しくても良いから、1人で気ままに生きて行く方が何万倍もましだから!


あっ!


大広間の扉が開き、王族から続々と入り王様が王座へと腰をかけ、王の合図で鑑定が始まった。


「皆の者、多忙の中よくぞ参ってくれた。


早速だが、スキル鑑定を1人ずつ行なってもらう」


水晶を前に、ローブを着た青年が鑑定を始めた。




順番に整列し、我先にと言わんばかりに、私は知らない子達に押され、揉みくちゃにされながら列んだ場所は……最後尾だった。


まぁ、分かるよ、1番最後なんて誰も並びたくないもの。


私の前、後ろから2番目に並んでいるブリアンが口を開いた。


「うっわぁ、最後尾って、ぷぐふふふ。


アンタにはピッタリな位置じゃないのよ!!」


(アンタだって後ろから2番目でしょうが!!


それに笑い方……気持ち悪!)


ブリアンなんて無視よ、無視!


私のスキルは何だろう。


自分のスキルのことを考えるだけで、胸が踊るように『ワクワク』するのを我慢し、順番を待った。


前に並んでいるブリアンが振り向き、また小言や文句を言うのかと思いきや。


「べーーっ!!」


何なのアレ。


あんなのでも令嬢なのに、恥さらしもいいとこだわ。





そんな事を考えていると、一人目の鑑定が始まった。

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