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 そこにあったのは、なにやら上へ続く石階段と、長くて細いロープで吊るされた、二つのもの。

 二本のロープには、達筆な文字で『陸』と書かれた額縁の画用紙と、花の絵に縁どられて黒のインクで小さな手形と足形が押された画用紙が、それぞれ吊るされている。お七夜で赤子に贈られるような、それら二つのものが、歯車の瓦礫が作り上げた足場の上に、ただ静かに、浮遊していたのだ。

「やはり、ここは時計塔だったんだよ」

 守は、納得したように続けた。

「歯車は、時計の針を動かすための仕掛け。そして、目の前にあるのが、時計塔の動力源となる重りなのだろう。この重りの位置エネルギーによって、時計の針は全自動で動き続けていたんだ」

 重りだって? 額縁の画用紙と手形と足形の押された画用紙の重量だけで、この巨大な時計塔の動力がすべてまかなわれていたとでもいうのか?

「とにかく、先へ進もう」

 ご丁寧に、石階段へ続いた足場には梯子が掛けられていた。俺は、足元の歯車たちを慎重に渡り歩いて、守の後に続いた。

 試しに、ロープに吊るされた二つの重りを手で持ち上げてみる。やはり、なんの変哲もない画用紙に違いなかった。

 梯子をのぼり、石階段の足場に手をかける。階段は螺旋状に曲がりくねっていて、上の様子は見て取れなかった。

 壁にランタンが掛けられている。俺は、心もとないランタンの火で足元を照らしながら、守と身を寄せ合い階段をのぼっていく。コツ、コツ、コツ……。二つの足音が、石に囲まれた狭い空間に冷たく響き渡る。

 曲がりくねった階段の先から、うっすらピアノの演奏が聞こえてきた。青白い光とともに、生暖かい風が足元に漏れてくる。

 ……間違いない。階段をのぼり切った先に、何者かが潜んでいる。

 無言で頷き合うと、俺たちは意を決して、階段の最上段に足を踏み入れた。

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