第5話
あの後、大と全く話さないまま夏休みが始まった。正直どうしていい分からなかった。近所の八百屋で買ってきたスイカをきんきんに冷やしておいた。夏といったらこれだろ。スイカ割り。ムシャクシャしてる僕にはもってこいだ。誰かを誘う気にはならなかったので、妹に一緒にやってくれるか聞こう。ところで、何故あの日2人は一緒にいたんだろう。そういえば、席が隣になっていた。大の事だから誰でも話せる性格だし、もしかしたらたまたま帰り道が一緒だったかもしれない。勝手にいやらしい想像をしていたけれどだとしたら、この雰囲気は良くない。かといって聞く気にもなれない。
縁側でばあちゃんが観客となって、結局1人でスイカ割りをした。
ピロロロロ…
「うち〜!夏休み始まってますけど、蒼介さんゲームばかりしてるんとちゃいますか!可奈様と一緒に海行きませんかぁ〜もちろん誰か誘いますんで!」
久々に聴いた独特な関西弁。まだ数週間しか経ってないのにこの懐かしさ。可奈は今の僕に元気を与えてくれる向日葵のような存在に感じた。
「あー、海は了解した。行く。可奈のクラスの友達誘えばいいじゃん。いつも僕のクラスばっかだったし。その前にこないだ花火大会行けなかったじゃん、今日夜暇だったりする?湊川の河原花火できるじゃん、どうかなと思って、」
自分でもびっくりする。すんなり人を誘えてるんだもの。人間って面白い。やろうと思えばやれるじゃん。可奈は、無邪気に喜ぶ子犬みたいにはしゃいでいた。じゃあまた後でねと電話を切って、支度をした。今日はちゃんとした服を着よう。誰かに見られても大丈夫なように。
可奈の家は、僕の家からそう遠くはなかったので歩いて迎えに行った。玄関で数分待って出てきた可奈は、キャミソールにショートパンツ。お前それ蚊に刺されるぞーと一旦家に戻しカーディガンとジーパンに着替えさせた。
「せっかく蒼介くんからのお誘いで、気合い入れたのに〜台無しや〜」
ケラケラ笑いながら、自転車あるけど乗って行く?と聞いてきたので、今日は歩きたい気分だからと伝えたら、何も言わず僕の後ろについてきた。
ここの河原はいつきても静かで僕の大好きな場所だ。コンビニで買った花火の袋を難しそうに開けていたので、貸してみなやってあげるよとそれを取り上げると、いきなり可奈に抱きつかれた。
「うち、蒼介くんのこと好きやねん」
大体分かっていた。あの時初めて中庭で声をかけられた時もきっと大に計画してもらってたんだろうと薄々気づいていた。
「うん、知ってる」
「げっ。気づいてたん?あちゃーあかんなーバレんようにしてたんやけどなぁ、はずかし!ごめんな!いや、分かってる!何も言わんといて!」
「いいよ」
「やんな〜無理に決まってるよ、な?え、いいの?蒼介くん、うちの彼女なってもええの?」
「いいよ、可奈可愛いし、犬みたいだし」
「何それー!犬みたいは余計やで!」
これでよかったんだ。今までのことは全て終わりにする。何も始められなかったけれどきっとそうゆう運命だったんだ。手を繋ぎながら帰った。そう、これでよかったんだ。
赤いアネモネ 極上檸檬 @gokujouremon
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