似た者同士

ベロニカやマツリカ、アマノミコトが下界の創造や今後の会議などの話を進めているかたわらで、サザンカは一人違う事をしていた。


喉が渇いたと言っていたサザンカは、アマノミコトがしたように自身の創造を使って、飲み物が入った湯呑ゆのみを出して飲んでいた…のだが。


「……何これ…。」


「どうしたのサザンカちゃん?

飲み物とにらめっこして。」


「日の本で飲まれているお茶?と言うものを出したのに、味がしません…。」


サザンカは地球の日の本で見たお茶を出し、口を付けてみたのだが、味がしない事に素直な言葉がこぼれた。


「「??」」


サザンカの言葉に、会議について話していた皆の口が止まり、視線も集まる。

その視線は疑問の表情を浮かべていた。


「アマノん、どういう事?

さっきお茶…とかいう飲み物、飲んでなかったかしら?


サザンカちゃんもアマノんの真似をして、飲み物を創造したのよね。」


「ん?あぁ…先の飲み物か…。

我も味がしなかったぞ。


出したのはお茶だが、そもそもお茶を飲んだ事がないのでな。

飲み食いした事がないものは、創造で出しても味がせぬ。」


「はぁ?!アマノん、それはお茶じゃなくて水よ水!

ただの緑の色をした、み・ず!


もぅ~味がないとわかっているのに、どうしてわざわざ緑の色を創造したのよ~。」


「……色がある方が美味しそうだったからな…。」


「…そんな理由で…。


あ!それなら、私が真っ赤にした水を出してあげましょうか?

赤い果物みたいで美味しそうかもしれないわよ?」


「それはぜひとも、やめてくれ。

お主が言うとシャレにならぬ。」


「どういう意味よ!それ~?!」


「………。

(姉様…アマノ様で遊んでますわね……アマノ様も…。


サザンカはサザンカで、湯吞ゆのみをそっちのけで二人の会話に興味がなさそうにしているし…。


と言うより…何しているのかしら…この子…。)」


サザンカは味のない飲み水が入っている湯呑ゆのみをテーブルのはじに置き、何もない空間を両手で優しくふんわり包むかのようにして、一人黙々と創造に励んでいた。


サザンカの両手に包まれるようにその空間に光が集まり、その光の中で創造物が形成され始めた。


「……うーん…もうちょっと…。


形は…こんな感じで…大きさは…もうちょい…いや、もう少し大きい方がいいかな…。


………よし!できた!!」


「……サザンカ…それは何?」


「あ、これは鏡です!!」


サザンカの手元に集まっていた光がゆっくりと消え、形成された物が現れた。

その形成された物を不思議に思ったマツリカは、疑問の表情を浮かべていた。


サザンカが黙々と作っていたのは鏡で、その大きさは手で持ち上げる事が出来、人一人分の顔が全部うつるほどの大きさだった。


サザンカがその鏡に手をかざすと、鏡の中に風景が映り始めた。

その風景の中に、サザンカのお目当てがあったらしく、目が輝きだした。


「この鏡、こうして使います!!」


そう言ったサザンカは、鏡の中に自分の手を突っ込み入れた。


「?!」


それを見たマツリカは、信じられないものを見るかのように目を大きく開けて、サザンカの手元を凝視ぎょうしした。


マツリカの視線を気にせずに、サザンカは鏡の中からお目当てのものを掴み取り、手を鏡の中から引き抜いた。


サザンカの手元を凝視ぎょうししていたマツリカは表情を引きつらせ、恐る恐るサザンカの手元を指さした。


「…サザンカ…その手元…何を持っているの?」


「あ!これですか?!

お茶です!!

ちょっとお借りしました!!」


「?!

ちょ、に、兄様!アマノ様!


サザンカが…ついにやらかしましたわ!」


マツリカの慌てた様子に、ちょっとした言い合いをしていたベロニカとアマノミコトは言い合いを止めた。

そのマツリカの慌てる様子を二人は珍しく思いながら、マツリカの指さす方に視線を向けた。


「サザンカちゃんが今度は何をやらかしたの?」


「この子…すごい鏡を作ってしまいましたわ!!

いろいろ風景が映ったり、ものを取り出せるようですのよ!


なんて物を造ったの…恐ろしい子!!」


「いや、そっちじゃないでしょう!!


落ち着いて、マツリカちゃん!

なんとなくだけど、察しがついたわ…。


ようは、鏡を造ったのもすごいけど…。

サザンカちゃんは、その鏡から何かを取り出したのね…。


それがもし、所有者がいるのなら…それは…道を外れる行為だわ…。」


「それですわ…それが言いたかったのです…。

乱心のあまり、大事な事を見失う所でしたわ…。」


「……。


(ううむ…マツリカも大人しく知的に見えるが、自分の範疇はんちゅうを超える事が起こると、少しだけズレるのだな…。


似た物兄妹きょうだい…と言うべきだろうか…。)


して…サザンカ、道を外れる行為…到底許される事ではないが…。」


「えっ…お茶…取っただけなのに…。」


「そのお茶は…所有者がいるのであろう?

人の物を取るのは良い事ではない…。」


「…そう…ですよね…ごめんなさい…返してきます…。


…自然に…。」


「「「ん?自然に?」」」


「?

はい、自然に…。


だって…取ったのは、これですし…。」


サザンカが鏡の中から取り出したのは、お茶はお茶だが、お茶の葉だった。

それを皆に見せた途端、三人は愕然とした。


「なぁんだ、良かった~。

てっきり、人が飲んでいるお茶を取り出したと思ったわ。

マツリカちゃんもアマノんも、それを心配していたのよね。」


「えぇ?!

皆さん、私を何だと思っているのですか!

さすがに、人の飲みかけのお茶なんて取りませんよ!」


「「「そこじゃない。」」」


「この鏡、材料となる自然物しか取れないんですよ~。」


「まぁ、なんにせよ、サザンカが道を外れていない事がわかって皆、安心だ。


さて、世界のエネルギーが回復し始めておる…そろそろ雑談はやめて下界の創造の仕上げに入ろうではないか。」


アマノミコトは椅子から立ち上がり、女神達に目配りをした。

女神三人も、アマノミコトの言葉に頷き、椅子から立ち上がる。


サザンカは何もない空間に手をかざして、創造で即座に収納庫を造り、そこへ鏡を仕舞った。

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