世界の理(後編)

世界のことわりについて話し合いを始めて数分。


サザンカが感情のままに姉二人にスキルを付与した事により、さすがの姉二人もご立腹の様子だ。

当の本人は要らぬ発言をしないようにと口を堅く閉じ、俯いている。


そんな気まずい雰囲気の中でアマノミコトは、ご立腹の女神二人をなだめていた。


そのかいもあってか、ご立腹だった女神二人は、ようやく気持ちを落ち着かせたのだった。


「もぅ~サザンカちゃんたら…。

私達にスキル付与してどうするのよ…。」


「サザンカ…人の話はちゃんと聞いて…。」


「…ごめんなさい。」


「…本当に落ち着きのない奴だな…。

まぁ、してしまったのは致し方ない…そろそろ、話を戻そう。


世界のことわりについての話し合い…力の使い方…それらは今よりももっと、今後重要になる。」


アマノミコトの言葉に、ベロニカやマツリカは表情を引き締め、サザンカはいまだ浮かない表情をしながらも顔を上げた。


「世界のことわり…非常に難しい事ではあるが…何か案はあるか?


力についても、何かあればあわせて聞かせて欲しい。」


アマノミコトは女神三人に目を配りながら話した。


アマノミコトの言葉に考え込む三人だが、先にベロニカが口を開いた。


ことわり…私からいいかしら。


これは、アマノんも含めての事だけど…私達、神々は…万物の生死には一切関わらない事。


今はまだ、世界が出来始めたばかりだから生物達を造り、息を吹き込む事はしても、己の力を使って万物を直接的に死に至らしてはいけない。


そうすれば、自分達の力の制限をする事にも繋がるし、一石二鳥だと思うのだけど、どうかしら?」


「「「……。」」」


ベロニカの提案に口を開けぽかんとする三人。

三人の表情にベロニカは怪訝けげんな表情を浮かべた。


「…なぁに、三人とも…そのお顔…。」


「…さすが長男と言ったところか…。」


「…姉様が真剣に提案を出すとは…。」


「……ベロニカお姉様がちゃんと考えてる…。」


「アマノん…長男と言わないで。


マツリカちゃんとサザンカちゃんはどういう意味かしら…。

私だって考えるわよ。


今後見守っていく世界の事ですもの。

いい加減には出来ないわ。」


ベロニカの言葉に、ぽかんとしていた皆の表情がふっと柔らかくなった。


「ベロニカの言う通りだな。


では、みんな…ベロニカの提案…異論はないな。


我らはあくまで万物の見守り…生死には一切関わらない。」


アマノミコトは、皆を見ながら一つ目の提案をまとめあげた。

皆は、異論はないと言った様子で静かに頷く。


「うむ…一つ目は決定だな。


今決めた事は書き留めていく事にしよう。」


そう言ったアマノミコトは、人差し指にちょっとだけ力を込め、空に向けて文字を書き始めた。

すると、指先が発光して光が指を追うように文字になっていく。


「す、すごい…アマノんさすがね…。」


「本当に創造はすごいですわ。」


「アマノ様の行動…参考にします…。

でも、その文字…空に書かれたままですか?」


「そんな目で見るでない、照れるであろう…。


サザンカの質問だが、この文字は我の力で空に表したり、空から消したり出来るようにしておく。


さて、次にいくぞ。」


「次は私が…姉様の生死に関する事と近いかもしれませんが…。


死に至った者を生き返らせるという神の領域を禁忌として、絶命した後の魂…。

その魂を神界…もしくは下界で新たな生命として生まれ変わるよう、手助けをすると言うのはどうでしょうか…。」


「うむ、そうだな…生命の生死に関する事はせずとも、生まれ変わる手助けをする…か…。


ならば、サザンカ…そなたの力でスキルを付与してくれぬか。

『再生』のスキル。


そうすれば、生命を創造すると言う力も制限されるであろう?


皆、どうだろうか。」


「異議なし…よ。

私達が手を加える事はせず、地球みたいに各々で繁栄、発展するのを見守りましょう。」


「私も…姉様と同意ですわ。


サザンカ…お願い。」


アマノミコトの言葉にベロニカとマツリカは納得したような表情をして、サザンカは少し驚いた表情した。

その後サザンカは姉二人の言葉にぎこちなくも頷き、天に向かって両手を少し伸ばし、力を発動した。


「(まさか…スキル付与をお願いされるとは…。)

……神々に『創造・再生』スキル付与。


生物以外の創造、再生をするものとし、今後は生命の創造を封じる。

また、死に至った生命の魂を神界…または下界へと新たな生命として再生させるものとす…。」


「あ!サザンカ、すまぬが、そのスキルの効力は二日後からにしてくれぬか。


まだ下界の創造が途中だ…植物やら、動物やらの種類がまだ少ないのだ。

今、スキルを付与されては生態系の均衡が悪い。」


「わ、わかりました…。


――なお、スキル効果は二日後とする。」


サザンカが全部の言葉を言い終わり、自身の手により力を込めると、手の先に光が現れた。

その光は一度大きく膨らみ、四つに分かれて皆の体に吸い込まれるように収まった。


「礼を言う…サザンカ。

これで、二つ目も決まったな。

書き留めておこう。」


そう言ったアマノミコトは、先程と同じように空に向かって力を込めた指で文字を書き始めた。

ただ、先ほどと違うのは、先に書いた文字の下に新たに書き足した事だ。


「他は…どうだろうか…。


ベロニカや、マツリカからは提案があったが…サザンカはないか?」


「ん~…私は、今の所思いつきません…。


言うなれば…のどが渇きました!」


「そ、そうか…。


お主は…何というか…ぶれないな…。」


「…サザンカはマイペース…と言ったところかしら…。


アマノ様、下界の創造が途中と言っていましたわね。

その際にまたことわりを思いついたら決めていきましょう。」


「そうだな…。

この世界の時が地球のように流れ始めるまで、一日一度は会議をしたいと思うのだが…。」


「それなら、今後一日一度は集まって会議をしましょうよ!雑談も兼ねて!

場所はアマノんの蓬泉殿ほうせんでんか、この噴水広場で!」


サザンカの言葉に皆が呆れつつも、今後の会議についての会話が進み、着々と世界が動き始める準備が整っていくのだった。

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