世界の誕生

昔々、遥か昔。

地球の文明が発展し始めている頃。


宇宙では、地球に似た別の星が誕生した。


その星には空気や水があり、見た目こそ地球に似てはいるが、ただ一つ違う所がある。


それは、地球にはないエネルギーが満ち溢れているのだ。


そんな星のエネルギーから、姿形はないが意志あるものが生まれた。


「……我は…何故なにゆえ生まれた。


いったい何者だ…いや、何者でもないか…。

姿や形はない…意志だけは、はっきりとしている。


にしても…何もない世界だな。


………ん?


この世界と違う所にきれいな星が見えるな…。

あの星を覗いてみよう…。」


姿なき者は、当たりを見渡し、何もない世界の向こう側に地球を見つけ、意識を集中させて地球を覗いた。


「おぉ…美しい…なんと美しい世界…。


世界いっぱいに広がる地、そよそよと揺れる地に張るもの。

空を舞い、鳴き声の美しい小さき生き物…それに、なんぞ…あれは…。

何十…何百と…動いている...。


……楽しそうだな…。

この世界と同じものを、我が生まれたあの世界にも作れないだろうか…。


……ん?


我が生まれた世界とこのきれいな世界…何やら違和感があろうぞ。


このきれいな世界には感じない何かを、我が生まれた世界では感じる。

我はその何かから生まれた…。


我自身にもその何かを感じる…。


その何かを使って創造…とでもいうのだろうか…。

………やってみよう。」


姿なき者は、地球に向けていた意識を今度は自分の生まれた世界に向け、地球で見た情景を思い浮かべた。


すると不思議な事に、何もなかった世界に地球と同じものが現れ始めた。


「……おぉ…我ながらいい出来ではないか…。

なんだか少々、疲れはしたが…美しさは似ておる…。


だが…あの動いているものは見当たらないな…。

地と…地に張るもののみ…か…。


さて…今度はどうしたものか…。」


姿なき者は、地球と同じように美しい世界を作るべく試行錯誤をした。


その世界に満ちているエネルギーや自身の中に感じるエネルギーを使い、様々なものを生み出しては数を増やし、自分が理解しやすいようにあらゆるものに名前を付けていった。


数日と月日を費やして出来上がった世界。

その何もなかった世界に、大地や木々、山が広がり、程よく川や海、湖、池となる水源があり、人の姿をした者や、その他の生き物達も生まれ、賑わいを見せてきた。


姿なき者はさらにエネルギーを使い、自身の姿を形成した。

その姿は長身で長い銀髪に、端正な顔立ちで男性とも女性とも言えないような姿だ。


「姿がないと言うのは不便であった…。


衣服も…あのキレイな世界と似たようなものを用意しよう。


ふぅむ…この世界…いや、星…。


あのきれいな星と似た世界を作ったのは良いが…。

ただ似ているのはつまらないな…。


人の姿形を様々なものにしよう。


我は…このまま生み出し、見守る方が楽しい…。

ゆえに、我は創造者としてここにあろう。


名は…名がないと不便だろうか…。


………アマノミコト。

何故だかしっくりと来た名だ...これにしよう。


そうなれば、我の世界と下界…分けなくてはならぬな…。


あとは…人の形をしたものに知識や感情を与える等をすれば、あのきれいな星の住人達みたいになるだろうか…。


……やる事はまだまだあるな。


我の力だけでは疲弊するが、この世界に満ちている力も使えば……。

幸い、我や世界の力は使っても幾日かすればまた満たされる。


うん…どうにかなるな……さて…。」


創造者のアマノミコトが、再び世界の創造に入ろうとした矢先、背後から突如、声を掛けられた。


『その者。』


「!?…何事だ?

きれいな星から声が聞こえる…。」


『あー…聞こえるか?

きれいな星よ。』


「聞こえているぞ。」


『おぉ…よかった。

我はまだ、名など無くてな…その…地球の神とでも呼んでもらえたらよい…。』


「承知した。

我はアマノミコト…たった今、自分で名付けた。

して、地球の神とやら、何用ぞ?」


『ずっと見ていたが…そなた...偉大な力を使い、我の星を真似て自分の世界を作った...。

そんな神仲間として、一つ...頼みを聞いてはくれぬか。』


「我が...神だと...。」


地球の神と名乗る者の言葉にアマノミコトは、どんな頼み事かと眉間にしわを寄せた。


『目に見えぬ偉大な力を持ち、使いこなし、何もない空間に創造やら何やらをするのは神の領域の範囲...故に、そなたは神なのだ。


それから、頼み事をそんなに警戒せずともよい。

なに、簡単な事ぞ。


我の世界…下界で人が生まれては死に絶えてゆく…。

死に絶えた者達は姿なき者…魂となり、しばしの年月を経て、また下界に生まれ変わる。


中には神界で神となる者もいるが…。

まぁ、それは置いておき…最近、下界での死が多く、生が少ない…。

生まれてもすぐに死にゆく事例も多い…。


それゆえ、魂の生まれ変わりが追い付かない事が多いのだ…。


文明の発展…というのも関係があるだろう…。


我が作ったことわりとは言え、このままでは世の均衡が崩れかねん。

そこで、アマノミコト殿の世界に魂を送って、生まれ変わらせて欲しいのだ。


何年かに一度、何百年かに一度でかまわぬ…。

どうか…聞き届けてはくれぬか…。』


アマノミコトは眉間にしわを寄せたまま、目を閉じ、考えた。


出した結論は、手本になった星の神からの頼み事、いわゆる先輩にあたるというものだ。

それゆえに、断る理由もなく、頼みを聞き入れる事にした。


そうして地球の神との約束事で、地球からの魂を何年かに一度、アマノミコトの世界に連れて来る事が決まった。


これが後に転生と呼ばれ、大きな災いへと繋がる事を、この時は神々でさえも知る由はなかった。

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