後編


クルクルと鳴く鳩は愛らしい


パン屑をパラリと撒いてやれば鳩は嬉しそうに目を細めて、それに首を下にやった。


「姫さま」

京羅の声に振り返れば、右眼に眼帯をつけた彼女は心配そうに此方を見ていた

「此処での生活は慣れましたか?」

「慣れましたよ、元々此処での出ですから、京羅は慣れましたか?」

「私は未だ慣れません」

縁側の隣に座るように促すと京羅は失礼しますと律儀に一言溢し、隣に座った。

一瞬だけ無言の空間が流れて、京羅はようやっと痺れを切らしたように口を開いた

「あのふたりが、居なくなってしまったことが、未だ受け入れられないのです」

「詳しくは四人ですがね」

「八千代様と深月なぞ知りませぬ!あの二人が、居なければ、いえ、国の改革なぞ目論まなければ、あの二人は命を落とさなかったのですから」

拳を握りしめ過ぎて傷む京羅の右手を握ってやる。この女性は責任感が強過ぎるのだ。きっと今も尚己を責め続けているのだろう。早くその鎖から解き放たれて欲しいと、舞桜は誠実に思った。

「京羅、三年前のあの事件は起こるべくして起こってしまったのです」

「しかし、考えてしまうのです。もしも私が蓮疾より先に八千代様の不安を知っていたならば、八千代様の不安に気づけていたならば、深月の忍び寄る陰に気づいて居たならば、蒼刻の死罪も、すべて無かったのでは無いかと」

「京羅、良い加減にしなさい」

京羅の頬を思い切り抓ってやった「いひゃいです」と言う京羅を無視してそのまま続ける

「葬った過去を掘り下げるのは、おやめなさい。もしもなんて、考えたらキリがありません」

「ひゃい」

「残された私たちに出来ることは、前に進むことのみです。だから京羅、貴方は私と最後まで駆けてくれますよね」

有無を言わさぬ物言いで言い切れば、京羅は黙りこくってしまった。右眼の眼帯を優しく撫ぜてやり、優しく微笑んだ

「それが私たちに出来る、三年前の償いです」



三年前の事件で失ったもの


深月

八千代

蒼刻

蓮疾


京羅の右手と右眼は不自由になった

妖を手放した舞桜は姫の地位を失った




「舞桜せんせー!この字はなんて読むのー?」

「京羅せんせー!遊んでよー!」


三年前、事件後に、住む場所を無くした舞桜と京羅は幼少期世話になった熾火から文を貰い、幼い頃にいた孤児院に戻った。

差出人の熾火は二人を優しく出迎え「がんばったね、えらかった」と抱きしめた。


皺の増えた熾火の手は暖かくて、二人してこぞって柄にも無く泣いたのを舞桜も京羅も覚えている。


熾火は一年ほど前にふらりと出かけたまま帰ってきていない、本当に不思議な男であったと、舞桜は思う。


「お前ら!引っ張るな!元気があり過ぎるぞ!」

「まったく、ふふ、今、行きますね」


今はこうして二人で孤児院を経営している。何とも不思議な話だ。


その後については

子供たちが街から疫病を貰ってきてしまい、舞桜と京羅もかかって、ついぞ舞桜も居なくなってしまうのだがー



「全く、舞桜姫も皆、ばかばかりだ。幸せになれって、人のことしか頭にない。しかし、舞桜姫が最期に口にしていた『また会える』とは如何様か。馬鹿な私にはよく分からない話だ」



京羅は残った子供たちに囲まれながら笑いながら語った。

子供たちから見て、その笑顔はとても綺麗な笑顔だったという。


END

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