第3話 ルシラが住む世界

 「ばあちゃん。ルシラが目を覚ましたんだ」

 「おや、よかったね。名前を付けたのかい」


 僕が、ばあちゃんの部屋に行くとニコニコとして迎えてくれた。


 「ううん。ルシラって名前なんだって」

 「……そうかい?」

 『もうカタル様。どうしてあなたはそう、言葉が足りないのでしょう。リナ様、ルシラ様は、異世界から冒険者を探しに来たようです』

 「なんだと。しかしまたなんで地球ここに」

 「それでね僕、ルシラを助けたいんだ」

 「おや、その子の世界へ行くきかい?」


 僕は、こくんと頷いた。


 「ルシラと言ったかい。まずは、向こうの状況を話してもらえるかな?」

 『はい』


 僕は、座布団の上にルシラを座らせ、僕も隣に座る。僕らの前にばあちゃんが腰を下ろすと、ルシラが自分が居た世界の事を語り始めた。



 ルシラが住む世界は、ニャエルトというらしい。

 ある日ある者が、異世界の扉を魔法で開いた。そうすると、そこから瘴気しょうきが流れ込んで来たんだ。

 瘴気とは、悪い空気みたいので、それにずっと触れていると具合が悪くなるらしく、次々と病に倒れて行った。

 しかも、モンスターが出現し始めた。元は、モンスターなどいない世界だったから戦うすべがなく、今は結界を張って防いでいる。

 そこで、文献に書かれていた冒険者を頼る事にし、ルシラの様に冒険者を探す者達が世界のあちこちに旅立った。



 『確かに、冒険者がいる世界へ飛んだはずなのですが……』


 話し終えるとルシラは、悲しい顔つきになった。


 「そうか。それは大変だったな。だが残念だが、冒険者は目の前に居る私と孫の結琉だけだ」

 『え!』

 「私がいたから冒険者が居る世界で間違いはない。だが私も、この世界に来た冒険者なのだ」

 『では……私は帰れないのですね』


 と、ルシラが泣き出した。涙をぽたぽたと流し、前足で拭きもしないで。凄く可哀そうだ。


 「ばあちゃん。なんとかならないの?」

 「そうだな。私は、結琉がわかる言葉で言うと、ミッション? クエスト? 的なものが完了していない。条件は満たしてはいるがな。この世界の様にモンスターが居ても魔法を使わない世界には、魔法の元となる魔素が豊富なのだ。それを回収して帰るのが本来の目的だ」

 「えー! 想像していたのと全然違う。じゃ、ついでにモンスターを退治しているの?」

 「逆だ。モンスターとは、魔素と瘴気から出来ている。瘴気とは、負の感情からなると言われていて、たくさんの人間がいると長い年月を得て瘴気になる。そして、魔素と絡み合いモンスターが誕生する。我々は、モンスターを倒し瘴気を浄化して魔素を回収しているのだ」

 「そうだったんだ! じゃ条件を満たしているというのは、魔素が十分溜まったって事?」


 そうだとばあちゃんは、頷く。


 「じゃ、完了していないとは?」

 「持って帰らなければ完了にならんだろうに」

 「あ、そっか! え! じゃばあちゃんは、放棄しちゃったの?」


 じいちゃんとここで暮らすために!


 『そうですよ。異世界人を連れ帰る者もいて、異世界人との婚姻は許されているのです。そうしましょうと私はさんざん言ったのに、ここに留まったのです』

 「何も戻らないつもりではない。本来は、爺様が亡くなったら戻るつもりだった。だが、結琉が生まれもう少しいる事にしたのだ」

 「え! でも、それじゃ死んじゃうよ」

 「大丈夫だ。冒険者は長寿なんだ。見た目はばあさんだが、変化へんげで歳をとらせている」


 なんだかピンとこないけど、本当は見た目は若いって事かな?


 「っと、話が脱線したな。つまりはな。一度元の世界に戻らなければ、次の世界には行けないという事だ」

 『で、では、一度戻って私の世界に来て頂けませんか!』

 「残念だが、それはするつもりはない。冷たいようだが、孫と一緒に過ごしたいのだ。聞くが、他の世界へ行く事はできるのか?」


 ルシラは、出来ないと首を横に振った。


 『……冒険者は、世界を飛ぶ事が出来ると聞きました』


 ボソッとルシラが答える。


 「そうか。文献が残っていると言っていたな。たぶん一度、同じ事が起きているのだろう。我々は、モンスターがいる世界へと旅立っている。我々の事が記されている物が存在するのなら行った事がある証拠だ。扉を閉じればあとは、現在出現しているモンスターを倒せば、モンスターはいなくなるだろうからな」


 ばあちゃんは、そう言うといつものにこにこ顔ではなく、真面目な顔つきで僕の方に向いた。

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