第17話

「本人たち……?」


 あたしは魔法使いとアーチャーのほうをもう一度見た。


「いいか。

 追放が無効ということは、パーティーに所属している状態に戻る、ということだ。

 ……パーティーに復帰したいのなら争う意味もあるだろうが、そこの二人はもどりたがっているのか?」


 魔法使いとアーチャーは顔を見合わせる。


「いや……それは別に……」

「そだね~。あんな追い出されかたしたのに、今更戻ってもね~」


 困ったように言う二人。

 


「でも!」


 あたしはルズに振り返って言う。


「悪い奴が得して、なんの罪もない人がガマンしなきゃいけないなんておかしい!

このまま黙って引き下がるの?そんなの追放した奴のやりたい放題になるじゃない!」

「させておけばいいだろう」


ルズはつまらなそうに言った。


「法律というのは……」


ちらっと、全員の顔を見回してからルズは続ける。


「法律というのは、嫌いな相手に罰を与えるためのものじゃない。トラブルがあったときに、お互いの感情が拗れまくったとき、あらかじめ決まったやり方で解決します、という取り決めでしかないんだ。

 揉めたからって、報復のために法律を持ち出すのは効率的じゃない」


 あたしは再び押し黙った。

 悔しいけど、ルズの言うことも筋が通ってる。

 周囲の人たちも、なにも言い返せずに黙ってしまった。


 女魔法使いとアーチャーは、困ったような顔でお互いの顔を見た。


「まあ、別に私はもどりたいなんて思ってなかったし、揉めるのもメンドクサイだけだけど」

「う、うん……ウチも、メンドクサイのはいいかな~……」


 しれっと女魔法使いがつぶやくと、アーチャーもそれに合わせる。


「えっ、でも……!」


 慌てて、あたしは言った。

 周囲にいた剣士や盗賊も、戸惑うようにお互いの顔を見合わせる。


「けどまー……本人がそれでいいって言うなら……」

「ま、よそから口出すことじゃあねえな」


 隣の槍使いも、うなずいた。


「こういうことは、最終的には本人が決めることだからな」

「ちょっと?!さっきまで、力になるとか支援するとか言ってたじゃない!」


 次々と手のひらを反すような言葉に、あたしは思わず大きな声を出した。


「で、でも!次のパーティーが見つかるまでタイヘンなんじゃない?」

「それは……そうだけど……」


 戸惑う魔法使いに、あたしは続けた。


「とりあえず相談だけでもしてみない?次のパーティーが見つかるまでの間、なにもしないで待つよりはいいと思う!」

「え、でも……」

「あなたの力になりたいの!とりあえず、明日になったらギルドの相談窓口に……」


 魔法使いの手を両手で包み込む。

 相手の目を見ながら、あたしは言った。


「ねえ、ちょっといいかな?」


 その時、横から誰かが割り込んできた。


「さっきから聞いてたんだけどさ、きみたち、今どこのパーティーにも所属してないんだよね?」


 金のかかってそうな、きらびやかな装飾のついた金属鎧を着こんだ若手の男。盾にも紋章がデカデカと描かれているところを見ると、騎士クラスの冒険者だろうか。いかにも貴族の御曹司風の見た目だ。

 目をぱあっと輝かせて、声にならない声を上げるアーチャー。

 ちらっと騎士を見た魔法使いも、ドキッとしてそのまま固まった。


「ちょうど弓使いと弾道魔法使える人を探してたんだ。もしよかったら、うちのパーティーに来ないかい?」


 さらさらの髪をかき上げ、さわやかな笑顔で騎士が言った。


「マジ?!」

「……別に、いいけど」


 飛び上がらんばかりに立ち上がるアーチャー。

 魔法使いも少し赤い顔で、指で髪をくるくると巻きながらもじもじしている。


「ほんとかい?それは助かるよ。

 じゃあさっそく、明日になったらギルドの登録窓口に行ってパーティー加入手続きしようよ」


 魔法使いも、まんざらでもない顔でうなずいた。



 気が付くと、とんとん拍子に話が進み、通りすがりのイケメン騎士は笑顔で手を振りながら、ウキウキ顔のアーチャーと女魔法使いと一緒に去っていき、あとにはそれを囲んでいた男たちが残された。

 男たちはお互いに顔を見合わせた後、なにも言わずにそれぞれのテーブルに戻っていった。


「あれ……?」


 状況を、頭の中で整理する。

 パーティーを突然追放された彼女たちは、困っていたはずだ。

 だからあたしは、理不尽な目にあった彼女たちの力になるために……

 でも、彼女たちを入れてくれるパーティーが見つかったってことは、彼女たちの問題は解決した、ってこと……?


「よかったな」

「……え?なにが?」

「これで問題はすべて解決ということだな」


 ゴトゴトとイスを元のテーブルに戻すルズ。


「ちょっと待ってよ!」


 納得いかなくて、あたしは叫んだ。


「え、こんな終わり方ってアリなの?!」

「どんな終わり方だろうが、トラブルは無くなったんだろ?」

「けど!あたしは誰の役にも立ててない!」

「そのほうがいいじゃないか」

「なんでよ!」


 イスを戻して腰掛けるルズに、あたしは食ってかかる。


「役に立てないんじゃ、あたしがこの仕事に就いた意味が……」

「きみの出番がないということは、困ってる人がいないということだろ?」

「え……」


 そう……なの、かな?

 どこか釈然としないまま、あたしは黙った。

 たしかに、誰も助ける必要がないのなら、あたしの出番がないのなら。

 そのほうがいい……のかも、知れない。


「けど……なんか、納得いかない」


 憮然としてつぶやく。

 それを見て、ルズは小さく笑った。


「とにかく、食事にしたらどうだ?せっかくの料理が冷めてしまう」

「え、あ……」


 ふりむくと、テーブルの上には新しい料理が並んでいる。


「あれ?あたしのは……?」


 並んでいるのは、ルズが注文していたほうの料理だ。

 牛肉のハンバーグ、温野菜の盛り合わせに、高価な果物のデザート。

 っていうか、あたしが食べようとしていた肉料理やスープはどこに……?


「空腹に耐えかねて、不躾だが先にいただいてしまったよ」


 そう言って、ルズは皿に残っていた最後の肉のひとかけらを口に放り込んだ。


「それ……あたしが奮発して頼んだステーキ……!」

「今のきみにはこちらのほうが合うと思ってね。なにしろぼくが選んでやったものだからな。遠慮せずに口にするといい」

「遠慮って……そもそも、ここのお会計するのあたしなんだけど?!」


 満足そうに皿を押しやるルズ。

 こいつ……どこまでずうずうしいわけ?


「なんなのよホントに……!」


 あたしは、怒りをどこにぶつけていいかわからないまま叫んだ。



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なーろっぱ世界における働き方改革 鵜久森ざっぱ @zappa_ugumori

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