第15話
「話は全て聞かせてもらったわ!」
テーブルにドン!と手をつくと、そのテーブルで話していた全員が一斉にこっちを向いた。
「あなたたちのパーティートラブル対策は間違っている!
────あたしが、ほんとうのトラブル対策を見せてあげる。ギルド職員であるこのあたしがね」
それだけ言うと、あたしはイスを移動させてそこに座った。
彼女たちの周囲にいた連中はポカーンと口を開けて、あたしの行動を黙って眺めている。
ふと隣を見ると、ルズがなぜかニヤニヤしながらこっちを見ていた。
ちょっとイラッとしたけど、それは無視する。
「まずは詳しい話を聞かせて。
……大丈夫。あたしが絶対にあなたたちの力になるから!」
魔法使いとアーチャーは戸惑うように顔を見合わせる。
剣士が、なぜか面白そうに口をはさんでくる。
「まーまー、ギルドの職員さんなんだったらさー、いんじゃね?」
その後ろにいたエルフもうなずく。
「そうだねえ。職員さんの見解がどうなのか、聞いてみたいね」
「でも……」と考え込む魔法使いに、アーチャーが「けどさ~」と声をかける。
「せっかくここで会えたんだし~?聞いてもらえんなら、いんじゃね?」
「まかせてよ!」
あたしは胸を張ってこたえる。
「あたしがいるのは冒険者課。冒険者同士のトラブル対応から支援制度までなんでも相談に乗るわ!」
おー、と言いながら、ルズが小さく拍手している。
……いちいちカンに触るんだけど。
ときどき、店内の奥の方に視線を動かしているのを見ると、たぶんそっちの方向に部長たちがいるんだろう。
これだけ店中が騒がしいんだから、多少声を出したくらいじゃバレない。きっと。
それに、もしバレたって構うもんか。
こういうときにコソコソして、困ってる人を見て見ぬふりをするためにギルドの職員になったわけじゃない。
むしろこうやって、いつでもどこでも人の役に立ててこそ、この仕事を選んだ意味があるんだ。
興味で話を聞くだけしかできないルズとは違うんだ。
「じゃあ……話すけどさ」
しぶしぶ、と言った感じで魔法使いが話し始めた。
「うちらのパーティー、今までは森の中のモンスター退治とか、魔物の出る草原ルートを通る隊商の護衛任務とかが多かったんだけど」
「クエスト報酬め~っちゃ安いんだよね~」
「まあ……人数も多すぎたしね」
愚痴をこぼしてから、アーチャーはマグを煽る。……が、お酒が無くなっていたらしく、手を上げて店員を呼び止めた。
そのままお酒のお代わりとおつまみを大量に頼み始めた。
それを横目で見ながら、小さくあきれたようなため息をついて、魔法使いは話を再開する。
「それで、こないだ急にリーダーが『これからはダンジョンクエストだ』って言い出したんだよね。そっちのほうがクエスト報酬いいから」
横で聞いていた剣士が「そーそー!」と手をたたく。
「ダンジョンクエストは冒険者の花形だよな!未踏破のダンジョンならお宝とかもあるし、ロマンだよなー!」
「確かにクエスト報酬もいいが、リスクも大きいだろ?」
槍戦士が言うと、魔法使いは静かにうなずいた。
「それが、『常に上を目指していないと、これからの冒険者は生き残れない』とか言い出して。どこかの有名パーティーリーダーに影響されたみたいで」
「あーあー、意識高い系?みたいなー?最近増えてんだよねー、そういう人」
それを聞きながら、似たような人知ってる、とあたしは思った。
前に所属していた、ブラックパーティーのリーダーも似たようなことを言ってたっけ。最近の流行りなんだろうか。
「んでさ~、ウチはロングボウがメイン武器だし~、こっちは弾道魔法しか使えないからさ~、ダンジョンクエには不必要だ~!って言われたんだよね~」
「弾道魔法?」
剣士たちがいたテーブルから勝手に料理の皿を引き寄せて食べ始めたアーチャーに、あたしは尋ねた。
ヒーラーの
あたしの知ってる限りだと、魔法はいくつかの系統に分かれていて、たとえば火の魔法の中でもさらに細かく「焚火をつける魔法」だとか「手のひらから火を噴きだす魔法」だとかに分かれている。……らしい。
「弾道魔法っていうのは、矢とか投石とかの軌道を変える魔法。使える人も少ないし人気もない魔法だけど」
「でもでも~、岩陰に隠れた相手に矢を当てたり、相手の矢も全部撃ち返したり、超便利なんだよ~!」
「いつでも役に立つわけじゃないけどね」
なぜか自分のことのようにドヤ顔で自慢するアーチャーに、少し照れた顔で魔法使いは言い返した。
「けどさ~、ダンジョンだとロングボウも弾道魔法も出番がない!ってゆ~んだよ?あのアホリーダー!」
それはヒドイ話だね、とエルフがうなずく。
オレも同情するぜー!と泣きまねをしながら、剣士は魔法使いの肩に手を回す。魔法使いはそれをさらっと払いのけた。
「で、昨日分け前を……俸給を受け取りに行ったら、突然それを言われて……」
「ね~?マジ突然すぎてヒドすぎっしょ~?も~超腹立つよね~!」
アーチャーはそう言いながら、ちょうど店員が持ってきたお酒と料理を受け取って乱暴に机に置いた。
そのまま、両手にナッツをいっぱいにつかんで口に放り込む。
「えっと……少し確認したいんだけど」
それを横目に、あたしは魔法使いに向かって言った。
「解雇……追放のことを言われたのは、今日なの?」
「朝方、宿で朝食の後に言われた。明日から来なくていい、って」
「明日から……?」
ずっと聞いていて薄々わかってはいたけど、やっぱりヒドイ話だ。
あたしは思わずこぶしを握り締めた。
冒険者を、同じパーティーのメンバーを苦しめるブラックパーティーそのものじゃないか。
あたしはゆっくりと息を吸って、吐いた。
気持ちを落ち着かせてから、もう一度口を開く。
「【冒険者基準法第20条────パーティーリーダーは、パーティーメンバーを解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしないパーティーリーダーは、30日分以上の平均報酬を支払わなければならない。】
────冒険者基準法でこう定められているわ。
つまり、あなたはそのリーダーに対して請求する権利がある!」
きょとんとした顔で首をかしげるアーチャー。
魔法使いも、不審そうな顔をしている。
「それだけじゃないわ」
さらに、あたしは続ける。
「【冒険者契約法第16条────解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。】
つまり────今回の追放は、無効ということよ!」
力強く、あたしは言い切った。
これだ。あたしがやりたかったのは。
ギルド法は、冒険者を守るためにある。だけど、全ての冒険者がギルド法に詳しいわけじゃない。
ギルド法の知識がない人を助けて、力になる。これこそ、あたしが自分の
「えっと~……それって、ど~ゆ~こと?」
アーチャーはよくわかってない顔で首を傾げたままだ。
「ごめんなさい。よくわからないんだけど……追放が無効ってどういうこと?」
魔法使いも、困惑気味に尋ねる。
あ……れ……?
「それじゃ説明になってないだろう」
すぐ横で、ルズがつぶやいた。
……うるさい!
今言い方を考えてんだから黙ってて!────そう思いながら、横にいるルズにチラッと目をやる。
ルズはテーブルに肘をついたまま、あたしを見上げる格好。
「ただ条文を読んでるだけじゃないか。相手にわかるように説明をしなければ、伝えたことにはならないんじゃないか?」
ちょっとニヤニヤしたような言い方に、カチンとくる。
「い、今からそれを話すところだっての!」
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