第14話
「君たちの会話が聞こえたものでね。つい、気になって声をかけさせてもらったよ」
魔法使いとアーチャーの後ろに立っているのは、色白で整った顔にふわっとした服装の、背の高い美形男子。特徴的なとがった耳は、エルフの証だ。
エルフの冒険者はそれなりにいるって聞くけど、あたしが見るのは初めてだ。
そのエルフは、彼女たちの返事も待たずに、勝手にイスを持ってきて横に座った。
「また増えた……」
あたしは思わず頭を抱えた。
そりゃ、これだけの喧噪の中でも聞こえるくらいの大声で騒いで話してれば目立つだろうけど、だからって集まりすぎじゃない?
ちらっと横目でルズを見ると、実に楽しそうな顔で成り行きを見守っている。
……こいつはこいつで、見てる方が楽しいっていうタイプだろうか。どっちにしても、ろくなもんじゃない。
「ところで、きみたちはもう、誰かに相談とかはしたのかい?」
肩くらいの長さに切りそろえられた綺麗な髪をふわっと手で梳いて、エルフが言う。
魔法使いとアーチャーは、きょとんとした顔をする。
「相談というか、別にただ愚痴ってただけなので」
「ね~?こういうときって、誰に相談したらいいかもわかんないし~?」
ふむ、と手をあごにやるエルフ。
「そうだねえ……法律の問題なら、リーガルマイスターとか……かな?」
ギャハハハ、と下品な声をあげたのは、剣士。
「そりゃあ無理だろー。あいつら冒険者の相談なんて聞いちゃくれねーって」
「金もかかりすぎる。あまりいい考えではないな」
槍使いも、同意してうなずく。
そりゃあそうでしょ、とあたしはつぶやいた。
リーガルマイスターというのは、法律の
「もちろん、貴族や商人を相手にするようなリーガルマイスターなら、門前払いされるだろうね。けど、冒険者を相手にする者も、少ないながらいるんだ」
こっちも、聞いたことはある。
ギルド法も法律ではあるので、冒険者からの相談も受け付けているリーガルマイスターもいることはいるらしい。
ただ、基本的にリーガルマイスターへの報酬は高額で、よほど大きなパーティーのリーダーでもない限り、依頼することなんてほとんどないはずだ。
「冒険者ユニオンには……相談を……したのか?」
エルフと一緒にいた男が、ぼそぼそと口を開いた。
全身金属鎧で、背中には巨大な剣。おそらく大剣使いだろう。
「まあ、普通はそっちに相談、かな?」
「ああ……冒険者ユニオンならば……お金は……ほとんどかからない……」
なにそれ?と、アーチャーが首を傾げた。
「……冒険者ユニオン……というのは……冒険者同士の互助会のようなものだ……」
相変わらずぼそぼそとスローペースでしゃべる大剣使い。首をかしげ続けるアーチャーに、エルフが困ったように笑いながら続けた。
「ホラ、レベルが低かったり、不人気な
……そういう時に、人数集めてリーダーと交渉するための組織なんだよ」
「普段は別のパーティーでも……共にリーダーとの交渉に……赴いてくれる仲間……のようなものだ……」
わかったようなわからないような顔のアーチャー。
聞いたことはあるけど、と魔法使いが口を開く。
「でも、そういう互助会って、加入してないとダメなんじゃないの?」
「あとから……入ることもできる……ようだ……」
横から剣士が首を突っ込んできた。
「え?マジ~?じゃあさじゃあさ~、オレも今からユニオンってのに入れるかな~?」
「だからテメェは不祥事だからダメだっつの」
呆れたように盗賊が言うと、剣士はチェ~、と不貞腐れながらまたナッツをつまもうとして、魔法使いに手をはたかれた。
「いや、そのくらいならギルドの相談窓口でいいんじゃないか?あそこなら、相談で金をとられることもないだろう」
槍使いが言うと、エルフは首を横に振った。
「ギルドのトラブル相談窓口のことかい?
……あそこは役に立たないよ。ギルド法が分かっている人間が、違反行為の証拠を集めて持って行って対処してもらうための場所だからね。
ただ相談に行くだけでは、話は聞いてもらえるかもしれないけど、基本的にはなにもしてくれないよ」
そんなわけないでしょ!
……と大声を出そうとしたところを、ルズに口を押えられた。
当たり前だけど、そんなことはない。
ギルドのトラブル相談窓口は、自分では対処できないようなトラブルの相談だってちゃんと話を聞いたうえで、調査して対応するところまでやる。
────もちろん、ギルド法が分かっている方が話が早くなるけど、だからって、なにもしない、なんてことはない。絶対に。
あたしがモゴモゴとルズに抗議している間に、隣のテーブルでは勝手に話が進んでいく。
「もしよかったら、知り合いの冒険者ユニオンを紹介するよ?
どうかな?このあと、二人で飲みなおしながら話そうよ」
「そもそもあんまり大事にするつもりはないんだけど」
囁くように耳元で言うエルフに、魔法使いは冷たく返す。
「え~?でもさ~、文句言ったらお金もらえるんだよ~?」
「そーそー!泣き寝入りはよくないよー?」
アーチャーと剣士が口をそろえる。
……ったく!
だんだん我慢できなくなってきたあたしは、ルズの手を払いのけた。
じっと聞いてれば、勝手に間違ったトラブル相談してるじゃない!
これ以上ほっといたら、問題解決どころか飲み屋で雑談しただけで終わっちゃう。
「もう、我慢できない」
そう言って立ち上がったあたしを、ルズがめんどくさそうに見上げる。
「言っとくけど、止めても無駄だからね。」
中途半端な知識で間違ったことを言い合っているだけじゃ、いつまでたってもトラブル解決なんてできやしない
────でも、あたしなら。
目の前に困ってる人がいて、手を差し伸べることができるのに、ただ見てるだけなんてあたしにはできない。
「さっきも言ったが」
ルズは呆れたように肩をすくめた。
「今この場でできることなんて、ほとんどないぞ。
……得られるものはせいぜい、きみが自分で人助けをした、という満足感くらいだ」
「それだけじゃないわ」
あたしは、毅然と言い返した。
「リーガルマイスター?冒険者ユニオン?
……ギルドだってちゃんと頼れるし、頼っていいんだってことを教えてあげなきゃ。
たとえ窓口に案内するだけだとしても、話を聞いてあげることだって大事な仕事。
誰かの役に立てるってことは、誰かに必要とされるってことなのよ」
そう言って、あたしは隣のテーブルに向かった。
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