第13話
「面白そうって、あんたねえ……」
また、こいつは。
他人のトラブルを面白がるなんて、ほんとにどういう趣味してるわけ?
あたしが文句を言ってやろうと口を開きかけたところで、隣のテーブルからガタガタと音が聞こえてきた。
「なーなー!それってさー、追放ネタ?」
そっと隣のテーブルを窺うと、別のテーブルにいた男が、酒の入ったマグを片手にイスごと移動してきたところだった。
「ちょっと聞こえちゃったんだけどさー、それ追放の話っしょ?オレ追放ネタ大好きなんだよー!オレも混ぜてよー!」
ヘラヘラと笑いながら話しかけている男は、軽装の金属鎧を着ている。すぐ横のテーブルに剣と盾が立てかけられているのを見ると、たぶん
魔法使いの隣に勝手にイスを移動させて、勝手に話始める剣士。
「アレでしょー?オマエをパーティーから追放する!つって、実は一番パーティーを支えてたやつを追放しちゃう奴!
実はオレも追放されたことあってさー!」
「聞いてない」
肩に回した手を軽く払われてるけど、ぜんぜん気にする様子もない。
「おい、テメェちょっと飲みすぎだぞ。……悪い、こいつ飲むとすぐ人に絡むんだ」
剣士と同じテーブルにいた、地味目の恰好の男が申し訳なさそうに頭を下げた。
鎧から服から、暗い色合いの装備でまとめている。たしか、あんな感じの衣装を着ている人は
アーチャーがケタケタ笑いながら、つまみの乗った皿を剣士に勧める。
「い~じゃんい~じゃん、ど~せ愚痴飲みしてただけだし~?おに~さんも一緒に愚痴ろ~?」
剣士はつまみを大げさに喜びながら口に運ぶ。
「実はさー、オレがいたパーティーって、隊商護衛ばっかやってたんだけどさー」
「ちょっと……」
苦い顔で剣士から体を離す魔法使いに、剣士はまるで構わず、勝手に話を始めた。
「あ、隊商護衛つっても商人の護衛とかじゃなくってさー、農村から野菜とか果物とかを運ぶやつなんよー。ホラ、冷凍魔法でずっと冷やしながら、いつでも新鮮なままーっつって」
聞いたことはある。普通の市場に回るような野菜は近場で採れたものがメインだけど、貴族や商人のために遠方から珍しい食材を取り扱う隊商があって、冷凍魔法で冷やしながら、遠いところから運んでくるらしい。
塩漬けだと味が変わってしまうけど、氷漬けなら採れたてのまま、なんだそうだ。
「アレさー、山賊に襲われたりってのはほとんどないんだけど、食べ物だから魔物に狙われんだよねー。
そのくせ魔法使いどもは冷凍魔法で魔力使い切ってるからさー、戦うのはオレみたいな剣士ばっかりでさー」
|魔法使いども《《》》という言い方に、白い目を向ける魔法使い。しかし、剣士はそんなこともまったく気づかない。
「その割に対して給料もよくないのに、ある日突然パーティーから追放する!って言われてさー」
「アレはテメェが、肉の入ってる冷凍箱の中に入ってたのが見つかったからだろうが!」
「だってよー、山道でずーっと暑かったから、少し涼もうかなーって」
「いくら凍ってても、生肉に直接乗っかったら怒られるに決まってんだろバカ!」
「いやそれは追放されて当然でしょ……」
盗賊にツッコまれている剣士を見ながら、あたしは小さな声でつぶやいた。
食品を運ぶ隊商護衛のクエストは、割と多い。
貴金属や高価な商品を運ぶ護衛クエストの場合、護衛についた冒険者が商品を盗んだりしないように、厳重にカギをかけたり魔法でロックしたりする。
ましてや、氷漬けにしてまで運ぶような高級食材だ。冒険者が勝手に触ったりしたら、痛んだり商品価値が落ちたりしてしまう。
さらに言うと、冷凍魔法で凍らせても途中で溶けてしまうから、道中で何度も魔法をかけなおす必要がある。魔力回復のポーションはとても高価だから、輸送費用だって跳ね上がる。
それだけ手間とお金をかけて運んでいるんだから、護衛が勝手に冷凍箱の中に入ったら怒られるどころか追放されるのはあたりまえだ。
「けどさー、いきなりその場で追放ってのはヒデーよなー。普通はもうちょっとこう、何日か前に言うはずだよなー」
「まあ……普通なら、追放するときは何日か前に言わねぇといけねぇ、ってルールがあったはずだけどな」
解雇予告。冒険者基準法第20条だ。
────パーティーから追い出されることをみんなは追放って言ってるけど、ギルド法では解雇、ということになってる。
「30日前、だな。ただお前の場合は不祥事だから別だ」
剣士たちと同じテーブルで飲んでいた大男が、横から口をはさむ。
黒髪長髪。細身だけど皮鎧を着ているから、たぶん戦士系の
「え?そ~なん?ウチら突然言われて、明日から来なくていい、だったんだけど~?」
アーチャーが驚いた声を上げる。
「あのリーダー、バカだから知らなかったんじゃないの」
「ありそ~!」
ゲラゲラ大声で笑うアーチャー。
魔法使いの前に置かれたナッツを勝手につまもうとする剣士の手をはたいて、魔法使いは酒の入ったマグをあおった。
「なお、いきなり追放された場合は、その日から30日分の、もらえるはずだった俸給をもらえるそうだ」
「は?なにそれマジ?」
槍使いの言葉に、アーチャーが食いつく。
「昔の話だが……
俺の友人が以前、同じようにパーティーから突然追放されたとき、ギルドに相談に行ってな。
……言われてから実際に追放されるまで、30日に足りない日数分の俸給をもらえた。
俺自身の話ではないからうろ覚えだがな」
「マジ?!じゃあウチらお金もらえんの?!」
目を輝かせるアーチャー。反対に、魔法使いのほうはめんどくさそうな顔をする。
「今更、めんどくさくない?」
「え~?でもお金もらえんだよ~?」
そのやり取りに、剣士が横から口をはさんだ。
「そーそー!そーなんだよー!だからさー、ちゃんとギルドに相談に行った方がいいって絶対!オレがいろいろと教えてあげるからさー!」
言いながら、また魔法使いの肩に手をかける。魔法使いは慣れた感じでそれを払いのけた。
「大げさにする気はないんだし、別にいいじゃない」
「え~!でも貰えるものは貰わなきゃ~!」
剣士を無視してアーチャーと話す魔法使い。剣士はめげずに、イスをさらに寄せた。
「そうだよー?それに泣き寝入りなんてしたら、追放したリーダーが得するだけじゃん!それでもいいの?」
「それはそれでムカつくよね~!」
剣士と顔を見合わせて、アーチャーがうなずく。
魔法使いは困惑顔だ。
「やっぱり、見てらんない」
酒の上の会話とは言っても、あの二人が困ってるのは明白じゃないの。
それになんなのあの適当な法律解説は!あたしだったらもっとちゃんと、正しい法律の条文を教えてあげられるのに!
────我慢できなくなって腰を浮かせたところで、ルズに制止された。
「なんでよ?だって……」
文句を言おうと口を開いたところで、ルズは二人のテーブルの後ろを指さした。
そっちに目をやると、彼女たちの後ろに別の冒険者たちが歩いてくるところだった。
「やあ、ちょっといいかな?」
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