第18話 世界で唯一の魔術師の俺、制御試験でも満点を取る
「今の、あの男子がやったの……!?」
「計測結晶が粉々に壊れてるじゃない……」
「故障? 前の人の損傷が原因とか?」
「まさか。あの子が順番の最初なのよ」
俺の大砲式魔術がうるさすぎたせいで、試験が中断されてしまっている。
試験官も受験生も、みんな俺に視線が釘付けだ。
いかん、このままでは学科試験の時のように悪質な妨害と取られてしまう。
「はいはい、みんな落ち着いて! 試験はそのまま続行して下さい!」
パンパンと手を叩く音がして、軽快に誰かが駆け寄ってくる。
あれはマイフェイバリットティーチャー、イノンダシオン先生。
俺たちに威力試験の概要を説明したあと、制御試験の方へ向かったはずだが、騒ぎを聞きつけて戻ってきてくれたようだ。
「……ディスガイズ先生。生徒が見ています。立ち上がって身嗜みを直して下さい」
四つん這いのまま呆然としていた試験官に、先生は小さく声をかけて立ち上がらせてやった。
「イノンダシオン先生、こ、こんなことが起きるなんて……」
試験官はまだオロオロしている。
学科試験の時は見た目からしてエリートっぽい感じだったけど、だからこそ精神は脆かったりするのかも知れないな。
「計測は失敗ですが、満点にするしかないでしょう。三年ほど前の実技試験では計測結晶を全て焼き尽くした受験生もいました。前例はあります」
その受験生、もしかしてアグニカって名前だったりしません?
姉弟子ならやりかねない。
というか絶対やる。
「くっ……。……分かりました。異論は、ありません」
イノンダシオン先生に諭された試験官は悔しそうに唇を噛んでいる。
「ありがとうございます。では、試験の続きをお願いします。まだ受験生が残っていますので」
「……はい。すぐに」
ようやく気を取り直したのか。
怖い試験官──名前はディスガイズだっけ──は俺の記録を用紙に書き記していった。
さっきイノンダシオン先生が満点って言ってたよな。
やったぞ。
これで合格へ一歩近づいた。
「っ……! いい気になるなよ……!」
キッ! って音が聞こえそうなほど睨まれた。
爆発で目や耳がやられないように、ちゃんと胸に抱いて守ってあげたのに、ひどいんご。
「次! 受験番号107番! 前へ!」
「は、はいっ!」
俺の次の受験生が怒鳴るように呼ばれて、慌てて位置に付いた。
八つ当たりされてる。
俺のせいですまん。
ディスガイズ先生の近くにいたら、またイライラさせてしまいそうだ。
俺の番は終わったし、離れたところで少し休もう。
全員の順番が終わったら、向こうで行われている制御試験と交代するみたいだ。
俺の他にも試験が済んだ受験生たちはいたが、俺の方をチラチラと見るばかりで、近づいてこようともしない。
嘲笑されるのも腹が立ったが、こうして遠巻きに猛獣でも見るような目を向けられるのも居心地が悪いなぁ。
俺、入学できたとしても友達とか出来るんだろうか。
† † †
そのあとは、大きな騒ぎが起きることもなく、つつがなく威力試験は終わった。
俺は休憩しながら、受験生たちの魔術を観察していたが、どうやら俺が目当てにしている生徒はいないようだった。
出来たら三つ目の試験の前に、そいつの能力を知っておきたかったんだが、こればっかりは巡り合わせなので仕方がない。
二つ目の制御試験も、学課の成績で順番が決まるのは同じのようだ。
つまり、俺が一番最初。
列の先頭に立った俺は、試験官に呼ばれて所定の位置へ向かう。
「……嘘でしょ」
俺はうめいた。
イライラした様子のディスガイズ先生が立っていたからだ。
制御力を試す試験でもこの人が試験官なのかよ。
「受験番号268番。呼ばれたらさっさと来い。何をしている、早く位置に付け。愚図め」
「はいはい」
言葉の端々にとげがある。
この先生、元々男が嫌いだったんだろうな。
そんでさらに俺が起こした騒ぎで恥をかかされて、完全に目の敵にされてしまった。
「一つ取れ」
俺の目の前には、箱に入った白っぽい球体がいくつも置かれてある。
大きさはバスケットボールくらいだろうか。
「その球体に刻まれた術式を解析し、魔術を発動するのが試験の内容だ」
「ふむ……」
球体の表面はガラスのようなつるつるした質感で、太陽の光の加減で中に回路のようなものが走っているのが窺える。
ただ、白く濁っていて奥まではよく見えない。
「その球体にはある魔術の術式が刻まれている。ただし、術式の組み合わせは無作為に並び替えられてあり、効果がない余分な術式も大量に含まれている。ただ魔力を流し込むだけでは魔術は発動しない。これがどういうことか分かるか?」
「バラバラになった大量の術式の中から正解のものだけを選別して、経路を組み替える。その上で、経路からズレないように魔力を慎重に送り込んで初めて発動する、って感じですね」
よく考えられてる試験だな。
魔術の制御に必要な『術式の選別』『効率的な構築』『最適な魔力量』『魔力の精密操作』が含まれている。
これを用いれば、一つの試験で四つの項目を計ることが出来る優れものだ。
まぁ、術式さえ組み立ててしまえば、魔力に物を言わせて全ての経路に総当たりで正解を出すことも出来るんだろう。
しかし、それだと魔女の魔力を持ってしても、かなりの量を消費してしまう。
可能な限り効率化して、消費を抑えれば、三つ目の模擬戦で余力を残して有利な状態で戦いに挑めると言うことか。
本当によく考えられている。
「ちっ」
「えぇ……」
舌打ちされた。
あんたが『どういうことか分かるか?』って聞くから答えたのに!
師匠だったら俺を褒めまくってデロデロに甘やかしてくれるところだぞ!
「……制限時間は5分だ。再構築した術式が洗練されているほど、その球体は小さく透明に近づいていく。これのようにな」
ディスガイズ先生が、懐から別の球体を取り出した。
大きさは拳大ほどで、向こうが透けて見えるくらい青く透明だ。
すでに内部の術式は消費されて焼き切れているから、これ自体はもうただの透明なガラス玉なんだろう。
計測結果が目に見えて分かるのはいいな。
これなら、さっきの計測結晶のように壊さずに済みそうだし。
「過去の受験生の記録では、最小サイズはこれとほぼ同じで、最速時間は1分45秒だ。球体の大きさと魔術発動までの速度。この二つの合計点で成績が決まる」
「分かりました」
じゃあ悠長に構えてる暇はないな。
さっきみたいに勝手に計測を開始されてたらたまらないし、すぐに取りかかろう。
俺が球体に触れると、ディスガイズ先生がニヤニヤとしている。
「……なんスか?」
「くく、先ほどの威力試験では、ルールに救われたようだが、今回はそうはいかないからな。純然たる制御能力が試されるのだ」
「はぁ」
なんか語り始めたけど、無視しよう。
「魔女学院に入学できる一流の魔女見習いは魔術の威力だけではない、制御力も一流でなければならない。初級魔術を使うのが精々の落ちこぼれの貴様ではこの難解な試験を解くことなど到底できはしまい。貴様が血の巡りが悪い頭を振り絞り、どういう風にあがくか、その苦しむ顔をとくと見物させてもらお──」
「解けました」
「……は?」
白い球体は、俺の手のひらの中でビー玉サイズまで小さくなっていた。
「発動する魔術は【光】ですね。うおっ、まぶしっ」
俺が握り拳を開くと、強く光る球体が現れた。
「ば、馬鹿な……!? 私が試走した時よりも早く小さい……!?」
あんたが見せてくれた球体は、あんた
ディスガイズ先生は自分の持っていた青い球体を俺の横に並べてみるが、明らかに俺の方が一回りも二回りも小さい。
何より透明度が段違いだ。
俺の球体は、もはや青さすら失っている。
完全に術式を最高率で消費した証だ。
「かかった時間、20秒くらいですよね?」
新記録めちゃめちゃ更新しちゃったぜ。
この試験だけは、受ける前から自信があったのだ。
初級魔術しか使えない俺は、制御力を徹底的に鍛えて弱い魔術を底上げするしかなかったからな。
この程度の制御試験、鼻くそをほじりながらでも満点取れる。
「そ、そんな……。そんな馬鹿なことがあるか。何かの間違いだ!」
ディスガイズ先生は新品の白い球体を手に取り、自分でも再現を試みるが、最初に見せられた青い球体以下の小ささにはならなかった。
「あ、それ、まず術式の選別から間違えてますよ。あと、組み替えもまだ良く出来ます。最高率はこうです」
俺はディスガイズ先生の前でもう一度光球を作って見せた。
今度は五秒かからなかったわ。
「くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ディスガイズ先生は地面に膝を突いて、激しく拳を叩きつけた。
受験生が良い点出したことをそんな悔しがらないでくれ。
だが、ここはあえて言おう。
「ざまぁー」
挿絵
レオンハルトの試験結果を受け入れられないディスガイズ先生
https://kakuyomu.jp/users/inumajin/news/16817330657395873036
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