10話 謎の美女現る
◇
さて、ここからしばらく金と物の価値の話をする。
現在の所持金は白金貨一枚、金貨三枚、銀貨九枚。銀貨以外はギルドに預けている。
暫定的に渡されたリッチキングの魔石が白金貨一枚になった。ギルドでは正式な価値が決められず、また上級魔獣の魔石は全て王都の研究機関に回されるため、今王都へ送付中らしく、正式な価値が決まるのはもう少し先になるそうだ。ただ少なくとも白金貨一枚は確実らしいので、先に渡しておくとのこと。金貨三枚は大量のアンデットの魔石である。
お金は一応俺が預かってるが、アムゼルにもいくらか渡したいところだ。パーティのお金としての貯金分も欲しいので、三等分した分を俺のお金にしようかな。
ちなみに、銅貨から銀貨へは千枚で一枚交換できる。銅→銀→金→白金の順で高くなり、銀から金も千枚で、金から白金は百枚で交換できる。
つまり今回は金貨百三枚を三等分すればいいので、金貨三十四枚くらいが俺の分って事にして、端数とかはパーティのものにしよう。銀貨まで割ろうと思うと面倒だし。
平民の一ヶ月の給料が大体銀貨十枚らしいので、たった二日で文無しから大金持ちになってしまった。危険を顧みず冒険者になりたがる者が多いわけだ。
ちなみに、各貨幣は大小二種類あり、銅・銀の大きい方は小さい方百枚分の価値があるらしい。大金貨は小金貨十枚分の価値だ。
ポーションとMPポーションは下級が一個小銅貨十枚。中級で小銀貨一枚。上級は小金貨一枚。
下級ポーションでHP回復の数値は五百くらい、肉体損傷は軽度の打撲、浅い切り傷の回復。
刺し傷のような深い傷は中級ポーション。数値回復は三千ほど。
全身火傷や骨折は上級ポーション。数値回復は二万ほど。
欠損はエクスポーションという一個白金貨一枚もするものでなければ治らないらしい。数値は全快だとか。
ただ、Bランク冒険者でも最大HPは五千程度らしいので、中級二本あれば死にはしないらしい。怪我が治らないので、結局大枚叩いて上級数本やエクスポーション一本は持っておきたいところらしい。
俺はエクスポーション相当の回復魔法が使えるので、なくてもいいんじゃないかと思うが、もしMP切れや何らかのスキルで魔法が使えなかった時のために上級を二本、中級を十本、下級はとりあえず百本買っておいた。MPポーションも同様の品質と値段構成なので、同じセットで買う。つまり小金貨四枚と小銀貨二十二枚のお買い物。
もちろん貨幣をジャラジャラ持ってたら重すぎて運べないし、銀貨で払ってお釣りが大銅貨何枚小銅貨何枚となったら面倒くさすぎるので、ギルドカードがここで役に立つ。ギルドカードはお金専用のアイテムボックスになっており、カードに登録した本人だけが出し入れできるらしい。ギルドガードに入っているお金はギルドカードでステータスウィンドウと同じ要領で確認できる。もちろん持ち主にしか数字は見えない。
さらに、店の殆どが商業ギルドに登録しているので同様のカードを所持しており、金額を決めてカード同士を合わせると、わざわざ取り出さなくてもお金が移動するらしい。タッチ決済である。即引落。明細は一週間の間であればギルドにある端末で履歴が見れるらしい。便利な世界だ。
この辺りのシステムはしっかりしてるんだなぁ。
お店の人はホクホク顔でポーションを入れていた箱ごと売ってくれた。まあ当然か。あとおまけで四十センチ四方の木箱二つが入る大きめの革袋と、縛るための麻縄をおまけしてくれた。運搬用だったのだろう。ご好意に甘えて革袋に入れて運んだ後、路地裏でアイテムボックスに収納した。
次に武器屋。武器や防具は「創造」で作れてしまうのだが、安物の剣の切れ味が知りたかったのと、物の品質も「鑑定」で見抜かれてしまうので、一応ダミーで店売りの装備を一式持っておきたかった。
ひとまず南部の安そうな武器屋に入る。
片手剣は鋼鉄製の低品質で小銀貨十枚。中品質で大銀貨一枚。鋼鉄製の上品質は小金貨一枚もする驚きの高さだった。冒険者を続ける上で最も重要な武器がこの値段じゃ、冒険者は大して儲からないだろうな…ほとんど装備に消えるじゃないか。
使用している鉱物によっても値段は違うらしいが、最上級のオリハルコンやミスリルの装備はこの店に無く、鉄製か鋼鉄製の装備しかなかった。
ちらちら「鑑定」しながら眺めた後、ひとまず退却して今度は一番北部にある貴族御用達っぽい武器屋に入ろうとした。が。
「お待ち下さい」
店に入ってすぐ、ドアマンらしき人に止められた。
「なんですか?」
「ここは貴族の方が利用する由緒正しき武器屋となっております。失礼ながら……新米冒険者様のようにお見受けいたしますので、この店の装備ではいささか不相応かと。南部にも武器屋は数多くあります。そちらをご利用されてはいかがでしょう」
あーなるほどこの人「鑑定」持ちか。ここで客層を振るいにかけているんだな?
「……なるほど。じゃあそうします」
余計な騒ぎは面倒だし一理あるなと思ったので退散した。ちぇ。最高級装備とか見てみたかったな。
仕方なく中部にあるそこそこご立派な店構えの武器屋に入る。
背が低いがガタイがいいムキムキなオッサンがカウンターで剣を磨いていた。
亜人族の一種、ドワーフだ。腕力の強さもそうだが、熱耐性が高く地属性の魔法に優れていることから、火山地帯で鉱石を掘ったり武器を造ったりしているらしい。基本的に穴倉で引きこもり生活で、人間嫌いの偏屈な性格だともっぱらの噂らしいが。
こんな人間だらけの街にいるとは。
「ちょっと見せてくれ」
「好きにしな」
俺は適当に見て回る。並んでいる武器や防具に低品質が一つもない。中品質すら、隅っこで叩き売られている剣しか置いていない。さすがドワーフ製。腕の良い職人なのだろう。
俺は叩き売られている樽を漁る。一本小銀貨二十枚と書かれているが、さっきの店じゃ中品質は一本大銀貨一枚だった。「鑑定」を持っていない冒険者で、違いが分からない者が見たら、叩き売られている剣は低品質だと思うだろうし、それでこの値段は高いとか考えてしまうんだろうな。
高品質は小金貨一枚と大銀貨一枚。ちょっと高めだが、この店の並びだと同じ"高品質"でも格が違いそうな気がしてくる。ドワーフマジック。恐るべし。
とはいえ今のレベルで高品質を持ってたら怪しくないか? ランクもFだし。そういや森の調査でランク査定がどうのとか言ってたけど、ランクアップはこの件が全て片付いてからだろうな。
うーん。どれにしよう。ひとまずあまり長さがない片手剣を二本と、アムゼル用に大剣を一本。ナイフは良いや。
盾は……上品質しか無いのか。これも買っておこう。
この時点で小金貨一枚と大銀貨一枚と小銀貨六十枚。
防具は俺の鋼鉄製軽装備一色で小金貨五枚と、アムゼル用の鋼鉄製重装備で大金貨一枚。
え、無茶苦茶高い。上品質だしこんなものか? いや……うん……仕方ない……稼げば良い……稼げば……。
などと買い物下手を発揮しがらも会計を済ませる。
「おう、随分買い込むな。サイズ調整はどうする?」
「あっそっかサイズ……。軽装備は俺のサイズでいいんですけど、重装備使うやつは、えーっと俺より背が五センチ高くて、俺よりは筋肉がある程度で、厚くはない……で伝わります?」
「そいつの年齢は?」
「あーえっと十七ですね」
「大体分かった。調整に一日かかるが、受け取りに来るときにそいつ連れてきてくれねえか? 最終調整してやっから」
「お願いします!」
ということなので防具は明日取りに来ることになった。
色々買い込んだので革製のホルダーもおまけで付けてくれた。大剣・盾用と片手剣用。大剣と盾は一緒に背中に背負える感じらしい。
支払いを済ませ、剣と盾をアイテムボックスに突っ込んで店を出る。一本は腰に差しておく。
残りの所持金は小金貨十五枚と大銀貨七枚強くらいか? もう計算が面倒だからしたくない。
一食小銅貨五十枚あればお腹いっぱい食べられて、大銅貨二枚で安宿が借りられる。昨日借りた安宿がその値段だった。道具や手入れを度外視して一ヶ月小銀貨十枚ちょっと稼がないと生きられない。装備や道具でさらにかかると思えば、冒険者という職業が如何にジリ貧かわかるものだ。誰だ冒険者ドリームとか言ったやつは。ん? 誰も言ってない?
だってD級の素材一体で大体銅貨二百枚とかそこらだろ? 一日二体じゃ絶対足りない。C級は銀貨一枚くらいか? C級を普通に狩れるようになって冒険者ランクEランクとガイドブックに書いてあったし、新米は相当生活が苦しいだろうな。
だが、職もなく、魔獣と戦うこともできないのならスラムに落ちるしかない…か。
治安も悪そうだしスラムに行く時は気をつけた方が良さそうだな。
あらかた買い物を済ませたので、ちょうどいいし今居る中部地区を見て回ることにする。
街ゆく人の身なりはそこそこ綺麗だ。隣の北部地区が貴族街ということもあって、ここに住んでる平民もそこそこ事業に成功している家とかなのかもしれない。グレイブの大通りは綺麗だし、石畳できちんと整備されている。旅人や冒険者と見られるような人も多い。
出店やお土産屋のような店舗も多々ある。結構賑わっているようだ。
さて、本題を忘れるところだったが、裏組織の残党探しだったか…情報が欲しいな…近くの食堂にでも入ろう。
店内はそれなり広い。お昼時だったので人も結構入っていた。俺は隅っこに陣取って聞き耳を立てる作戦だ。
夕方になったら酒場も兼業してる店らしい。昼からすでに飲んでる人がいる。
店員に軽食を注文する。
アムゼル、ちゃんと飯食ってるかなぁ……などと思いながらも出された食事に手をつける。
ボアの肉をトマトで煮込んだスープとパンだった。
「そういやあれどうなったんだよ?」
「あれってなんだ?」
「あれだよあれ、ガキが攫われるとかいう話」
「ありゃあだいぶ前に解決したべや。ギルドの連中が悪いやつやっつけて追い出したとかで」
「あー? でも最近またそんな話出てたじゃねえか、ありゃどうなったんだよ?」
「そんなの知るかぃ〜ギルドで聞いてみりゃええがな」
酒を飲んでる客の声が大きいので、特段聞き耳を立てなくても聞こえてきた。
「あらおじさま達。知らないの?」
酔っぱらったオジサン二人の席に、女性が近づく。
一瞬デフェルさんかと見間違えるほど似たような露出度の、黒いマーメイドドレスを着ており、同じく黒のオペラグローブを身につけている。首には黒い羽のようなファーを巻き、真っ赤な石のついた留め具で留めてあった。
深い紫の長髪を艶やかに靡かせて、しなるようにオジサンAにもたれかかる。
オジサンたちは鼻の下を伸ばしながらも女性を歓迎した。
「おぉ? 知ってるのか? ここにお座り」
ちゃっかり隣に座らせるオジサンA。オジサンBもぽーっとして頭が回ってなさそうだ。
「その人たち、≪アポカリプス≫って名乗ってるらしいんだけど、最近街で見かけたって人がいるらしいの。戻ってきてるんですって、この街に」
「そりゃ大変じゃねえか、またあんな惨い事件が起きちまうのかね……警備隊は何やってるんだ全く」
「ねえ? その警備隊の方達って普段何してるのかしら?」
女性が見せびらかすように脚を組む。膝上まで入ったセンタースリットのため、脚を組むとかなり際どい。オジサンAの顔が子供に見せられない顔になっている。
「俺の知り合いに警備隊だった奴がいるんだが、街をぐるぐる回ったり、後は門で人の出入りを見てるらしいなぁ」
女性の真紅の瞳がキラリと光る。谷間から丸めた紙を取り出して広げた。
「この辺りも通るのかしら?」
「あー、そこは通らねえな。貴族街だし、お貴族サマに通るなって言われたら強く出れねえしな」
怪しい。なんでそんなことを聞き出す? 俺は女性にそっと「超鑑定」を試みた。
―――
ソルティ・レグスノヴァ
年齢:256
ジョブ:大魔導師
HP756534/756534
MP698545/698545
スキル:火257 爆350 風150 土120 闇230
時空154 封術125 魔力探知245
擬態200 幻135 魔眼
称号:≪爆炎の吸血鬼≫
備考:魔人(吸血鬼)、≪第二真祖≫ ≪魔王の側近:魔王十二柱の一人≫
―――
「……っ!」
咳き込まないようにするので必死だった。
え? 魔王の側近て。俺の手下?
ダメだ思い出せない……というかなんでいる?
幸いにも俺には気付いてない様子。
オジサンたちは話を続けている。
「へえ……おじさま達物知りなのね。この辺りの御屋敷は誰のものなのかしら?」
その問いに、オジサンたちは顔を見合わせて、
「ここは領主サマの御屋敷だべや。お嬢ちゃん、よそもんか?」
「うふふ。そうなの。最近来たばかりだから。でも良いことが知れたわ。ちょうどご領主様にお会いしたいと思っていたのよ。教えてくれてありがとうね」
そう言って、女性はオジサン二人の頬に口づけして店を出る。
オジサンたちはぽーっとして言葉も出ない様子。
俺は女性の後をそっと尾けることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます