第4話 The sky falls
あの戦いの後、日本では『ヴセアついに失態』『平和の象徴 殉職』と大きく報道された。圧倒的強さを誇った新種の異形種エレメント『ウラン』に恐怖する者、そんなエレメントと戦ったヴセアを称賛する者、ソラを失ったのはヴセアが彼女に頼り過ぎていたからだと批判する者、彼女の死を嘆く者。様々な人がいた。
僕は仕事をする気にならずに一か月ほどの休暇をもらっていた。
その休暇ももうすぐ終わろうとしている。それなのにテレビはまだウラン事件でもちきりだった。
僕はテレビを消し、再びベッドへ寝転がる。
すると、部屋のインターホンが鳴った。どこのもの好きが僕なんかを訪ねてくるのかともいながら、応答する。
「はい」
『ユージンだ。よかったら開けてくれないか?』
ユージン……あの青鬼パイロットだ。僕は玄関の鍵を開け、彼を出迎える。
「すまないね。用事はすぐ済ます」
そんな様子の彼を僕は「どうぞ」と中へ勧めた。
「お茶とかないんですけど」
「全然構わないよ! いやあ、俺も青鬼パイロットを引退することにしたんだ」
「え、後釜はどうするんですか。ユージンさんがいなくなったら今のヴセアにはパイロットがいない」
「大丈夫。マクベス号の艦長知ってる? ヴセアでも古株の東郷艦長。彼が見つけて来たすごい子がいるんだよ。その子に青鬼パイロットの座を譲ることにした。それに、赤鬼パイロットもいい後継者がいるらしい」
「そうですか……」
僕はあまりその話に気分が乗らずそっけない返事しかできなかった。とても申し訳ないがもう帰ってもらおうかと考える。
「訓練生に優秀な生徒がいるようなんだ。パク君といったかな。座学、実技ともに首席。彼女には及ばないが劣らない人材だ」
「あの、そういう話をするんであればもう帰ってもらってもいいですか」
「あーごめん! こんな話はどうでもいいんだ。君に話しにきたのはこんなことじゃない」
そう言ってユージンは僕にひとつのUSBメモリを差し出してきた。
「何ですか」
「ソラの船室から見つかったものだ。あんな状態だった君にも開示するかすごく悩んだんだが、ソーヤに相談したらきっと君は知りたがるだろうし知るべきだというから、持ってきた。君の名前も出ているしね。一か月も遅れてしまい申し訳ないが、君が良ければ聞いてみてくれ」
僕はそのUSBメモリを受け取りパソコンに挿入し、音声ファイルを開く。
スピーカーからは衣擦れの音が聞こえ、やがて懐かしい声が耳に入って来た。
『着替えながらですごく悪いとは思うんだけど、時間がないから許してほしい。これはユージンに嘘を吐いてアラミス号の船室で録音してる。
まず、お父さん、お母さん。私を生んでくれて、育ててくれてありがとう。そしてヴセアへ入ることを許してくれてありがとう。親孝行とか全くできないまま、こんな事になってしまって本当にごめんなさい。でもこうしなきゃ、お父さんもお母さんも危ない目に遭ってしまうかもしれないの。私はお父さんとお母さんの笑顔を守るためにやるべきことをする。だから泣かないで笑っていてほしいな。特にお母さんは絶対泣いてると思うもん。
それから、ユージン先輩。こんな面倒くさい後輩を持って大変でしたよね。申しわけありませんでした。私はいい先輩を持てて幸せでしたけどね。一緒に戦ってくれて本当にありがとうございました。これからのヴセアをよろしくお願いします。
あと、私の友達になってくれたみんな! ありがとうごめんね! みんなともっと色んな所に行きたかったなあ。北海道でスキーしてみたかったし、私まだ夢の国にも行ってないもん。でも行かなきゃいけないんだ。もう一回言うね。ありがとうごめん!
メッセージ残したいのはこのくらいかな。意外と少なくて悲しいや。え、何? 『僕を忘れるな』って? そんなに心配しなくてもいいよ。ちゃんと覚えてるから。それに君がそんなこと言わないのもわかってる。私の一番大切な人だもんね。
君には言いたいことが多すぎて上手くまとまらないかもしれないなあ。
一番青春する時期を訓練学校で過ごしちゃったから、君としたかったこと、全くできなかったな。まず二人でおしゃべりする時間がなかったよね。いやほんと君と遊園地行きたかったし、ライブ行きたかったし、ショッピングしたかったし。
後はね、ありがとうってたくさん言いたい。感謝してもしきれないもん。君には何度も救われよ。ありがとう。時間ないからたくさん言えない……あ、ありがとうの一万乗!
私と出会ってくれてありがとう。私を支えてくれてありがとう。私のことをよくわかってくれたありがとう。私に幸せをくれてありがとう。
もう、行かなくちゃなあ。
君は私の大好きな大好きな人です。本当にありがとう。泉コウタロウ君。いつまでも私の好きな人でいてください』
涙でキーボードが濡れそうになり慌てて袖で涙を拭う。気持ちが言葉にならなかった。もう、これからどうやって生きていけばいいかわからなくて、とても辛かった。どうやって生きていくか以前に生きられるかもわからなかった。心は既に死んでいた。
さらに涙が零れそうだったので、ひとまずUSBメモリをユージンに返し、彼が帰ってから思いっきり泣こう思った。僕がUSBメモリに手を伸ばそうとすると、ユージンに止められる。
「まだあるよ」
『あ、あとひとつ忘れてた! コウタロウ! 君に託したいことがある! 伝言してほしい人がいるんだ。トオル君とミオちゃん。わかる? 私がよく一緒に遊んでた隣の家の小学生たち。こう伝えて。
私はいなくなってしまったけど、また遊びに行くからね。それから私はいつまでも二人の事を見守っているよ。辛いことが多い世の中だろうけど、強く生きてね。
君の好きなタイミングでいいから、よろしくね』
音声が全て流されるとユージンが僕の肩を叩いた。
「これから君が生きる理由だ」
僕はもう我慢できなかった。机に突っ伏し声を上げて泣いた。
「そのUSBは君にあげるよ。きっとソラもそれを望んでいるはずだ。俺はもう行くけど、鍵だけは閉めておきなよ。それじゃあ」
ユージンは出て行く。僕はUSBを掴み胸に押し当てた。
生きるよ。君の分まで、君のために。そして僕こそ君に感謝したい。
ソラ、ありがとう。僕にはまだ時間がある。だから一万乗を超えるくらい、何度も言うよ。ありがとう。
僕と出会ってくれてありがとう。
僕と仲良くしてくれてありがとう。
僕を支えてくれてありがとう。
僕を好きになってくれたありがとう。
あと、僕も君が大好きだよ。
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