第15話 ハッピートリオ

「皆来てくれてありがとね!」

 福島、福井、福岡。

 県名に福の字が含まれる彼らに集まってもらう会が、福井(県の化身)主催で開催された。


 これからの未来、日本は人口が少なくなるだろう。このまま進むと、都道府県はいずれ消滅する。なので、これから先は協力して過疎を少なくし、あわよくば人口を増やそう……というのが建前で、本当は遠い地域の化身と交流したい福井が開催しただけのミーティングだ。


「なんだべ、化身会議で顔合わせるぐらいだったから新鮮だね!」

「あいらしか子いっぱいで嬉しかねー。二人とも福岡くんって呼びんしゃい」

 三人で丸い机を囲んで座る。福井が司会となり、話を進めた。

「それじゃあ、まずは自己紹介から始めようか。うら、福井県の化身! すごいでしょ、この羽も尻尾も爪も牙も、本物なんやざ!」

「わぁ、すごいね……飛べるの?」

「もちろん!」

 福島が福井の羽を触った。

「……硬い」

「かっこいいやが!」

「……銃弾も防げそうやなあ」

「福岡くん、物騒なこと言わんときね!」

「あいらしか子にはそげんひどか事しぇんばい! ただ、気になっただけで……ね?」

 福岡はそう笑顔で言っているが福井は恐ろしさを感じ取り、福島の後ろに隠れてしまった。福島は苦笑いし、自分もと自己紹介を始めた。


「あたしは福島県。趣味は筋トレとラーメン食べるごどがな」

「喜多方ラーメンか? 東北んラーメンもうまかって聞くばい。俺にも博多ラーメンとかあるけん、今度食べに来んしゃい」

 福岡がラーメンの話題に食いついた。

「二人のとこはラーメン有名やがの! うらも今度食べに行くざ! おすすめのお店教えての!」

「もちろん!」

 福島が嬉しそうに返事をした。


「福岡くんも自己紹介しねや!」

「ラーメンの話題ももっと聞ぎでえがな……」

 女子二人にお願いされてまんざらでもない福岡は、簡単に自己紹介をした。

「そうやなあ。ラーメンは個人トークでやるとして、自己紹介か……。俺は福岡。大学で政治経済について学んどーばい。難しかところは山口に教えてもろうとー」

「山口くんと仲いいんだね……」

 山口の名前が出ると、福島は微妙な反応をした。福井は不思議な顔をしていたが、福岡はそのあたりの相談を山口からされていたので、なんとなく察しがついた。

「……あと最近は佐賀に歴史も教えてもろうとーかも」

「佐賀? 歴史で有名やったりするの?」

「吉野ヶ里遺跡がある。卑弥呼いたかもしれん場所ん一つばい」


 遠くで佐賀がくしゃみをした。

「今誰かに噂されたかも……」

「あら、良かったじゃないですか。佐賀県の知名度が上がったんですよ」

 長崎県はそう適当にあしらっていたが、佐賀は嬉しそうだった。




 一通りの自己紹介が終わり、適当に雑談をする三人。福井は福島をじっと見つめだした。

「え、えっと……?」

「それにしても、福島って縁起の良い色してるよの」

 赤い肌、白い髪、と福井が指をさす。

「確かに、なんか神社にいそうやなあ」

「赤べこの赤ど、白虎隊の白だよ。国民のイメージが反映されだみだいなんだ」

「あれ、ばってん昔は黒かった気がする……?」

「若松県……会津兄さんから受げ継いだ感じがな」

「廃藩置県の話か。懐かしか」

「あのころは石川と富山が大変そうやったなー」

 福井が懐かしむように思い出している。

「富山と石川、二人はもともと付き合うとったんやっけ。バカップルやった?」

「なんちゅうか、石川がめんどくさい系の女やった気がする」

 福島と福岡はその様子をなんとなく想像できた。

「ちなみに、今はお互いどだ感じなの?」

「犬猿の仲」

「なら石川は今はフリーやし、復縁する予定もなかばいなあ。口説いてみようかなー」

「わわ、遠距離恋愛!?」

「誠実な人が好きって言うてたで、福岡くんはちょっこし無理かもしれんよ」

 早速電話をかけようとする福岡に、福井がそうアドバイスをした。本当はめんどくさいことになりそうなので、やめてほしかっただけである。

「しょんなかか。じゃあ佐賀で我慢しよう」

「「え?」」

「冗談ばい! そげん本気んごたー顔しなしゃんな!」

 福岡のジョークがすべってしまった。福岡は急いで別の話題を探す。


「ええと、福島は好きな人とかおると!?」

「あたし!?」

 突然話を振られた福島は、突然のことに戸惑ってしまった。

「考えだごどねがったな……そだの、兄さんが許さねがったがらなぁ」

「厳しい人なんやの。うらは会うたことないでの……」

 福井がそう返した。今も若松県を覚えているのは、東北各県と薩長土肥などのメンツだろう。

「げんとも、恋愛だら南関東がすごいがも」

「そういやあ、あそこは東京ば中心に逆ハーレム状態やけんな」

「ちゅうか、東京は神奈川と付き合うてえんかったっけ?」

「付き合っとる」

「茨城がら時々話聞ぐよ。この前は神奈川くんど千葉くんど埼玉くんがまだ喧嘩したって。千葉くんも埼玉くんも勝ぢ目ねえのに……」

 呆れ顔の福島に、福岡は不思議そうな顔をした。

「千葉はヤンキーやったやろ? なんで神奈川に負くると?」

「喧嘩で勝ででも東京さんが振り向ぐはずがねえ。一途な女だもん」



「カップルといえば、新潟とトキちゃんが可愛いんやがの〜!」

 福井が思い出したように言った。

「トキって、こん前長野が言いよった、佐渡島ん化身になるかもしれん女ん子か?」

「ならんって本人は言うてるけどね。あの子はうららに近づきすぎたざ!」

「なんだか、恋バナすると幸せになってぎだがも」

「『福』が含まれとー県っぽうなってきたな。俺らんコネクトのアカウント作ろうや」

「なら『ハッピートリオ』とかどう?」

 福島がそう提案した。

「たしかに、なんか可愛いね! 賛成!」

「なら作ってしまおう。アイコンの写真とるけん、二人とも俺ん両脇に寄って」

「わかった」

「うん!」

 福岡は器用に自撮りをし、それをアイコンとした。その後、他愛もない話をしてから三人は感心した。




 ある日、茨城が休み時間にコネクトを開いていると、とある投稿が目に入った。

「へえ、やるじゃん」

「先生、どうしたんですか?」

「ほら、同僚が良さげな活動してるからさ」

 茨城は(授業の最中だが)スマホをテレビにつないで、その投稿の画面を見せた。


〈ハッピートリオ@『福』

 福島、福井、福岡の三化身は、国民、県民の皆様に幸せをお届けするために、新たにアカウントを作りました!

 我々の件名に『福』が含まれていることから、三人でハッピートリオという名目で活動していきます!


 メンバーのアカウント

 福島県の化身@赤べこめんこい

 福井@notドラゴン

 福岡くん@三都のうちの一つは俺〉


「福島さんって東北のメンツ以外にも友達いたんすね!」

「おいお前ら福島に失礼だろ。けど、仲良さそうでよかった……」

 茨城は親のように心配をしていた。すると、生徒の一人がテレビの画面からとある人物を見つけた。

「あ、返信欄に愛知さんのアカウントがある!」

「お、ほんとだ。見てみるか」


 のちに茨城はその選択を後悔することになる。


〈車と言えば愛知@えびふりゃー

 何両手に花抱えとるんだわ。あとおみゃー三都じゃにゃーだろ。引っ込んでろド田舎〉


〈やまぐっち@テトロドトキシン

 何一人で福島と仲良うしてるんだよお前!!!〉


〈福岡くん@三都のうちの一つは俺

 俺はイケメンで女ん子には優しゅうて、それでいて接しやすかけんね。それと、福岡は大都会。十分三都になる〉


〈車と言えば愛知@えびふりゃー

 ●ねクソガキ〉


〈福岡くん@三都のうちの一つは俺

 俺は出そうて思やあこげんのも出しぇるっちゃん?

『××(社会的にアウトなもの)と■■■(そもそも持ってること自体やばい)の写真』〉



「だぁぁぁぁ!!!」

 茨城は急いでテレビのコードからスマホを引っこ抜いた。そして急いで生徒たちを見る。

「……今のは見ていない、忘れるんだ」

「せ、先生、今のって」

「ヒヨコだろう。多分ひよこだろう。黒いから黒ゴマ味だ」

「で、でも、深緑っぽいあれって」

「ほうれん草味だろう。あいつポパイ好きなんじゃなかったっけ」

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