第12話 仲良くない東名阪

 東名阪。東京、名古屋、大阪の略称である。

 そして、東名阪の三人、東京・愛知・大阪の三人は基本的には有能なのだ。例えば、何か集まりがあれば、この三人が主導する。重大なこととなれば、素早い連携を見せるので、この三人は政府からも評価されている。


 しかし、基本的に彼らは仲が悪い。

 特に東京と大阪は。



 茨城は教室で授業をしていた。

「はい、こご気体の状態方程式使って解ぐ。温度、圧力、体積、そしてmolが出でぎだらこれだって覚えでおいで」

「先生、ボイル・シャルルの法則でも解けるものは解けそうだと思うんですけど……」

「molが出なければボイルシャルル使っといたほうが楽だっぺ」

 高校化学は難しい。

 すると、教室にスマホの通知音が響いた。茨城は顔をしかめ、生徒たちに問う。

「……おい。誰だ携帯使った奴」

「「「違います!!!」」」

 しかしスマホはピコピコと鳴りやまない。

「本当に誰だ!!」

「先生かもしれませんよ!?」

「そーだそーだ!」

 生徒たちからブーイングが起きた。茨城は仕方なく形態を開いた。すると、そこには大量の通知が来ていた。


東京『ちょっと黙ってよ!』

大阪『何お前の体重言うたぐらいで怒ってんねん!』

東京『女子の体重はシークレットなのよ!』

愛知『デブ』

東京『●ね』

福岡『名古屋県はやく三都ん座ば渡しぇ』

愛知『●ね』

福岡『×す』

宮崎『兄貴! 都道府県グループトークが暴言だらけや!』

鹿児島『俺は今お前の隣にいるのになんでそこで言ってくるんだよ』

千葉『見て見て、俺今どこにいるでしょーか』

北海道『わあ! 札幌にいるね! どうしたの?』

神奈川『千葉に北海道の美味しいカニ買ってくるように頼んだんだヨー!』

東京『大阪早く私の体重消しなさい』

大阪『やなこった!!』

沖縄『えっ、意外と重い!』

東京『沖縄! アンタ覚えてなさいよ!』

沖縄『えっ、何もしてないのに!?』


 次々とメッセージがやってくる。東京と大阪がグループトークで喧嘩しているのが主な理由だろう。

「ほらー、茨城先生だー!」

 このように、他人も巻き込むほど仲が悪いのだ。



 愛知に関しては、福岡から三大都市の座を要求されている。たまに神奈川も同じことをしてくるが、そのような時は東京が注意している。

「よお岐阜県、愛知どこや? 俺は今すぐ三大都市になりたかばい」

 福岡は愛知の隣、岐阜の家に乗り込んだ。

「えっ、福岡県!? どうしてここに……」

「『福岡さん』だ。俺んことば呼び捨てでくるんな九州んメンツと山口だけや。……あいらしか子やったら福岡くんだっちゃ良かっちゃけどな」

「で、でも、愛知は仕事中やで……」

「ふーん?」

 福岡は銃を取り出した。岐阜は刀を出して応戦しようかと考えたが、そんな度胸はなかった。県殺しにはなりたくなかったのだ。

「岐阜ー、今度伊勢神宮にお参りしやん? って、岐阜何されとるに!?」

「み、三重さん!!」

 通りがかりの三重が岐阜を福岡から引き剥がした。


「助かった……」

「あんた何しとるの! 岐阜を傷つけるつもり!? 岐阜もあんたならなんとかできたやん!」

「三重ちゃん、俺は愛知ば探しよーっちゃん。ばってん岐阜が答えんやったけんそれ相応んことばしたまでなんばい」

「愛知ならあの運転の荒い車の中におるに」

 三重は遠くからやってくる車を指差した。福岡は岐阜に向けていた銃を車に向けた。

「なら、撃つしかなかね」

「えっ、ちょ、待ってよ! 撃ってかん!」

 岐阜が急いで止めに入った。しかし、福岡は容赦なく発砲した。


 しかし、その弾が届く前に、愛知が福岡を車で轢いた。轢いたというより、吹き飛ばした。

「えっ!?」

「……はぁ」

 福岡は放物線を描いて飛ばされていった。化身なのでケガをしてもすぐに治るうえ、基本あまり痛くないので、愛知は容赦なく轢いたのだ。愛知は車から降りて、三重と岐阜に言った。

「おみゃーら揃いも揃って何しとるんだ? せっかくなら今日三人で食べに行くか? 東京と大阪の悪口でも言い合おみゃーか」

「首都の悪口言えるのはお前くらいやに。あと、食べに行くのは賛成やけど、お前の運転は嫌や。死なん言えど、怖うて死にそうや」




 ちなみに、大阪には東京と愛知以外にも敵はいる。

「大阪はんは今日も能天気どすなぁ。幸せそうでええどすなぁ(アホは笑うことしかできひん。詰まらへん人生送っとるね)」

「おい、今のはかっこの中身地味に見えた気ぃすんねん。このクソ狐が」

 そう、京都である。

 京都も何かと日本の首都を譲らない。事実、京都は人口も多いし歴史的な文化もたくさんある。関東の高校生の修学旅行先は大体京都でもある。

 今にも喧嘩になりそうなこの場に、兵庫は無表情で言った。

「お前らおもんないことで争わんといてな。おんなじ穴の狢ってやつ? それにあんたらの県は確かにわしのとこより上のとこもあると思うけど、俺は神やさかい実際は一番偉いで。敬え」

「誰が敬うかいな。もっと笑いのセンス磨いてから言わんかい」

「確かに素晴らしい神様どすなぁ(あんたはファッションだけで、素晴らしさ奈良姉と稲荷様よりは下やろ)」

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