第11話 関東ガールズ
「あれ、東京だぁ。おはよう」
東京と栃木がファミレスで女子会をしていると、珍しく関東にやってきた北海道とたまたまファミレスで鉢合わせた。
「おはよ、北海道。珍しいね、北関東に来るなんて」
「え、北海道さん!?」
「あれ、この子誰?」
栃木は背の高い北海道を見て驚いた。北海道は基本南に行くことがない。特に用もないからだ。行って宮城までである(時々行く沖縄は別)。
「だ、誰……」
栃木は落ち込んだ。
「アンタねぇ……」
「えっ、俺悪いことしちゃった!? ご、ごめんね!」
「栃木よ。都道府県くらい高校生でも言えるわ」
「栃木って知名度ないもんね……栃木というか北関東大体知名度ないけど」
「ご、ごめんね! 俺あんまり南に行かないから、覚えるの苦手で……」
北海道は栃木に謝り倒した。
「ところで栃木ってどこだっけ」
「うわぁぁぁぁん!!」
「北海道!!!」
東京が全力でパンチした。北海道が港区女子を漁師と勘違いした時と同じくらい強く殴った。しかし、北海道はびくともしない。それでも申し訳なさを感じたのか、北海道は慌てた。
「ほ、本当に分かんないんだよ!」
「福島の下よ!」
「ああ、南東北か!」
「北関東です!!!」
同じ関東ということもあるが、東京と栃木は仲が良い。栃木の他に近い場所に、というか隣に住む女子は山梨だが、彼女は日々静岡と喧嘩しているため滅多に話さない。
福島ともまあまあ仲は良いが、東北まで行くのはめんどくさい。
なので、必然的に仲良くなるのは栃木だったのだ。
「栃木って、今の時期もイチゴ作ってるの?」
「一応夏いちごも作ってるけど、生産量が多いのは北海道さんとか、東北の方とか、あと長野くらいだよ」
「へぇ、そうなんだね」
「おいしさに自信はあるんだよ! 今度ケーキ作るんだけど、食べる?」
「食べる! あと今度もコネクトに投稿してもいい?」
「もちろん良いよ!」
それとね、と栃木が言葉を続けた途端、栃木は無音になった。
「あ——」
「! ……! !! ww……? ……??」
栃木は口をパクパクと動かしていた。しかし、発せられる言葉は一つもない。栃木は自分の状況を悟り、スマホからメッセージを東京に送った。
[ごめんね、私時々話す力とかが奪われちゃうんだ]
「……なんで?」
東京の素直な疑問だった。
[三猿の影響]
「なるほどね」
東京は不思議に思った。こんなことがあるんだ。県の特性って、化身になると本当に表面的に出てくるんだな。
「……栃木って、県の化身になって幸せ?」
[まあ幸せですけど。人間みたいに死んで餃子食べられなくなったら悲しいですし]
「そっかぁ。けど、私は後悔してる」
東京の本心の半分はそうである。東京は少しだけ聞きにくそうにしたが、それでも栃木に聞いた。
「栃木は後悔してる?」
「——あー、あー、私話せるようになった!」
栃木は声を発した。意外とすぐに戻るんだな、と東京は思った。そして、栃木からの返事を待ったが、それは予想外の答えだった。
「ごめんね東京ちゃん、今何か話してくれてると思うけど、今度は何かを聞く力奪われちゃった……」
「……そっかぁ」
東京は栃木にメッセージを送った。
[こういうのって連続してくるの?]
「今日はたまたまそうだっただけ。珍しいかな」
[そうなんだ。けど視力奪われたら大変じゃない?]
「そういう時は群馬くんか福島を呼んでます」
なるほどね、と思いながら東京は先ほどの質問を聞くかどうか悩んだ。結局聞かないことにしたが。
東京を駅まで送った栃木は、抗争帰りらしい千葉と茨城の二人に会った。
「あ、栃木じゃーん!」
「え、千葉くん!? 茨城くんも!」
「抗争の帰り。栃木は?」
「東京ちゃんと遊んだので、その帰りです」
「へぇ、そうなんだね!」
返り血が付いている千葉は明るい笑顔で言った。少し怖かった。すると、千葉のスマホが音を鳴らした。
「この音は東京ちゃんから!」
「あ、相変わらずだね……」
「こいついつもそうなんだよな」
「なになに、ええと『栃木ちゃんに変なことするな』だって!」
「それお前宛だろ! なんで俺の顔見て言うんだよ!!」
でもまあ、お前なら疑われて当然か、と茨城は言った。
「失礼だな、俺一途だし」
「そうですよね、千葉くんの話時々東京ちゃんから聞きます」
「えっ、どんな!?」
「どーせ大した話じゃねぇから! 悪りぃ栃木、変な時間食わせちまった。日が暮れる前に帰っとけ」
「うん、またね茨城くん、千葉くん」
「ばいばーい」
茨城は栃木の化身としての特性を知っていたので、話が長くなる前に千葉を回収して行った。
東京は何かを思い出そうと必死であった。それでも思い出せず、ついカッとなって硬い煎餅に齧り付いた。美味しかった。
「……分からない」
「何考えてんのー?」
神奈川がそう聞いた。
「……それも分かんないや」
「変なの! けど、そういうところもかわいー!」
東京は結局、まあ今は幸せだから良いか、と夕飯の支度を始めた。
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