第10話 化身とSNS

「今日の仕事はこれ。SNSの扱いについて、俺たちが危険を伝えないと行けないらしい」

 今日は東京を除く南関東の埼玉、千葉、神奈川が会議をする。千葉は持ってきた資料を出した。


「東京さんと北関東の皆さんは?」

「あっちはあっちで話し合うって」

「とーちゃんは別の仕事」

「あ、SNSといえば……お二人とも、見てください!」

 埼玉はスマホを取り出し、日本に普及しているSNS『コネクトbit』、通常コネクトを開いた。



「見てください! 東京さんが自撮り写真を上げていました!」

 埼玉が叫んでいた理由はそれらしい。あ、本当だ、と千葉もスマホを見た。

「いいね、っと」

「これクレープ? 美味しそーだネ!」

「はい、都内のクレープ屋だそうです」

「今度東京ちゃんとそこでデートしようかなー」

「それ僕の前で言う?」

 千葉と神奈川が臨戦状態に入る。不穏な空気を止めるために、慌てて埼玉が話を変えた。


「それよりもです、仕事の件ですよ!」

「そうだな。この注釈の『SNSに注意喚起の動画を上げる』ってのがよく分からないな」

 千葉が自身のSNSを開く。飛んで行った目的地で見つけた珍しい雲の画像や、某テーマパークで遊んだ時に撮った写真しか上げられていない。

「写真しか上げてない俺が、急に文章打ったらどんな反応になるんだろ」

「あー、確かにそれだと影響力なさそう」

「でも僕よりはありそうですよ?」

「えー、埼玉何投稿してんの」

「見ますか? これなんですけど」

 埼玉が自身のスマホを二人に渡した。



〈埼玉@都民のリーダー

 東京様今日も美しい〉


〈モブ都民@プリン

 埼玉県今日も都民と繋がろうとしてる。東京様が美しいのは当たり前なんだよ!!〉


〈埼玉@都民のリーダー

 美しさを言葉にしても表現できないんだよ! 黙って語らせろや!〉



「お前普通の人間と喧嘩してね?」

 千葉がオンライン上の会話を二度見していた。

「どうでもいいけど名前なんでこれ? 埼玉は都民じゃなくて化身だヨ?」

「都民は東京さんのファンの愛称なんです」

「え、知らなかった。ま、俺はファンじゃなくて右腕だけどな」

「僕もファンじゃなくてダーリンだしネ!」

「やめてください傷つきます。あと千葉さん、僕も右腕では?」

「でも都民のリーダーなんだろ?」

 更に埼玉の投稿を見る。



〈埼玉@都民のリーダー

 なななななななんと、今日東京様と同じお仕事が回ってきたー!!!

 一緒に仕事とかマジ尊死する!!

 神様なんて信じてないけどまじ神。埼玉であることに感謝するわ〉


〈モブ男@淡路島に来い

 俺のとこの県は神様だが??〉


〈埼玉@都民のリーダー

 なぜ神が仕事をしているのか……?〉


〈宮崎ちゃが〜!@フェニックス

 俺も神様に近えけど仕事しちょるちゃ!〉


〈埼玉@都民のリーダー

 宮崎さんコネクトやってたんですか!? ちょっと驚きです。あ、フォロー失礼します〉



「都民以外も出てきてるけど」

「こんな投稿してる人が、急にSNSの使い方を気をつけろ! とか言い出したら信じられないでしょ?」

 千葉と埼玉は確かにと納得をした。もはや普通の会話と変わらない。

「神奈川はこれやってんの?」

「僕はこっちだヨ!」

 神奈川がスマホを差し出した。それはT▲kT◯kだった。埼玉が震えながら神奈川の動画を見ている。


〈神奈川&東京

 僕の彼女が一番可愛い♥︎

『秋葉原のメイド喫茶でアルバイトをする東京の動画』〉


 埼玉が本格的に震え出した。

「と、東京さんはメイド喫茶でアルバイトをしていた!!??」

「もうやめたけどネ」

「見たかった!!」

「言ってくれればたくさん通ったのに」

 涙を流す埼玉に、少し後悔している千葉。

「今はバニーガールしてるヨ」

「貢ぎます」

「行こうかな」

「仕事が先だヨ!」

 今すぐ外に出ようとする二人を、神奈川は全力で止めた。



「とりあえず、僕と千葉さんはコネクトをやっているので、こちらで動画を投稿しましょう」

 埼玉が仕事用のタブレットを持ち出した。

「僕のアカウントじゃ影響力がないので、新しくアカウントを作って動画を撮りましょう」

「そーだネ。アカウント名どうする?」

「あっ、確かに」

「面白くしません? 『南関東@東京へのクソデカ感情』」

「それは千葉だけだヨ!」

「お前俺のことなんだと思ってんだよ」

 またもや喧嘩が起きそうになった。埼玉が急いで止めに入る。

「じゃあ『南関東と東京都と謎のライバル関係@全員手下』にしますね!」

「もうそれでいーヨ」

「名前長くね? そんな長いやつコネクトにいんの?」

「居ますよ! 宮崎さんも長めじゃありませんでした?」

 こうしてアカウント作成は終了した。そして、ここからは動画撮影の時間だ。



「気をつけろとか言ってもつまんねーだろうなー」

「そうですね。ここは思い切ってネタに走りましょう!」

 埼玉がホワイトボードを取り出した。

「それじゃあ、僕らが危険な人物を演じましょう」

「ネット上の危険人物ってどんな感じなの?」

「爆弾予告とかじゃね?」

 そう話す神奈川と千葉に、埼玉がため息をつく。

「二人ともあまりコネクトやってませんね?」

「えー、写真なら投稿しまくってるけど」

「別のならやってるケド」

「危険な人物は、例えば身元を偽って接触してくるような人や、闇バイトに誘ったりするやつですよ! 爆弾とか爆破とかはただの虚言です!」

「じゃあそれやろうヨ!」

 神奈川が千葉にカメラを向けた。


「千葉さん、いつも通りヤンデレでお願い!」

「ちげーから! ヤンデレじゃねーよ!」

「それじゃあ撮るヨ! 三、二、一、アクション!」

 神奈川の合図で撮影が始まる。千葉は結局ヤンデレストーカー的な男をやる事になった。



「東京ちゃんさっきここにいたんだ。……今家に帰ったんだね。これなら家特定できそう! よーし、今日もデートに誘うぞ!」

 千葉はスマホを閉じて、あさっての方向を向いた。


「ハイカット! いー感じじゃん!」

「次神奈川の番だぞ」

 千葉が神奈川にカメラを向ける。神奈川はノリノリで撮影を始めた。闇バイトの経営者的な物を演じていた。

 そんな二人を埼玉は唖然とした顔で見ていた。

「よし! 次埼玉な!」

「埼玉は誹謗中傷する人ネ!」

「ちょっと待ってください! それだと僕のキャラが崩れませんか!?」

「はぁ? 俺はヤンデレじゃねーのにヤンデレ演じたんだぞ?」

「千葉さんはヤンデレですよ!」

「いいから埼玉もやるヨ! 三、二……」

 神奈川の関東No.2の圧力に耐えきれず、結局埼玉も役を演じることになった。


 そして千葉が動画を編集し、いよいよ投稿することになった。

「この動画はフィクションですとか言っとく?」

「そうですね」

 ここは埼玉が代表して投稿することになった。



〈南関東と東京都と謎のライバル関係@全員手下

 代表して埼玉県が文字を打ちます。

 仕事の一環として、SNS上にSNSの使い方の注意喚起の動画を上げました。

 この動画はフィクションです。

『SNSの危険についての動画』〉


 埼玉はそれを投稿したのち、すぐに自身のアカウントを開いた。

「ついでにこっちでも投稿するぞ!」

「え、ややこしくない?」

「南関東の宣伝ですよ!」



〈埼玉@都民のリーダー

 南関東のヤバい奴ら(僕含む)と新しいアカウント作ったからみんなフォローよろ〉


〈モブの花@23区民

 ついに千葉神奈川もファンクラブ入りか?〉


〈モブ太郎@地雷系女子

 いや、あの二人はないだろ〉


「返信早くね?」

「これで仕事は終わりですね! 僕のアカウントからも宣伝できたので、普通の仕事に戻りましょう!」

「僕もお店に戻るネ!」

「俺は暇だから茨城んとこ行こ」

 こうして南関東ズは解散した。




 後日。茨城は学校で珍しくコネクトを開いた。

「……あれ、今朝の話題一位のコレ、なんだ?」

 茨城は『#ヤバいぞコイツら』をタップして上位の投稿を見た。


〈大阪府@お笑いやっとるで!

 怖すぎやろ南関東。演技がリアル。怖。

→シェア『南関東と東京都と謎のライバル関係@全員手下の投稿』

 #ヤバいぞコイツら〉


「は?」

「え、先生どうしたんですか」

 生徒がスマホを覗き込む。茨城は投稿のリンクを押すと、例の投稿が出てきた。茨城は何人かの生徒とその動画を見た。


「……先生、この人千葉県の化身ですよね」

「相棒が怖い」

 茨城は少し気分が下がった。茨城がこのことに対して『相棒が怖い』と投稿し、それが少し有名になったのはまた別の話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る