第4話 中部地方はこんな感じ2

「今日こそ勝つぞ、静岡!!」

 そう叫ぶ馬に乗ったの女は山梨である。水晶の目で相手をぎらぎらと睨みつけている。


「決着をつけるぞ、山梨!」

 大きなスピーカーとエレキギターを持った男は静岡である。サッカーの試合前のようにピリピリしている。



「「富士山は山梨/静岡のものだ!!」」

 二人が争っていることはいつものことだ。二人は毎日富士山をめぐっていろんな競技で争うのだ。

 しかし、サッカーと乗馬は除外されている。お互いの得意の競技ではフェアじゃない、といつも審判をする長野が提案したことだ。


「今日の競技はなんだ!?」

「私ははんで決着をつけてえんだ!」

 はんで、とは甲州弁で早くという意味である。長野は箱から紙をランダムに一枚取り出し、それを開いた。


「はい、今日のお題はにらめっこでーす」

「にらめっこするぞ静岡!」

「かかってこい山梨!」

 二人はスタンバイし、お互いににらみ合った。


「はい、それじゃあ始めていいよ」

「「にーらめっこしましょ! 笑うと負けよ!! あっぷっぷ!!!!」」


 傍から見れば大の大人が全力でにらめっこをしている絵面である。道行く人が白い目で通り過ぎて行った。長野は二人の倍疲れた気がした。


「……」

「……」


 二人の喧嘩はなかなか終わらなかった。長野はタイマーを取り出して二人に声をかける。

「あと一分で決着つかなかったら引き分けね」

 二人はさらに変顔をヒートアップさせた。面白いので長野は二人の写真をたくさん撮った。二人はむしろ長野の行動に笑いそうになった。しかし、ここで負けると富士山がとられてしまうので、全力で黙った。

 最終的に、二人は引き分けになった。



「くっそ……また負けた」

「負けてはにゃーよ山梨。今日も引き分けだ」

 静岡は長野の前で「くそおおぉぉぉぉぉぉ!!!」と叫びながらエレキギターで不協和音を鳴らした。


「うるさい静岡。俺の耳に響く」

「今日俺魚食べたいな」

「話聞いてる?」

 長野がそう言うも、静岡は全く聞いていない。魚、魚、とつぶやく静岡に、呆れたように山梨が言った。



「魚ならそこにいるら」

「……山梨、ずっと俺のことただのワカサギとして見てたのか?」

 長野が震えながら山梨を見る。

「まあ、新潟と喧嘩してた時からおいしそうとは思ってたけど」

「お前嫌い」

 長野はギョロ目で山梨を睨んだ。すると、静岡が納得したように言った。


「そっか! 長野はワカサギか!」

「有名だけど違う!!」

「今日長野の家によってワカサギ食べる!」

「やめろ!! はちのこを食え!」

 すると、山梨の方からぐうぅぅぅぅ、と大きな音が響いてきた。

「……私もおなか減ったかな」

「おい」

「長野、腕一本ちょうでー!!」

「確かにワカサギみたいだろうけど、俺は化身だから! 食べてもおいしくないから!」

 長野は急いで自宅に帰ろうと、二人の口にワサビを突っ込んで帰っていった。

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