魔法少女の秘密
第13話 二人の魔法少女
玄関扉の開く音がした。私はスマホを置いて慌てて立ち上がり、玄関へ向かう。冷たい夜風が吹き込んできて、桜さんの短い髪の毛が揺れていた。いつの間にか魔法少女に変身していて、その姿は可愛らしいけれどこれからすることを思うと胸が痛む。
「勝てない間は戦わないって選択肢はないの?」
「ないです。可能性がわずかでもあるのなら、私は戦いをやめません」
「そっか」
私は出来る限りの笑顔で「いってらっしゃい」と見送った。玄関の扉がばたりとしまって桜さんの姿は消える。
「頑張ってね。桜さん」
私は心の中から大切なものが抜け落ちたような気持ちで、しばらく玄関扉をみつめてから、リビングに戻った。
時計の針の音がリビングに響いている。桜さんのことが心配過ぎて何かする気にもなれず、ぼうっと過ごしていた。でも待てど暮らせど桜さんは帰ってこない。
時間はどんどん過ぎていく。一時間、二時間、三時間。
気付けば夜中の一時になっていて、なおさら桜さんのことが心配になる。足手まといになるってことは分かってる。それでも放っておけるわけがなかった。
私は着の身着のままで玄関を飛び出した。外は暗くて人気もない。階段を降りて、自転車置き場の自転車に乱暴にまたがった。そして全力でペダルをこぐ。目指す場所はあの橋だ。
暗い夜道をライトをつけて、疾走していく。点滅する街灯。夜更かししているのか、にぎやかなテレビの音が漏れ出してくる家々。その脇を全速力で突っ切って、ようやく深い谷に渡された橋にまでたどり着く。
するとそこには魔法少女が二人いた。
「えっ……?」
私は困惑して、自転車を止めた。なぜなら桜さんの隣にいるもう一人の魔法少女は、間違いなく豊岡さんだったからだ。なんで? もしかして大学で桜さんを目視できたのは、同じ魔法少女だから? いやでも、豊岡さん自身は普通に他の人にみえてるよね? 魔法少女は不幸な人にしか見えないはずなのに。
「……もしかして、ただのコスプレ?」
私は唯一の友達の変わった趣味にちょっとだけ引きながら、二人に歩み寄った。
「こんばんは。豊岡さんって、コスプレの趣味あったんですね。に、似合ってますよ」
表情筋を引きつらせながら声をかけると、豊岡さんは顔を真っ赤にしていた。
「そ、そんなのじゃないよっ! ほら見てて」
豊岡さんはステッキを掲げたかと思うと、突然白く発光した。そしてアニメでよくあるように、その大人らしいセクシーなボディラインが露わになる。思わず見惚れていると、桜さんにぺしっと頭をチョップされた。
「もう、なにするの?」
「ロリコンさんのくせに見惚れないでくださいよ。えせロリコンさんなんですか? 私という魅力的な中学生に告白しておきながら、節操なさすぎです!」
ぷんぷんと腰に手を当てて怒る桜さん。
「み、見惚れてたの?」
いつの間にか私服姿になった豊岡さんが、ほんのり顔を赤くしている。
「千鶴ちゃんって、思ったよりもえっちなんだね……。もしかして私のこと、普段からそういう目で見てたりして……?」
「そうなんですか?」
期待するような表情でみつめる豊岡さんと、不安そうに眉をひそめている桜さん。どうして豊岡さんがワクワクしている感じなのかは不明だけれど、これ以上、不名誉な称号を背負いたくはない。
ロリコンなうえに友達に欲情してる疑いをかけられるとか、魔法少女になるまでもなくみんなに無視されそうだ。
「そんなわけないよ。確かに豊岡さんは魅力的なスタイルしてるなって思うことはあるけど……」
「やっぱりえっちだ! 豊岡お姉さん。聞きましたか? この人えっちですよ!」
「そうなんだ。千鶴ちゃん、えっちなのね……! 私に魅力を感じてるんだね!」
ど、どうすれば。私、ロリコンなうえにえっち認定されちゃったよ……。最低最悪の称号過ぎる……。というかなんでさっきから豊岡さんはにこにこしてるの……。
「私は千鶴ちゃんがどんな人でも拒まないよ。だから安心してね」
ぎゅっと私と腕を組んでくる豊岡さん。そんな私たちをみて「浮気もの……」と不満そうにする桜さん。なんだか混沌とした状態だけれど、ともかく良かった。桜さんが無事で。
でも疑問に思うことももちろんある。
「それにしても、豊岡さん魔法少女なのにどうしてみんなから見えるんですか?」
「えっと。それはね。願ったの。みんなにみえるようにしてくださいって」
「……ということは、化け物を倒せたんですか?」
「そうだよ」
さっきから桜さんは複雑そうな顔をしている。私はその表情の理由を掴めなくて困惑する。いいことじゃないの? 化け物を倒したのって。
「魔法少女になったってことは、なにか嫌なこととかあったんですか? 豊岡お姉さん」
嫌なこと? 魔法少女になるためには嫌なことが必要なのだろうか?
「……えーっとね。受験勉強とか、親や周りからのプレッシャーとかでちょっとおかしくなってたんだ。それで自殺しちゃったの」
私は思わず問いかける。
「えっ。自殺?」
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