二日目

ほのぼのした日常

第10話 料理上手な魔法少女

 朝目覚めると、桜さんはいなかった。キッチンの方からいい匂いがしてきたから、寝ぼけまなこをこすりながら匂いの方へと向かう。


「あっ。おはようございます。千鶴さん」

「おはよ。桜さん」


 桜さんは卵焼きを作っていた。手慣れているようで動きがスムーズだ。


「ちょっと待っててくださいね。もうすぐできますから」

「料理できるんだ。すごい」

「色々なこと、一人でこなさないとでしたからね。母子家庭だったので」

「そっか。でも母子家庭ってことはお母さん、心配してるんじゃないの?」

「……。そうかもですね」


 そうつぶやいて、悲しそうにする桜さんの頭を後ろからよしよしと撫でてあげる。


 桜さんはどれだけの間、一人で過ごしてきたのだろう。家もなく、親からも認識してもらえず、暗い夜は化け物とたった一人戦い、一人外で眠る。


 幸せになって欲しいなって思うのだけれど、私にはなにができるんだろう。そもそも幸せの分からない私が人を幸せになんてできるのだろうか?


 私はぼうっと料理をする桜さんを眺めた。すると桜さんはちらりと振り返って、目を細める。


「……恥ずかしいです」

「桜さんが可愛いから見つめてるんだよ」

「なっ、なにを……」

「思ったことを言ったまでだよ。私は正直者なんでね」


 ニヤリと笑うと桜さんはまたしてもこちらを振り返って、目を細めた。


「欲望に正直になり過ぎてお縄につかないように気を付けてくださいよ。ロリコンさん」

「大丈夫だよ。私は心から桜さんのことが好きだから嫌なことはしないよ」

「……またそんなことを」


 桜さんは顔を赤らめたかと思うと、視線をフライパンに戻した。


「……私のどこがそんなに好きなんですか? 化け物に襲われかけたときに助けたからですか? それなら吊り橋効果っていって、恐怖のドキドキを恋愛のドキドキと勘違いしただけだと思いますけど……」

「なんていうかさ、桜さんをみてると幸せにしたいなって思うんだよね。SFでたまにあるでしょ? 因果が逆転してるってやつ。結果が先にあって、原因は後からついてくるみたいな。そういうやつなのかもね」

「……よく分からないですけど、千鶴さんは運命を信じてるってことですか?」

「神様なんてものが存在するのなら、運命だってあり得るかもでしょ?」

「……それはそうですが」


 桜さんは卵焼きをお皿に移すと、振り向いて人差し指を立てた。


「でも客観的に考えてみてください。出会って数日で中学生に運命を感じる大学生って、結構やばい人ですよ」

「だって私、ロリコンだもん」

「あっ。開き直りましたね?」


 ニヤニヤする私をジト目でみつめてくる桜さん。でもすぐに桜さんは微笑んだ。


「今はちょっとだけですけど、幸せです」

「もしかして、桜さんって結構私のこと好き?」

「……思いあがらないでください。ロリコンさん」


 唇を尖らせてじとーっと私をみつめる桜さん。私は「ごめんごめん」とつぶやきながら、リビングに朝ごはんを運ぶのを手伝う。そして私は桜さんと一緒に朝食をとった。


 桜さんの朝食は美味しかった。なかなかのものだ。卵焼きはだしが良くきいているし、ソーセージだってちょうどいい焼き加減。


「おいしいですか?」

「すっごくおいしいよ!」

「良かったです」


 桜さんが幸せそうに微笑むから、私も微笑む。


 だけど誰かからまともに愛を与えられたことのない私だ。幸せという感情は相変わらず分からない。いつか分かるようになるのかな? そんなことを思いながら、卵焼きを口に運んだ。

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