第9話 寝室の攻防
「千鶴さんがベッド使ってくださいよ」
「いやいや。ここは年下の桜さんが……」
時計は十二時を回っていた。私たちは寝室にてベッドで眠る権利を譲り合っていた。いつまで経っても譲り合っていそうだったから、私は思い切ってこんな提案をする。
「ならもういっそ一緒に寝ない?」
すると桜さんはジト目で私をみつめてくる。
「……ロリコンさん」
すすすと後ずさりして体を庇っている。
「そ、そんなに心配なら私の手足を縛ってもいいから……」
「うわぁ……」
なおさらドン引きした表情の桜さん。
「いやいや、そういう意味じゃないよ!」
「本当ですかぁ……?」
「むしろ、私そんなSMプレイ強要する変態にみえる? ただのロリコンだよっ?」
「ただのロリコンってなんですか……?」
桜さんは白い目で私をみつめている。なんだかぞくぞくする視線だった。って新しい扉を開いてる場合じゃないよ。明日は朝から大学で講義があるから早く寝ないとなのに。
「それならどうすれば一緒に寝てくれるの?」
「……私に抱きしめられてください」
「えっ」
聞き間違えかな? 私をロリコンと呼ぶ桜さんがそんなこと望むはずないもんね? 私はもう一度問いかける。
「どうすればいいって?」
「だからっ! おとなしく私に抱きしめられてください。その、なんだか寂しい気持ちなのでっ。……いつも寝る時は一人でしたから」
竜頭蛇尾な声量で、桜さんはもじもじと恥ずかしそうに俯いていた。私はにやにやとした表情で桜さんをみつめる。どうやら桜さんは甘えん坊みたいだ。
「いいよっ。おいでっ」
私は先にベッドの中に入って、ぱんぱんとベッドを叩いて桜さんを手招きする。桜さんは顔を真っ赤にしていた。でもゆっくりとベッドの中に、私の隣に入って来る。
「……もしも変なことしたら、眉間に魔法打ち込みますからね」
「しないよ。だから思う存分抱きしめなよ」
「……ありがとうございます」
そう告げて、桜さんは私を正面から抱きしめた。桜さんは伏し目がちにつぶやく。
「あったかいですよね。千鶴さんって」
「そう? だったらよかった。冷たいのは寂しいからね」
「……そうですね」
相変わらず桜さんの体はつめたい。そして小柄だった。私が抱きしめ返せばすっぽり隠れてしまいそうだ。やっぱりまだ子供なんだなって思う。それなのにあんな化け物と戦って、一人で傷ついて、私に出会うまでは誰にも見つけてもらえなくて。
私の存在が少しでも桜さんの幸せに寄与してくれればいいんだけれど。
「おやすみ。桜さん」
「おやすみなさい。千鶴さん」
私は桜さんが目を閉じてから、眠りに落ちた。
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