第4話 化け物との戦い
桜さんは必死で戦っていた。だけれどステッキから出る桃色の光はとても弱々しい。化け物に触れると、桃色のビームはあえなく霧散していた。
化け物は言語化できないようなおぞましい声をあげている。
桜さんは人間の不幸が生み出した化け物と戦っているのだと言っていた。そして化け物を倒せば願いを一度だけ叶えてもらえるのだとも。
化け物は奇妙な声をあげながら、巨大なナイフのようなものを召喚した。そしてそれを念力でも使っているみたいに縦横無尽に動かして、桜さんの命を刈り取ろうとする。
桜色のバリアで攻撃を弾いてはいるけれど、防戦一方。攻撃する隙すらも無いようだった。その上ついにはバリアにもひびが入って、粉々に砕け散った。桜さんは上空から刃物の直撃を受けて、谷底まで叩き落される。
「……そんな」
私は思わず、声を出した。その瞬間、異形の化け物と目が合った。私は恐怖にすくんで、その場を動けなくなる。あまりに現実離れした光景に、アニメでも見ているような気分になっていたのだ。なのに、異形の化け物は明確に私に敵意を向けていた。
私は後ずさりする。巨大な刃物が浮遊して、にじり寄って来る。かと思うと、それらは一段と速さを増して、私に突っ込んできた。
――殺される。
そう思ったとき、桃色の光が谷底から飛んできて、化け物に直撃した。
「なんで来たんですか?」
気付くと私の前に、桜さんが、体中を傷だらけにした桜さんが苦しそうな表情で立っていた。私たちは桃色のドーム状のバリアの内側にいて、刃物の直撃は辛うじて防げている。
「……この化け物は私のみを視認するのだと思っていたのですが、どうやら違うみたいですね。私をみることができる人を知覚できる。そう考えた方がいいと思います」
桜さんは静かな声色を一転させて叫んだ。
「だから早く逃げてください!」
「……桜さんは、これまでずっとこんなのと一人で戦ってきたの?」
「だったらどうしたっていうんですか? あなたにできることはないです。だから早く! 死にたいんですか!?」
化け物は巨大な刃物を暗闇の中から大量に召喚した。それが一斉に篠突く雨のように私たちに降り注いでくる。バリア越しにも衝撃が伝わってくる。私はその圧倒的な暴力の前で、余りにも無力だった。
腰が抜けて、逃げ出すことすらできないのだ。
「……仕方ないか」
私が呆然としていると、桜さんはぼそりとつぶやいた。
そして自分にステッキを向けたかと思うと。
「……消滅せよ」
そう小さくささやいた。
その瞬間、桜さんの頭部が消滅する。そして首から下が地面に倒れた。なにが起こったのか理解できなかった。目の前にあるのは、頭部を失った桜さんの体。私は恐怖に目を見開いて、そして意識を失った。
〇 〇 〇 〇
「お姉さん。ねぇ、お姉さん!」
目を開けると、私は自分の部屋にいた。
そして魔法少女――桜さんに見下ろされていた。桜さんはとても心配そうな表情をしている。
「……お姉さん。良かった」
「な、なんで……?」
確かに桜さんは死んだはずだった。でも目の前には……。
「もしかして、幽霊……?」
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