第14話

「秋鹿ー、秋鹿ー、何かおくれよう。おちかづきのしるしに、何かおくれよう」


「お前は全く困った奴だな」


 助六が前足を上げて、茶漬けの頭を軽く叩く。


「だって走ってきたから、お腹空いたんだよお」


「走ってきたの?」


 秋鹿はたずねた。


「パトロールだよお。俺たち毎日パトロールなの」


「何のパトロール?」


 あれ? と、茶漬けはくびを傾げた。


「何のだっけ? ねー、兄者あ、俺たち何のパトロールだっけ?」


「……縄張りを荒らす輩がおらぬか見て回っておるのだろう」


 助六の答えに、縄張りとは何だか犬らしいなと、秋鹿は思った。ただの犬ではないの犬にも、縄張りはあるようだ。


「ねー、秋鹿あ、何かおくれよう」


 茶漬けが再びねだる。


「少し早いけど、お昼にしましょうか」


 ハルが云って、皆で昼食にした。それから秋鹿はハルにレモンタルトの味見をしてもらった。自分でするのは何となく怖かった。


「とってもおいしいわ」


 ハルはにっこりとする。


「お店に出せる?」


 秋鹿の問いに、大きく頷いて、


「もちろんよ」


 午后ごごの一時になって、店を開けた。以前は午前中からやっていたが、「うちのお客さんは、朝寝坊が多いから」と、午后からの営業にしたそうだ。


は、朝が苦手なの、」


「そうみたいね。夜が彼らの本来の活動時間だからかしらね」


 くすりと、ハルは笑う。


って、何をするの、」


「さあ、それはみんなそれぞれ違うんじゃないかしら。訊ねてみたら良いわ」


 ああ、忘れていたわと、ハルは秋鹿に木で出来た札を手渡す。


「扉に掛けてきてちょうだいね」


 札には、「春夏冬中」と、書かれていた。何て読むのだろうと、首をひねっていると、


「それはね、『商い中』と読むのよ。営業していますって、意味」


「そうなんだ……」


 春夏秋冬の、秋が無いから、あきない。つまり商いと、云うことらしい。秋鹿はハルに云われたとおり札を扉に掛けた。もう一度じっと見つめて、秋だけが外れているなと、思った。


 少しして、「こんにちはあ、ハルさーん」と、麗ら彦がやって来る。


「いらっしゃい」ハルが笑顔で出迎える。麗ら彦はきょろきょろと首を動かして、


「今日も秋鹿いるのね」


「あ、はい」


 いらっしゃいませと、秋鹿もハルをまねて挨拶をしようとしたが、云い慣れない所為せいか声がかすれてほとんど聞き取れなくなってしまった。

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