あとがき
創元ホラー長編賞を知ったのは2023年の三月下旬だったと思う。公募ガイドという小説などの公募情報が載っている雑誌を見て知った。
最低8万字で締め切りが4月30日。一カ月弱しかなかったが、その当時の私は公募に対し強い熱意を持っていたため、ここで目にとまったのも何かの縁と書くことにした。
一番の問題は、ジャンルがホラーだったことだ。各ジャンルはSFとファンタジーだけ。映画とかで見る分にはエクソシストだとかゾンビだとかのホラーも見るが、ホラーを意識して捜索したことはなかった。
パッと思いついたストーリーは、新聞記者が失踪して、どうやら何らかの因習に巻き込まれていたことが分かり、友人である主人公がその謎に迫っていくうちに怪異に呑み込まれる、みたいなやつだ。
それをベースに話を考えてみたが、どうしても手あかのついたような陳腐なものしか思い浮かばなかった。しかし時間はないのでなにか決めないといけない。そこでふと思いついたのがサメ映画だった。
サメ映画みたいなホラーなら書けるんじゃないか。
変な思い付きだったが、それしかなかった。どこかで見たような話で書いても、日ごろからホラーをテーマに書いている人とは勝負にならない。ならば自分の土俵に持ち込んで何とかするしかない。そして生まれたのがビーバー小説だった。なんかビーバーの悪霊が出てきて人間と戦う奴だ。
ここで思い浮かぶのはゾンビーバーという映画だ。見た事はないが、ゾンビ化したビーバーが人を襲う話らしい。大分話がかぶっているが、幸いにもその一例くらいで世界はまだビーバーに目を向けてはいなかった。ブルーオーシャンだ。これならいけると私は確信した。
完全に頭がおかしい感じなのだが、当時の私はそれで書き始めた。純粋なホラーというよりは、ギャグみたいなことをシリアスにホラー映画っぽくやるという感じだった。
そのために参考にホラー小説でも読もうかと思ったが、時間がなかったので断念した。ビーバーの生体をざっと調べ、大学の民俗学のゼミで何をやっているのかもよく分からないまま、大部分を想像で補いながら書き始めた。
途中でやる気を失い執筆が止まってしまったこともあったが、最後の一週間は五日連続で毎日一万字書くという荒業に成功し、なんとか応募条件の八万字に達した。
そして完成したのが怪ビーバーの岸辺だ。完成しちゃったのである。
完成して胸に去来したのは、何この馬鹿みたいな作品、だった。なんでビーバーの剥製が人を襲うんだよ。おかしいだろ。自分で書いていてなんだが、そういう気持ちだった。結局鮫映画ほど振り切ることはできずに、かと言ってホラーほどの緊迫感や恐怖感も出せなかった。そういう感想だった。
一〇〇点かと言えばどうだろうか。その時の私に書ける最大のホラーではあったが、最高とはいいがたい。しかしもう締め切りの二日前だったので、全体の推敲とかする時間もなく誤字脱字をチェックするくらいしかできなかった。
そして応募。そして驚くべきことに一次を通過し、二次も通過して最終選考に残ったのだ。創元社大丈夫かと少し思ったものである。本当にこんな作品を通すのか、と強く思ったものである。
そしてあわよくば大賞、出版と夢を見ていたが、落選の連絡がきた。しょんぼりである。夢の印税生活は夢に終わった。
そして供養のためにカクヨムに投稿することとなった。南無。
怪ビーバーの岸辺 登美川ステファニイ @ulbak
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