第102話 スキル整体師

 今日の討伐は休み。

 俺は他のダンジョンへ視察に行くことにした。


 Cランクダンジョン、オーク牧場。

 オークは素材が美味しいのでそういう名前が付いたのだろう。


「ええと、一日利用券」

「10万円になります」


 入口脇の販売所で券を買った。

 磁気テープが貼られたカードを渡された。

 ダンジョンの入口のゲートに通す。

 ゲートが開いた。

 カードをポケットに仕舞って、意気揚々と進む。


「兄さん、ガイドは要らないか?。一時間1万円だよ」

「雇おう」


「そうこなくっちゃ」

「オークを見たいな」

「はいよ。それにしても最新式の魔石弾とはお兄さん金持ちだね」

「まあな」


「1発3万円もする弾をよく平気で撃てるね。感心するよ。皮肉じゃなくて思いっ切りの良さにさ」

「命より大事なものはない」

「そりゃそうだね」


 話している間にプチオークが出てきた。

 プチオークはゴブリンほどの身長のオークだ。

 餌が少ない環境で育つとそうなるらしい。

 銃をぶっ放す。

 プチオークごとき1発だ。


 死骸を亜空間収納に入れる。


「1発で倒せば大儲けだ。プチオークの相場を見てきたが、5万はするんだろ」

「そうですね」


 それから、30体ぐらい仕留めた。


「チップだ」


 俺は金貨を一枚渡した。

 ガイドは目を丸くしてから、疑うような表情を見せる。

 そして、金貨に歯を立てた。


「金貨を初めて齧ったけど、柔らかい。ありがとうございます」

「偽物なんか渡さないさ」

「疑ったりはしませんがね。あまりにも気前が良いんで」


 ザコオークなら魔石弾があれば、スキルが無くても狩れる。

 もはやCランクのダンジョンのスタンピードは恐れるに足らない。


 次はAランクダンジョンにでも行ってみるか。


 パラダイスサイバーのネット工作が効き始めたようだ。

 健康被害を訴える書き込みが後を絶たなくなった。

 医学会も真剣に取り組み始めたとニュースで見た。


 修復スキルの医療への応用はまだ始まったばかりだ。

 どんな副作用がでるのか分からないと使えない。

 まずはラットからみたいだ。

 癌も巻き戻しで治せるみたいだが、副作用があるかは経過観察が必要だ。

 そういうのは専門家に任せるに限る。


 スキル治療師の資格の法整備も進まない。

 医療の領分だからとにかく慎重論が根強い。


 分かるよ。

 人の命が掛かっているからね。

 おいそれとは許可は出せないのも頷ける話だ。


 ただ、整体師の協会がかなり興味を示してる。

 スキル整体師の資格の誕生は早いかもな。

 治癒魔法で腰痛とかは治らないが、一時的に良くなるらしい。

 じん帯が切れたのなら治癒魔法で繋がる。

 筋肉の損傷も治る。

 治癒魔法で骨の変形は治らないらしい。


 スキル覚醒塾の予約が整体師で埋まりそうだと香川かがわさんは言っていた。

 じん帯の損傷を治すのは整形外科の領分だと思うが、結果的に治ってしまったのなら仕方ないだろうというのが、整体師の協会の言い分だ。

 医者からまったが掛かるのは目に見えている。


 手を当ててスキルを使うのは骨のずれを治すで通すつもりらしいが上手くいくのかな。

 とにかくスキル整体師を名乗る人が増えたのは間違いない。


 そういう看板がちらほら立った。


「整体師のスキルは面白いですね」


 香川かがわに話を聞くとそうらしい。


「どこがです?」

「ツボスキルなんてのもありますし。骨矯正スキルなんか、骨の形まで治してしまいます。リラックススキルにはちょっとクスっときました。精神魔法の一種だと思われますが、リラックスしかできません。歪み矯正で、空間の歪みまで干渉できるのには驚きました」


 多種多様だな。

 今に始まったことではないけど。

 空間の歪みが直るとどうなるんだろう。

 重力が無くなったりするんだろうか。


 ひと一人の魔力じゃ無理だな。

 たぶん物凄く精密な秤で測って重さが少し変わるぐらいなのだろう。

 スキル整体師は巷に溢れてしまったけど、医師法違反で取り締まるのかな。

 触ってスキルを使っただけですと言われたらどうなんだろう。


 スキルを使うのが医療行為と言われたら、冒険者はやっていけない。

 冒険者協会も巻き込んだ論争になる気がする。


香川かがわさんはスキル整体師はどういう着地点を見せると思います?」

「おそらく医師会が折れてスキル治療師の制度が出来ると思います」

「まあそれが無難でしょうね」


 整体師が一石を投じた以上、時間は掛けられない。

 即急に制度ができるのだろうな。

 整体師には感謝したい。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               52,854万円

上級ポーション2個             610万円

彫像10体                  10万円

弾丸製造                  500万円

金貨19枚                 219万円

魅惑の香水                 123万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計               0円 54,040万円 54,040万円



ファンド収支メモ


俺の出資1250口       125億円

客の出資5618口       561億8千万円


              支出       収入        収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し                53,223万円

カイザーウルフ60体           4,500万円

ドッペルオーク12体             600万円

シャーマンオーク12体            720万円

エンペラータランチュラ12体       1,056万円

メイズスパイダー12体          1,020万円

エレファントスレイヤー12体       1,440万円

オーガ96体               5,280万円

弾丸製造                   500万円

酒                       12万円

転移輸送                   816万円

最下級ポーション               539万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計               0円  69,706万円  69,706万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -48億円

出資金          125億円


 転移輸送を一方通行でなく相互にしてほしいという要望が強い。

 要検討だな。

 うちのダンジョンのスタンピード問題が片付けばそれも良いだろう。

 とにかく時間が足りないが討伐ペースは崩さない。

 焦りは禁物だからだ。


 俺達の装備は。

俺 追憶のペンダント 不眠の冑 剛力の籠手 モノクル 身代わり人形

藤沢ふじさわ 巧みの手 俊足のブーツ 力の腕輪 魅惑の香水

上溝うえみぞ 巧みの手 俊足のブーツ

番田ばんだ 不動の盾 猫の爪 堅固の胴鎧

拝島はいじま 祈りの像 足捌きの脛あて 鷹目の冑

御嶽みたけ 幻影のネックレス 耐衝の胸当て カモシカの足


キープ 亜空間収納 千里眼の目隠し 身隠しのマント 変装の仮面 スキル鑑定の杖 反射の盾 衝撃の盾


 空き部屋から出た『魅惑の香水』というアイテムは俺がポケットマネーで買って、藤沢ふじさわに与えた。

 魅了効果が若干あるようだが、俺には分からない。

 魅了されるまでもなくということなのだろうか。

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