第84話 見えない手

 今日の討伐は休み。

 ウルトラソフトウェア社に昨日に引き続き押し掛けている。


「色々と試してみたんですが、攻撃魔法でない魔法の使い方をですね」

「ほう、どんなです」

「魔石から重力を発生させるのです。出力は手で押すぐらいしか出ないのを確かめてあります。でこれを使うと」


 俺は担当社員を外に連れて行った。


「さあ、洗面器の水をぶっかけて下さい」

「やってもいいのですか。びしょ濡れになっても怒らないで下さいよ」


 俺は洗面器一杯の水を掛けられた。

 魔石から発する重力で水が見えないドーム状のバリヤに弾かれた。


「てな具合です」

「凄い」

「訓練すれば手の機能もはたせると思います」

「筋肉が動かなくなる病気の人とか、障害者なんかにいいですね」

「でしょう。ソフトウェアは関係ないですが。思考重力発生器は売れると思います」

「いや、手の代わりならタイピングさせて入力機器にも使えます。ちょっとアナログ的ですが」


「傘の代わりは私が簡単にできましたから、誰にでもできると思います」

「そうですね。まずは傘として売り出しましょうか。物を引き寄せたりそういう細かい操作は、慣れが必要だと思いますし、追々で」


 思考重力タイピングはどれぐらいのスピードで出来るんだろうな。

 慣れたら手より早いかも。

 夢が広がる技術だ。


「それと、何かありませんかね?」


 俺は意見が何かないか聞いてみた。


「うちの会社で考えたのは、いま電気を発生させてますよね。光にしたらどうかなと。読み取り装置は複雑になりますが、安全性は違うと思います」

「光ですか。確かに電気より安全性が高いですね。純粋な光なら熱は帯びませんし」


「それと水蒸気を集めて水を出すのは、後進国で喜ばれると思います。水道がない地域はまだまだありますし」

「それはいいですね。ですが残念なことに魔石が出すのはエネルギーなんですよ。水を集めるエネルギーというのは聞いたことがない」

「これはうっかりしてました。魔法だと思うと色々なことができそうで」

「アイデアを出して頂くのは嬉しいですよ。気づかぬ発見があるかも知れません」


「では冷やすのは駄目ですね。加熱は可能だとしても」

「ええ」


 頷く俺。

 光も危ないな。

 赤外線を出されたら困る。

 だが、ネットワークライイングで制限は掛けられそうだ。


 待てよ放射線を出されたら困るな。

 コピーする時に俺のネットワークライイングの機能を限定させたらいいのか。


「ちょっと失礼」


 俺は上溝うえみぞさんに電話を掛けた。


「もしもし、あのスキルをコピーする時に機能を限定することって出来ますか?」

『できると思いますよ。弱くするならいくらでもできます。上位スキルにしてくれと言われてもできませんけど』

「休みのところ済まなかったね。参考になった。じゃ、明日の討伐で」

『はい、明日の討伐で』


 光の周波数を限定することは出来るようだ。

 それと重力オンリーにも出来る。


「すいませんでした。スキルをコピーする時に機能の限定は出来るそうです」

「となると熱も出力を絞れますね。暖房とか使えますが。思考で操るとなると他の作業ができませんから、駄目ですね」


「ヘアアイロンとかなら、他の作業はないですね」

「もの珍しさで買っていく人がいるかも知れませんね。そう言えば魔石はエネルギーを発してますけど吸い取ったりできないのですか」


「新しい視点ですね。考えていなかったです。熱を奪うのをやってみます。駄目ですね。冷たくなりません」

「元々モンスターはそういうふうには使ってませんよね。となると魔力を吸い取れるのでは」

「やってみます。ええと魔力が吸い取られているのか分かりません。ちょっとお待ちを」


 香川かがわさんに電話を掛けた。


「ええと魔石に魔力を充填できそうなんだけど、魔力が吸われているか分からない」

『面白い実験ですね。そちらに行きますので、場所をメールで送って下さい』


 しばらくして香川かがわさんが到着した。


「じゃあやってみるからお願い」

「【マジックアイ】。魔力が吸い込まれています」

「魔力の充填は出来るみたいです」


 と俺。


「となると魔石が使い捨てではなくなりますね。」

「でも人の手で充填するのではちょっと」


 俺は難色を示した。


「同時に出来ないですかね?」

「【ネットワークライイング】」


 担当から聞かれたのでやってみた。


「ふたつの魔石に魔力が吸い込まれています」

「吸い込むという思考なら複数もいけるみたいです。充填する人を用意するか。魔石に思考を繋ぐとき魔力の充填も出来るようにしておくべきですね」


 条件付けが増えるが、まあなんとかなるだろう。


「今回は面白い物を見せてもらいました。モンスターは思考で魔石を操っているのですね」


 香川かがわさんがそう締めくくって実験が終わった。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               40,736万円

上級ポーション2個             604万円

彫像10体                  10万円

金貨22枚                 253万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計               0円 41,603万円 41,603万円



ファンド収支メモ


俺の出資1200口       120億円

客の出資1618口       161億8千万円


              支出       収入        収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               46,860万円

カイザーウルフ60体          4,500万円

ドッペルオーク12体            600万円

シャーマンオーク12体           720万円

エンペラータランチュラ12体      1,056万円

メイズスパイダー12体         1,020万円

エレファントスレイヤー12体      1,440万円

オーガ96体              5,280万円

くず鉄23トンほど             244万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計               0円 61,720万円 61,720万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -64億円

出資金          120億円


 2階層の制圧した部屋から宝物が出た。

 金貨22枚だった。


 速攻で売ったが、どうせ出るなら、上級ポーションの方が嬉しい。

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