第75話 少年の悩み

 一日一時間の討伐作業と後片付けを終えて事務所に戻ると、片倉かたくら少年が来ていた。


「いらっしゃい」

「お邪魔してます」


 何か悩み事かな。


「学校はどう?」

「歩けるようになって、体育の授業にも参加できるので、他の生徒との壁みたいなものはなくなったと思います」


 体育の授業という時なんか苦しそうな表情をした。


「体育は楽しい?」

「もちろん」


 ちっとも楽しそうじゃないな。

 さてどう言おう。


「何か悩みがあるんだろう。おじさんで良ければ聞くよ」

「あの、スキルが要らない時はどうしたら良いですか」

「意識して使わなければ問題ないだろう」

「体育の授業でスキルを使わずに50メートル走で一番になったんです。でもみんなは僕がスキルを使ってずるしたと思ってます」


 あー、そういう悩みか。

 俊足系のスキルだとそう思われても仕方ないよな。

 謝ったり縮こまったりするのは駄目だ。

 俺のいまのポリシーの戦うという姿勢から解決策を出すとすれば。


「体育の授業で思いっ切りスキルを使ってやるんだよ。文句を言われたら『悔しいか。なら、お前達もスキルを身に着けろよ』と言ってやれば良い。そして、片倉かたくら少年の部屋に泊まらせてやるんだ。みんなスキルを持てば同じだろう。たしかに同じスキルは生えないが、それは個性というものだ。個性は恥ずかしくないし、優劣なんてないんだ。胸を張っていい」

「みんな同じ。そうか、みんな同じになれば。ありがとう」


 片倉かたくら少年は吹っ切れたようだ。


「言っておくが、友達の生えたスキルに優劣をつけるなよ。できるだけ良い面を見るんだ。どんなスキルでも活躍の場は必ずある」

「はい」


 モンスター保護団体『愛の甘噛み』という所から手紙が来ていた。

 殺処分部屋を直ちに停止しなさいとある。


 俺は区長に電話した。


「もしもし、いつもお世話になってます。戸塚とつかです。区で条例を作って貰えませんか。モンスターは駆除対象だというような。それと、許可なき飼育や駆除を妨害するのは駄目だというようなのもお願いします」

「モンスター食材を特産品にする法案が持ち上がってます。そういう法律も必要でしょうな。区の条例を作れないか検討してみましょう」

「お願いします」


 ダンジョンの外に出ると、近隣住人のデモに混ざってモンスター保護団体のプラカードがあった。

 オーク肉を食いたくなければ食わなきゃいいだろう。

 他人が食うことを妨害する権利はないはずだ。


 健康被害でも出ているのならともかく、何が気にくわないんだ。

 モンスターはどこから見ても害獣だぞ。


 モンスターを狩らなければ、スタンピードが起こる。

 スタンピードが起こったら、モンスターを始末しないと、街に被害が出る。

 阻止したいなら、モンスターの発生を止めてみろ。

 増えなくてダンジョンで平和にモンスターが暮らしているのなら、俺も文句は言わない。

 そこで、気がついた。


 それを実現できるのは俺しかいないってな。

 ダンジョンコアを上手くリフォームすれば可能だろう。


 モンスター保護団体に話してみるか。

 俺は代表と会うことにした。


「我々の要求を受け入れて、モンスターを殺すのをやめてくれるのですか」

「いいや、俺としてはモンスターとは共存したい。だがな現状がそれを許さない」

「ならばどうすると?」

「ダンジョンコアをリフォームしてダンジョンの機能を作り変える。そうすればスタンピードも起きないし、モンスターもダンジョンで平和に暮らしていける」

「夢物語ですね。それに目的を達成するにはモンスターを殺しても良いということにはならない」

「不殺じゃ、ダンジョンコアまで辿り着けない。あんたらがそれを出来るならダンジョンに飛び込めよ。俺は止めない」


 おっと、感情が表に出てしまった。

 冷静に冷静に。


「結局、相容れないというわけですね」

「どうやらそのようだ。だが、こっちは命を賭けて取り組んでる。あんたらはそこまでじゃないだろう」

「我々は武力は使わない。挑発には乗りません」

「挑発じゃないんだがな。覚悟の問題を言っただけだ。スタンピードの現場に入ったり、ダンジョンに入ったりしないのかよ」

「その行為になんの利があるというのです。モンスターの保護にはなにも関係ありません」


 こいつら、現状を全く理解してないな。

 動物を救うのはべつに良い。

 だが、その前に人間が救われるべきだ。

 傲慢だと言うのなら言えば良い。

 腹が減った熊がいたら、自分の身を食わせる様な人物には俺はなれない。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               17,678万円

上級ポーション3個             915万円

彫像10体                  10万円

ファンド配当             57,500万円

ファンド出資    50,000万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計         50,000万円 76,103万円 26,103万円


パーティ収支メモ


              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し                6,586万円

オーク8体                 520万円

キングウルフ12体             540万円

ライフル6丁       462万円

弾丸60発          6万円

弾丸用魔石        150万円

付与魔法依頼        50万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            668万円  7,646万円  6,978万円


ファンド収支メモ


俺の出資1200口       120億円

客の出資387口        38億7千万円


              支出       収入        収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               76,516万円

カイザーウルフ60体          4,500万円

ドッペルオーク12体            600万円

シャーマンオーク12体           720万円

エンペラータランチュラ12体      1,056万円

メイズスパイダー12体         1,020万円

エレファントスレイヤー12体      1,440万円

オーガ96体              5,280万円

くず鉄22トンほど             225万円

配当5%      76,850万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計         76,850万円 91,344万円 14,494万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -64億円

出資金          120億円


 ファンドの配当を配った。

 なんと元本の5%。

 大半は俺の懐に入って再び投資に回される。


 120億までの被害では人様に迷惑をかけなくなった。

 配当の事実を知って、ファンドには続々と申し込みがある。

 明日の集計が楽しみだ。

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