第72話 閑話・ダブルデート

「先輩、ダブルデートしませんか」


 藤沢ふじさわからそう切り出された。


「なんでまた?」

番田ばんださんから、上溝うえみぞさんを誘いたいけど敷居が高くてと相談されたのです」

「まあいいか。高校生に戻ったみたいで、ちょっと気恥ずかしいが、赤面する歳でもないし」

「では、二人に話しておきます」


 上溝うえみぞさんはブランド品の高そうな服を着てきた。

 服の種類は分からないので、何のかは言えないが。

 番田ばんださんもお洒落な服装をしている。

 ただしこちらは服に着られているという感じだが。


 俺と藤沢ふじさわは普段着だ。

 でも、藤沢ふじさわは持っている服でもお洒落なのを選んだらしい。

 呼びに行ってから出て来るまでだいぶ待たされたからな。


 ダブルデートの最初のチョイスは恋愛物の映画だ。

 避暑地で巡り合った男女が恋に落ちるという物語。

 そして、別れの時が来る。


 この映画の良いのはそれで終わりではなく。

 都会に戻った二人が偶然出会い。

 もう離れられないと婚約して終わるところだ。

 悲恋だったらちょっとデートに相応しくない。


 藤沢ふじさわが選んだようだが、ナイスだと思う。

 そして、お腹も減って喉も乾いたので、キャットカフェに場所を移した。


「先輩、猫可愛いですね」

「まあな。飼うにはちょっとだが。たまにこういう所に来るには良い」


「きゃっ」


 上溝うえみぞさんが猫を撫でていて、指を引っ掻かれたようだ。


「これを使うと言い」


 番田ばんださんが猫がプリントされた絆創膏を差し出した。


「巻いて下さる」

「ああっ」


 番田ばんださんが真っ赤になった。

 初めて手に触れるのだな。

 初々しい反応だ。


 ぎこちない手つきで番田ばんださんが絆創膏を貼った。

 上溝うえみぞさんの顔も真っ赤だ。


「では、我々はこの辺で失礼して」


 俺は盛り上がった二人を邪魔しないように、藤沢ふじさわに目配せしてそう言った。

 番田ばんださんと上溝うえみぞさんは俺の声が耳に届いてないようだ。

 まあいいか。


 藤沢ふじさわと二人キャットカフェを出る。


「遊園地でも行ってから帰ろう」

「もう少し大人の場所に行きたいですが、まあ良しとしますか」

「バーとか行って飲み過ぎたら、明日の仕事がきついだろう」

「そうですね」


 どちらともなく藤沢ふじさわと手を繋いだ。

 あの二人に当てられたかな。


 遊園地ではペアルックの被り物とかしたり、アイスクリーム一つを二人で分け合って食べたりした。


「次はあれに乗りましょう」


 藤沢ふじさわが指差したのは観覧車。


「そうだな」


 観覧車に入ると、ゴンドラは動いて、地上からは覗けなくなった。

 それを狙っていたのか藤沢ふじさわが抱きついてキスをせがんだ。


「今日は特別だ」

「ええ」


 ちょっと一線を越えかけたが、まあなんだ。

 密室で何がなされたかはご想像にお任せする。


「ちぇっ」


 地上が近づき、藤沢ふじさわが舌打ちした。

 楽しいことは一瞬で終わるものなのだよ。

 ダンジョンに帰ると、番田ばんださんが待っていた。


「ありがとうございました」

「礼を言われるほどじゃない。でどこまで行けた」

「手を繋いで行動することができた。でも恋人繋ぎが出来たんだ」

「それは進展したな」

「ええ、上溝うえみぞさんは女子高と女子短大だったので、異性とそういうことをするのが夢だったみたいで」


 二人のペースでゆっくりと進展すれば良い。

 相談なら乗ってやることができる。


 部屋のドアが荒々しく開けられた。


「ひどいではないか。のけ者にして」


 そう言って現れたのは拝島はいじまさん。


「誘おうかと思ったが、香川かがわさんが忙しくてな」

「そうか。やはり他人はあてにはできないな。予見スキルさえあればイエスを勝ち取れるはずだ」


 まあ、頑張れよ。


「分かっていると思うが、香川かがわさんの好きなのはスキルを使った金儲けだ」

「ならば、上溝うえみぞさんと組んで予見スキルの付与事業でも提案してみるか」

「それなら、気を引けるかもな」

「それと投資の話なども良いかもな。スキルを使った投資を考えるとしよう」


 拝島はいじまさんも頑張れ。

 香川かがわさんは難敵だと思うが、嗜好がはっきりしているから、攻略の糸口は掴めるだろう。

 パーティメンバーに幸あれ。

 ハッピーエンドが訪れるといいな。

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 ☆1000お礼の閑話です。

 2話同時投稿の1/2です。

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