第71話 美味しい話

 今日は討伐は休み。


 古里こざとさんと一緒に仕事だ。

 古里こざとさんはスーツに身を包んでいる。

 日焼けはそのままなのでギャルが社長秘書をやっているみたいだ。


「奥さん、白丸しろまるには何千万いかれました?」


 俺はそう客に話し掛けた。


「2000万です」

「悔しいでしょう。白丸しろまるの財産は全て押さえてあります。ですが、彼らが散財した分は返ってきません」

「分かってます」

「そこで耳寄りな情報があるのですよ。損した分を取り戻せますよ。いまならキャンペーンやってます。お得ですよ。白丸しろまるに投資したの旦那さんには秘密なのでしょう。うちに投資すれば気づかれないで取り戻せます」


 そして、古里こざとさんが別室に連れて行く。

 殺処分ファンドの投資を勧めるのだ。

 投資詐欺で引っ掛かった人がもう一度似たような話に掛かるかって。

 それが掛かってしまうんだな。

 北海道の原野の土地を高く売りつけて逃げた詐欺師がいる。

 この後が凄い、別の詐欺師が現れて『損した分を取り返しませんか。手数料払えば、土地を高く売ってあげます』と言って騙した。

 被害者続出。

 二度も詐欺に引っ掛かった。

 損した分を取り戻すという言葉に弱いらしい。


 俺のは詐欺じゃないが、スタンピードが起こるとチャラになる。

 それまでは順調に配当が支払われるはずだが、少し心が痛む。


 絶対にスタンピードが起こるわけじないし、被害額が115億を超えるのかも分からない。

 未来は誰にも分からない。


 これがもろもろのお金の回収策だ。


 トラップを利用したくず鉄回収を作った。

 周りに壁を作ったから関係者以外は立ち入れないはずだ。

 万が一があると困るからな。

 管理は古里こざとさんに仕事を振った。

 ファンドの利益に組み込んでもらうつもりだ。


「スタンピードが起こったらきっと俺は極悪人だな」


 客の応対の合間にコーヒーを飲みながら藤沢ふじさわと話す。


「先輩が一人で背負うというのが間違ってます。こういうのは国がやるべきです」

「だけどダンジョンの大半は私有地に出来ている。国に所有権はない。Cランクまでだとウハウハだから、強制的に取り上げたら裁判を起こされるだろう。かと言ってBランク以上のダンジョンだけ国が所有するというのも国民が納得しないのだろうな。補填は税金からだからな」

「仕方ないのは分かってます」

「ダンジョン関連の利益が無税なのは助かる。ファンドの利益も無税だからな」


 さあ、客の応対に戻るか。

 面白いようにファンドが売れていく。


 警察から刑事が話を聞きに来た。


白丸しろまるの行方は一向に分かりません。確認のため聞きますが、おたくの社とは関係ないですか」

「ええ、全く関係ありません」

「もし、白丸しろまるが立ち寄ったら連絡頂けますか」

「ええもちろん」


「念のため社判や社長の印鑑を見せて貰えますか」

「いいですよ」


 印鑑を撮影していった。

 きっと後で照合するんだろうな。


 たぶん似ても似つかない印鑑を使ったと思うから、容疑は晴れるだろう。


「この間、もらった白丸しろまるの財産目録、ありがとうございました」

「いいえ、警察への協力は国民の義務です」

「あれを白丸しろまるに見せたら、やっこさん顔が青くなるでしょうな。今からその瞬間が楽しみです」

「良かったです」

「財産の差し押さえも間もなく完了します。逃亡資金も尽きるでしょう」


「被害者にはどれぐらい戻ってきそうですか?」

「8割がいいところでしょうな。派手に豪遊してましたから」


 8割は厳しいな。

 だが、俺のファンドはゼロになるかも知れない。

 どっちが悪党か分からないな。


 俺のファンドは合法だ。

 規約にもスタンピードの補填のことは書いてある。


 今のところどこからも文句は出てない。

 小数だがすぐに解約した人もいる。

 俺達は合法だから解約にも応じる。

 解約できるのが分かったら倍の金額で再度申し込んだ人もいる。


 白丸しろまるはのらりくらりかわして解約には応じなかったらしい。

 本当に悪い奴は犯罪者じゃなくて真っ当な業者なのだな。


 思い知ったよ。

 保険とか大抵の場合保険会社が儲かるようになっている。

 証券会社もだ。

 普通にやっている分には証券会社は損をしない。

 そのふたつは悪党とは言い難いが、仕組みが分かるとどうにもやりきれない。


 悪人になるつもりはないが、普通にやったのではどうにもならない。

 悪意がないので許してほしい所だ。


 2階層を制覇したら、スタンピード対策をしよう。

 まず1階層と2階層の間には分厚い扉を作る。

 2階層には俺がトラップを仕掛ける。

 そうすればスタンピードが起こった時のモンスターの数を減らせるはずだ。

 ファンドを買ってくれた人のためにも頑張らないと。

 決意を新たにした。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               18,040万円

上級ポーション2個             608万円

彫像10体                  10万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計               0円 18,658万円 18,658万円


ファンド収支メモ


俺の出資1150口       115億円

客の出資345口        34億5千万円


              支出       収入        収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               46,978万円

カイザーウルフ60体          4,500万円

ドッペルオーク12体            600万円

シャーマンオーク12体           720万円

エンペラータランチュラ12体      1,056万円

メイズスパイダー12体         1,020万円

エレファントスレイヤー12体      1,440万円

オーガ96体              5,280万円

くず鉄8トンほど               81万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計               0円 61,675万円 61,675万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -64億円

出資金          110億円


 トラップを改造したくず鉄回収がしょっぱいな。

 5人ほど人を使っているから、月に500万円ほどの人件費かな。

 採算はとれているけど、モンスターの死骸売買に比べたら雀の涙だ。


 まだ、回収装置は1つだけだから今後に期待だな。

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