第67話 ファンド

 今日は休みだ。

 二日、討伐で働くと、一日は討伐を休むことにしている。

 事務処理とか色々とあるんだよ。

 今日の予定は、香川かがわさんの紹介で人に会うことになっている。

 事務所のインターホンが鳴らされたので出る。


「はーい」

香川かがわに紹介されてきた古里こざとだ』

「お入り下さい」


 古里こざとさんは真っ黒に日焼けしたアルバイターといった風体の女性だ。

 だが、アクセサリーは高そうな物を身に着けている。

 金持ちの匂いがぷんぷんする。


 ジーンズもビンテージ物なんだろうな。

 Tシャツもブランド品に違いない。



「あたいは高いぜ。月給1000万を要求する」


 有能そうな雰囲気もプンプンだ。


「じゃあお試しで1ヶ月」

「いいぜ。モンスターの養殖事業らしいが、あれだろ金を集めたいんだろ」

「分かるのか」


 置かれている状況を古里こざとさんに説明した。


「となるとだな。ファンドを立ち上げよう。一口一千万円、でスタンピードが起こって補填できなくなったら元本の一千万円はちゃら」

「そんなリスキーなファンドに金が集まりますかね」

「ざっと毎日1億円の利益があるわけだ。一年だと365億円の利益だ。3650億出資してもらっても年10%の配当が望めるわけだ。実際は設備とか人件費とかいるが数億あれば足りるだろう。でさらに拡充するんだよな。こんなの食いつかないわけがない」

「スタンピードが起こったらチャラになるのに」

「リスクは軽く流して説明すりゃいいさ。Sランクダンジョンのスタンピード率と合わせてな。スタンピードの確率はかなり少ない」

「でもうちのダンジョンは半年以内に起こる雰囲気なんだよ」

「説明する必要はないだろ。半年の根拠は?」

「Sランク冒険者の勘だな」

「科学者を調査に入れさせてスタンピードの危険率を算出すりゃいい。きっとそんな数値は出ないさ」


 それもそうか。

 科学者に言わせればいいのか。

 掲示板の話ではスタンピード予知はできないだったな。

 たぶん玉虫色の答えを出すに違いない。

 騙しているようで気が引けるが。


 俺だってスタンピードはないと思いたい。

 大船おおぶねさんの勘が外れる可能性もあるわけだ。

 実際のところ分からないというのが正しい結論か。


「分かった。その方向で進めてくれ。まずスタンピード準備金としてプールしている110億円を出資する」

「そんなに元手があると大々的にやるしかないな。余っている部屋は幾つだ」

「8部屋だ」

「それにも殺処分ロッカーを設置するぞ。最初の年利は10%の毎月配当で行く。殺処分部屋を拡充したら口数を増やしてり、年利を上げりゃ良い」


 くっ、3650億円だって、そんなに金が集まるかよ。

 集まるのだろうな。

 そんな気がした。


 海路は絶たれているけど、航空路はまだ健在だ。

 ファンドなら世界中から金を集められる。

 スタンピードが起こったら俺は犯罪人扱いされるのだろうな。

 でも、スタンピードを止めようと立ち向かうつもりだから、たぶんその時は死ぬのだろう。

 死んだ後のことを考えてもしかたない。

 生き残ったらその時はその時だ。

 なんとかなるさ。

 スタンピードが起こって破産してもダンジョンはなくならない。

 次のスタンピードまで100年ぐらいはダンジョンは宝を生み出す金の生る木だ。


 再建だってできるはずだ。


「スタンピードが起こったら全ての責任は俺が取る」

「あたいは雇われだからね。薄情なようだが心中はしない。でも骨ぐらいは拾ってやるさ」

「その時は藤沢ふじさわを頼む」

「任せとけ」


 3650億円あったら、10万人被害のスタンピードが起こっても補填できるのだろうな。

 10万人の命の値段としては少ないが、建物の被害ぐらいなんとかなりそうな気がする。


 おそらくファンドは大きくなる。

 兆を超える規模まで膨らむだろう。

 スタンピードが起こったら、経済が滅茶苦茶になって、ダンジョンショックとか呼ばれるのだろうな。


 世界を巻き込む事態になったか。

 でも後悔はしてない。

 ダンジョンは神が全人類に課した試練だ。

 なるべく多くの人に試練を味わってもらおう。

 俺みたいに命を取られるわけじゃない。

 金持ちが金を取られるぐらいなんだ。

 そんなの屁でもないだろう。


 もう、悪魔にでも何でも魂を売ってやる。

 そのぐらい必死なんだ。

 たぶん後世には酷い犯罪者として俺の名前が残るんだろうな。

 親と兄弟と親戚には迷惑を掛ける。

 あとで親戚への謝罪の手紙を書いて、藤沢ふじさわに持たせておこう。


 何となく気分が楽になった。

 もう気分は破れかぶれだ。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               67,467万円

上級ポーション2個             606万円

彫像10体                  10万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計               0円 68,083万円 68,083万円


ファンド収支メモ


俺の出資1100口       110億円


              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

カイザーウルフ60体          4,500万円

ドッペルオーク12体            600万円

シャーマンオーク12体           720万円

エンペラータランチュラ12体      1,056万円

メイズスパイダー12体         1,020万円

エレファントスレイヤー12体      1,440万円

殺処分ロッカー8つ  4,216万円

人件費        1,000万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計          5,216万円  9,336万円  4,120万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -64億円

出資金          110億円


 殺処分事業を始めた。

 3650億が集まればとりあえずの役割は果たせる。

 殺処分のお金が俺の収支に入らなくなったが、3650億に比べたらそっちの方が良い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る